9 反省会?
レイパナラ村から魔王教本部へ戻った僕達は、早速今後の対応について話し合うことにした。
なにせ、僕はただの社会科見学くらいのノリで村へ行ったのだが、流れ?で思わぬ方向に話が進んでしまったからだ。
「ウル君、今回の件は、もともと予定していたの?」
「そうですねえ、魔王様をレイパナラ村の領主にとは考えていましたが、初日で上手くいったのは、ある意味予想外でした。たまたまハズセルさんに出会ったことが、今日動いた大きな要因でしたね。」
「そうなんだ。でも、考えがあるなら、事前に言ってくれると助かる。僕も何も分からないんじゃ対応のしようがないからね。」
「申し訳ございません、魔王様。以後、気を付けて行動いたします。」
ちょっと先輩風を吹かせてみた。先輩じゃないけど。
でも、『ホウレンソウ』は大事だって、元の世界じゃ社会人の一般常識みたいになっていたからね。
この世界にそういう概念があるのか分からないが。
てか、最初から僕を領主にする気満々だったんじゃないか!
僕が拒否ったら、どうするつもりだったんだよ!
いや、ないか。あの爽やか笑顔で頼まれて、「無理!」とは言えないか。
というより、言わせない雰囲気を持ってるからな、ウル君は。
しかし、今回たまたま何とか話が収まったから良かったものの、今後も同じように行くとは限らないし、先のことを考えないとなあ。
はっ!いつの間にか、この世界の統一をしなければならないような気になってしまっている!
これもウル君の術中に嵌まっているということなのか?
なんと、末恐ろしい子!
と、兎に角、僕は気になっていることをウル君に聞いてみた。
「村の安全を保障するため、魔王教から1名派遣するってことだったけど、それだと今後同じようなことを続けるのは難しくないかな?」
「ええ、そうですね。今回は、村の護衛がいなくなってしまったため、そのような措置をとりましたが、できれば避けたいところですね。レイパナラ村に関しても、今後は信用できる護衛を金銭で雇うことになるかも知れません。」
「そうだよね。」
さらっと言ってたけど、護衛と思われる二人はウル君がどこかに連れて行ったような?あれ、僕の勘違いかな?
そう考えていると、ウル君は続けて、こう言った。
「しかし、村を回っているときに、数名魔力を持っているのを確認しました。本人達は恐らくその自覚がないと思われますが、そういう村人に魔法の訓練を施せば、今後は自衛できる可能性も大いにありますので、その方向で進めたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「そうだったの?それは、勿論いいよ!」
なるほど、ウル君は魔力感知ができるから、そんなところも見てたのか。
さすが、抜け目ないな。
それに、村の人達で自衛できるという選択肢ができるのはありがたい。
「ところで、魔王教って、お金はどこから得てるのかな?ほら、あの時、自分達はお金は必要ないって言ってたじゃん?でも、この本部見てても思うんだけど、結構お金持ってる感じじゃん?その辺どうなのかなあって。」
ここで、僕は、前々から気になっていたけど、なんとなく聞くに聞けなかったことを流れに乗じて聞いてみた。
因みに、この世界もお金の概念はあって、特に都市部ほど貨幣での取引が一般的であるくらいの知識は僕も持っていた。
「お金…ですか…」
あれ?なんかまずいこと聞いちゃった?
「魔王教のお金の管理は主にエルの仕事でして。私も、正直なところ、あまり詳しくはないのですが、収入に関しては、未開地にある、人間にとって貴重だとされている鉱物等を採取して、それを人間社会で取引して得ているようです。」
「お役に立てず、申し訳ございません、魔王様。この件は、エルに話してもらいましょう。エルお願いします。」
「………あの、我々の…お金に関しましては…まずは、…どのように…得ているか…
「うん、エル君、この話は、また時間を作ってじっくり話そう。」
何だかとても長くなる予感がしたので、とりあえず後回し。
ウル君の話の通りなら、人間達から強引に奪ったりしてる訳じゃなさそうなので、まあ問題ないだろうし、お金に困っていないなら後回しでも良いだろう。
ただ、彼らもそうやって収入を得ているのなら、今後は、僕も手伝わなければなるまい。
彼らのために尽力するって決めたし、いつまでも無職という訳にもいくまい。
僕は、この時にそう固く決心したので・あーる。
とここで、ウル君が話題を変えて質問してきた。
「ところで、魔王様。今回実際に魔法が使える人間と戦ってみていかがでしたか?」
「そうだねえ、初の実戦にしては、我ながらかなり上手く魔法を使えてたんじゃないかな?」
「ええ、魔法の使い方はお上手でした。発動までの時間がまだ少しかかるようですが、それはこれからどんどん短くなるでしょう。」
「あと、あのムキムキマッチョマンのパンチ受けても全然痛くなかったんだよね。実は、僕ってかなり強いかも。」
「それはなによりです。確かに魔王様はお強いと思います。例え魔法を使えても、並の人間では傷一つつけることはできないでしょうね。」
んもお~、ウル君めっちゃ褒めてくれるやん!話してて気分が良いね。
そう思って浮かれている僕を見透かすように、ウル君は続けた。
「しかし、それは彼が並の人間だったからです。そうでなかったら、もしかするといくら魔王様でもダメージがあったかも知れません。」
「というと?」
「人間にも強力な魔力と魔法を持った者は存在します。具体的には、軍隊の一部や高ランクの冒険者がそれにあたります。」
「ほう。」
「彼らは人間でありながら、強力な魔獣をも倒せる実力を持っているのです。今まで我々が容易に動けなかったのも、彼らの存在があることが大きいと言えます。」
「ふむふむ。」
「それに、あの大男が言っていた『魔法の本当の使い方』という言葉を覚えていらっしゃいますか?」
「そういえば、なんかそんなこと言ってたような。」
「あの男が使えたのは正直意外でしたが、あれを実戦で使ってくれたのは運が良かったと、私は思っています。」
「どういうこと?」
「魔力の本質は、魔法を使うめのものではないということです。」
「うーん、ちょっとよく分からないな。」
「魔力を使うということは、この世界にある力の一部を借りているようなものです。」
「それと魔法を使うことはどう違うの?」
「部分的には、同じです。しかし、より洗練された使い方ができる者は自分の力そのものの様に使うことができます。」
「つまり、あの男は魔力でパンチの威力を上げていたってことなの?」
「ご明察です。因みに、打撃だけに限ったことではありません。防御する力も上げることができますし、魔力を持った者同士の戦闘においては、最重要技術と言っても過言ではありません。」
「なんと、それなら最初に教えてくれても良かったのにい。」
「本来は、上級者向けの技術で、【魔道煉爆術】(マドウレンバクジュツ)と呼ばれています。単に煉爆術とも呼ぶようですが、この技術を習得できる者は魔力を持った者でもそう多くはないのです。それに、まずは基本的な魔法から覚えた方が良いことに違いはありませんので。」
「僕にもできるのかな?」
「勿論ですとも!魔王様なら間違いなく習得できます!私はそう信じております!ただ、まずは基本的な魔法の使い方を引続き習得していきましょう。それから、魔力感知までできた方が、煉爆術を習得し易い傾向にあるようなので、まずは魔力感知できるレベルまでスキルアップされてみてはいかがでしょうか?魔力感知も人間の間では特殊能力として考えられているようで、【未知の知】と呼んで特別視している技術ですから。」
「へえー、ウル君がそう言うなら間違いないよね。分かった。まずは、魔力感知(未知の知)ができるよう訓練してみるよ。」
「そして、魔王様。魔力感知ができるようになりましたら、煉爆術を覚える前に是非習得していただきたい技術があります。」
「うへ?まだ何かあるの?」
「【魔道流操術】(マドウリュウソウジュツ)という技術です。」
「それは?」
「本来魔力は、体内より溢れ出て湯気の様に消えていくようになっているのですが、これを体の周りに留めておくという技術です。」
「それができると何が違うの?」
「魔力量の最大値は生まれながらに決まっていると言われているのですが、流操術を使えると、使えない場合と比べて約2~4倍の魔力を使えると言われています。そして、流操術は同じ魔力量で魔法の威力を約2~4倍にできる技術でもあるのです。」
「それはすごいな。」
「ええ、ですので、おそらく人間では習得している者の数は少ないと思われますし、当然、相当なセンスと訓練が必要です。」
「訓練かあ…」
「しかし、魔王様であれば全て習得できると信じております!それに、全て習得された魔王様であれば、間違いなくこの世界に敵はおりません!ですから、一緒に頑張りましょう!」
「う、うん。」
ウル君の熱量が凄いので圧倒されたが、確かになかなかに魅力的な話だ。
もしかして僕、最強になっちゃうのか?なっちゃっていいのか?
そしたら、案外、異世界統一楽勝なんじゃね?
そんな感じで呑気に考えていたのだが、そこからの訓練が今まで以上の地獄になることを、この時の僕はまだ知らない。