8 レイパナラ村 其の四
(おまけ)がとても長くなってしまいました。
ヒュン!
「だだいま戻りました、魔王様。さっ、それでは、話を進めていきましょうか。」
ウル君は移動魔法で戻ってくるなり、そう話し出した。
「おかえり、ウル君。あれ、あの二人は?」
一緒に移動したムキムキ男とヤバ男の姿がなかったので、僕はウル君にこう聞いた。
すると、
「これからの話し合いに差し障るかも知れないので、あの二人には別の場所へ移動してもらいました。」
「別の場所って?大丈夫なの?」
「ええ、ここから少し離れたところです。あの二人なら大丈夫でしょう。たぶん。」
なんか含みのある言い方だが、ウル君に限って「ぶっ殺しておきました☆」ってことはないと思うので、まあ彼の言う通り大丈夫なんだろう。そういうことにしておこう。
「それで、話を進めるって具体的にどうするの?」
「まずは、領主からですね。そこのあなた。そう、あなたです。こちらへいらしてくれませんか?」
僕の問いに答えながら、ウル君は領主の方を見て先程ヤバ男にしたように領主を呼んだ。
領主はそれまで呆然と立ち尽くしていたが、声を掛けられて急に我に返ったようだった。
だが、次にとった行動はヤバ男のそれとは違った。
逃げた。
脱兎のごとく、思いっきり、全力で。
なるほど、これは『全力逃げ』いや、『全力おじさん』かな。
などと僕はしょうもないことを考えていたのだが、ウル君達も特に追う様子もなかったので、一応聞いてみた。
「逃げちゃったけど、このままでいいのかな?」
「村の外に逃げるというのなら、敢えて追いかける必要もありません。それにこれは彼が選んだ道です。そうしたいというのなら、そうさせておきましょう。」
It's cool!
少しドライな感じもするが、まだ若そうなのに、ウル君達観し過ぎなのでは?
僕がそう思っていると、ウル君は今度はハズセルの方に話しかけ始めた。
「ハズセルさん、ご覧の通り、領主はいなくなってしまいました。そして、本日よりこのレイパナラ村の領主は、ここにおられます魔王様となります。」
「あなたには、これからこの世界の統一のためご多忙になる魔王様に代わってこの村の管理をお任せしたい。よろしいですね?」
滔々と話すウル君の話をポカーンとした顔で聞いているハズセル。
一応コクッコクッと頷きながら聞いているので、理解はしているのだろうか。
「…いや、え?ちょっと、待ってくれ!あんたらさっきの酒場の奴らだよな?ってか、その見た目…いや、じゃなくて、魔王?いや、じゃなくて、領主様がいなくなるって…いや、じゃなくて、俺がこの村を管理?ちょっと、待ってくれ!あんたら一体何言って…何者だ?一体、何が起こったんだよ…?」
理解していなかった。
それはまあそうか。僕もこの状況をきちんと理解している訳ではないし。
ハズセルにとっちゃなおさらだろう。
それから、ウル君は努めて冷静にかつ根気よくハズセルに説明していた。
ハズセルは意外にも、僕達の話を逃げ出しもせず、真面目に聞いてくれた。
「大丈夫ですよ。我々には農作物もお金も必要ありませんし、何より我々の目的はあなた方も含めてこの世界を住み良いものにすることですから。ねえ?魔王様。」
「え?あ、うん。」
「ということでハズセルさん、あなたが我々の出した条件を守ってくださるのなら、我々も約束を守ります。守ってくれますよね?」
「………分かりました。」
最後がなんか脅しみたいな感じになってたけど、一応ハズセルは了承してくれた。
僕等が出した条件は、大まかにいうとこうだ。
・レイパナラ村の領主は魔王とする。
・通常の村の管理は、ハズセルが代理として務める。
・余分な農作物等を売却して得た収入は村のものとし、村のために使う。特定の個人または集団で占有することを禁止する。
・村全体として「キメラ」を人と同様に扱う。また、そのように啓蒙・教育する。
そして、ハズセルとの約束はこう。
・年貢制度の廃止。
・村の安全は魔王教が保障する。
・魔王教は村人に危害を加えない。
領主の家族には、他の村人と同じように働いてもらって、
住居は、さすがに追い出す訳にもいかないかなと思って、
旧領主邸の一角に住んでもううことにした。
旧領主邸には、何故か女の子ばかり下働きでいたみたいだが、
この子達は、村の皆で協力して育てていくということで、ハズセルには了承してもらった。
細かなところは、また話し合いでということになった。
まあ、他の村人そっちのけで決めたことだし、正直全ての条件が直ちに履行されるなんて、僕は勿論、ウル君達も思っていないようだった。
だが、少なくともハズセルは約束してくれた。
なら、何年かかるか分からないが、託してみようじゃないか、この男に。
最初から全て上手くいくなんてことはないのかも知れないが、まずは一歩踏み出してみることが大事だ。キリッ!
ここまできてようやくウル君のやりたかったことが分かった気がしたよ。
てか、ウル君、ひょっとしてこれ全部『計画通り』なのか?
だとしたら、なにそれこわい。
こうして、レイパナラ村で起こった一連のごたごたは一旦収束した。
今回の件を通して、彼らに対するこの世界の人達の反応を垣間見たこと、そして、彼らの成し遂げたいことを考えて、それまで、どこか他人事だった僕の心が少しずつ変化していた。
「罪深き魂よ…」
「ん?ウル君何か言った?」
「いえ、私は何も。」
あれえ?何か聞こえた気がしたけど、空耳かな?
エル君…はないか。
ま、いっか。
因みに、僕が壊した領主邸の門は、エル君が回復魔法で直してくれてました。てへぺろ(・ω<)
(おまけ)
「…………………………」
一体どこで間違ったんだろうな…
俺は、ガキの頃から体がデカかったし、喧嘩に負けたこともなかった。
その上、魔法も使えたもんだから、天才だのなんだのって、周りからもてはやされていた。俺自身も、自分は特別なんだ、ってそう思っていた時期があった。
大人になれば、冒険者にでもなって、欲しいものは何でも手に入れて、好きに生きていけると思っていた。
だが、実際はそうじゃなかった。
冒険者になったまではよかったが、性に合わなくてすぐに辞めた。
それからは、あっという間だった。
盗みもしたし、女も犯したし、人殺しもした。落ちるところまで落ちた。
自分でも、ろくでもねえ人間だと思ったよ。
そんな頃に、今の子分と出会って、それからしばらく二人でふらふらしてたときに、辺境の村の護衛を探してるってんで、興味本位で行ってみたら、あっさり採用された。
そこの領主も俺に負けず劣らずの悪党だったが、金払いも良かったし、女も輪してもらったりして、たまに出てくる魔獣を殺すだけで、この待遇なら悪くねえと思っていた。
そう、今日までは。
いつもと同じ、なんてことない日になるはずだったんだ。
いつも通り旦那の後ろについて、ただ睨みを利かせるだけ。
ちょっと前の男の時なんて全く俺の出番もなかったから、門を壊して入って来たって聞いたときは、むしろワクワクしたくらいだ。
だが、奴らの顔を見た瞬間、自分でも驚いた。
俺は、ビビってた。今まで、誰が相手でも怖いなんて思ったことねえ俺がだ。
別に奴らが「キメラ」だったからじゃねえ。
奴らの目を見た瞬間、俺の本能が言ってたんだよ。
「奴らには手を出すな!今すぐ逃げろ!」って。
俺だって、それくらいはわかんだよ。
けど、そんなことできる訳ねえだろ!
んで、そんな俺の心情を嘲笑うかのように奴らは平然としてやがる。
そこからは地獄だ。
とんでもねえ魔法で移動させられたかと思ったら、俺の考えを見透かすように、一番強そうな奴が出て来やがる。
と思ったら、ちょこまか逃げておちょくりやがって。
最後は、俺が全力で撃った打撃ですら、虫でも止まったかのような反応だった。
こっちは拳潰れてんだぞ!
それなのに、簡単には殺しもしねえ。
ちくしょう…俺は一体どうすりゃよかったんだよ…
「アニキ!」
「…あ?どうした?」
「よかった!大丈夫なんすか?」
「…ああ、そうみたいだな。」
「大変なんすよ!俺ら、奴らに未開地に置き去りにされて…」
「未開地?………っふ、ハハハハハ!」
「アニキ?何がそんなに…」
「面白れえじゃねえか!ここから生きて帰れるならやってみろって訳か!」
「アニキ~大丈夫なんすか?俺達。」
「ああ!やってやろうじゃねえか!行くぞ!」
「あ、アニキ待って~。」
「………だが、戻れてもあいつらとはもう二度と関わらねえ……」
「アニキ~、それでも俺は、ずっとアニキについて行きますから!」
「うるせー」
「アニキ~」