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7 レイパナラ村 其の三

トン、ボガッ!


え?


領主邸の門、壊れた…


いや、確かに気合は入ってたかも知れないが、普通にノックするつもりで叩いたんだ!こんなはずじゃなかった!信じてくれ!


これを見ていたウル君が、


「魔王様は、人間と接する際は、力を抑えられた方が良いかも知れませんね。」


と、僕が動揺しているのとは裏腹に、めっちゃ普通のトーンでアドバイスをしてくれた。


「うん…そうだね…」


僕が、目の前の器物損壊事件をどうしたものかと考えながら、上の空で答えていたら、奥から大きな声を出しながら、男が出てきた。


「んだコラ!何してんだ、てめえら!ぶっ殺されてえのか!」


うわあ…なんか怖そうな人出てきた。見た目ヤバい…あと、なんか服装もヤバい。


「いや、あの…

「てめえら、自分が何したか分かってんだろうな?こっち来いや、コラ!」


聞く耳を持ってもらえないようだ。

仕方がないので、人相の悪いヤバ男の方に向かった。

すると、ヤバ男は「こっち来い!」と言いながら、僕らを領主邸に誘導するので、渋々ついて行った。


「ここで、待ってろ!いいか、逃げるんじゃねえぞ!逃げたって無駄だからな!」


ヤバ男は、僕たちを領主邸のある部屋に連れて来ると、そう言い残して出ていった。


にしても、言動の割に結構綺麗な部屋に通されたな。客間じゃないのこれ。

とか思いつつ、ウル君達と「ごめんねえ」「いえいえ」なんてやり取りしながら、しばらく待っていると、部屋の扉が開いて、恰幅のいいおじさんと筋肉ムキムキの大男がさっきのヤバ男とともに入って来た。


「まあ、そこに座りなさい。」


恰幅のいいおじさんが僕たちの前の椅子を指しながらこう言ったので、僕達はそれぞれ目の前の椅子に座った。

恰幅のいいおじさんも対面の椅子に座ったのだが、ヤバ男とムキムキ男は何故かおじさんの後ろで腕組みして立ったままだった。


「それで、君達は何故あのようなことをしたのかな?まあ、如何なる理由があろうとも他所の家の門を勝手壊すのはいけないことだ。」


御尤もです。でも、信じてもらえるか分からないが、ノックしようとしただけです。僕がそう思いながら、なんて言い訳するか考えていると、先にウル君が話し出した。


「本日は、レイパナラ村の領主様にお会いするために参りました。」


すると、恰幅のいいおじさんが、こう答えてきた。


「領主は私だが、一体何の用があるのかね?君達は村の者でないのだろう?本当に私と話をしたいのなら、まずは顔を見せるくらいの誠意を見せてもらいたいものだね。」


それも御尤もなんだが、顔を見せるのは立場上避けたいんだよなあ。

どうしよう?ウル君とばかりに横を向くと、なんとウル君は被っていたフードを脱ぎ始めた。反対を見るとエル君も同様だ。僕も慌ててフードを脱いだ。


すると、僕達の顔を見た領主達は、皆同じように口を開け、目を見開いていた。


一瞬、時が止まったようだった。それを動かしたのは、やはりウル君だった。


「実は今日は…


「旦那!逃げろっ!」


ウル君の話をぶった切ってムキムキ男が叫んだ。

ムキムキ男の声に驚いたのか、飛び上がるように立ち上がる領主。

それと同時にムキムキ男は、僕目掛けて右の手のひらを向けた。


だが、次の瞬間、景色は村の広場になっていた。


そして、僕は、尻もちをついた。


「魔王様!大丈夫ですか!すみません、少し予定が狂ったもので。」


心配してくれるウル君、そして無言で手を貸してくれるエル君、優しい。


「何しやがった!まさか移動魔法か?だが、全員…だと…?」


ムキムキ男は、何が起こったか分からないという感じで尻すぼみに叫んだ。

領主とヤバ男は、何度も辺りを見回しながら、立ち尽くしていた。

もともと広場にいた他の村人達は、この状況を見て、凄い顔になった後、それぞれに様々な叫び声を上げながら、散り散りになって逃げていった。

唯、一人を除いては。


「まあ、お話は後程ということで、まずは、領主以外のそこのお二人にはご退場願います。」


ウル君は、ムキムキ男とヤバ男を交互に見ながらそう言った。

そして、僕に向かって、


「あの一番大きな男は魔法が使えるようです。試しに一度相手をされてみてはいかがでしょう?良い練習になると思いますよ?」


と、僕にだけ聞こえるように小声で言った。


ええ…練習ってそんな。

でも、あのムキムキ男だけ、僕をもの凄い形相で睨んでいる。

殺してやる!って顔でしょ、あれ。


よく分からないが、「少し予定が狂った」と言っていたので、やはり何か考えがあるのだろうか?

これはウル君の言う通りにした方がいいかも知れない。

まあ、僕がダメでもウル君達がなんとかしてくれるでしょ、たぶん。

そう覚悟を決めて、少し前に出た途端、ムキムキ男は先程領主邸でしたようにまた僕に手のひらを向けてきた。

次の瞬間、火の玉が僕目掛けて飛んできた。

やばっと思って避けたが、火の玉は進路を変えて僕についてくる。

それならってことで、僕は攻撃魔法で火の玉目掛けて水を出し相殺する。

おお、上手くいった!

すると、次は地面が動き出し、石やら土やらが尖った状態で飛んできた。

僕は、距離をとりながら、風を生み出しそれらを吹き飛ばす。

少し当たったが、体が硬いせいかダメージはない。

ちょっと失敗したが、我ながら上手い対応だったぜ!

これを見ていたムキムキ男は、


「ちょこまか逃げ回りやがって!攻撃魔法の本当の使い方を教えてやる!」


と叫んだと思ったら、僕に突っ込んできた。

接近戦か?しかも普通に握り拳だし。僕殴り合いなんかしたことないよ!

一発目は何とか躱したが、二発目は避け切れない!

見事に脇腹にヒット!これは、イッタ~くない?痛くなかった。

ムキムキ男は、仰け反るように後ろに下がり僕から距離をとった。

右手を抑えている。苦悶の表情だ。


「ちっくしょう…全然効いてねえじゃねえか。キメラってのは、全部こんな化け物なのかよ?こんな奴ら三体もどうやって殺すってんだ。こんなのは、軍かAランクの仕事だろ。」


ムキムキ男は、そう独り言のように言うと、


「…もういい、お前らの好きにしろ。殺せ。俺は、命乞いなんてみっともねえ真似はしねえからよ。」


となんか勝手に話を纏めている。


ええ…その右手大丈夫なの?そう思って、(治してあげた方がいいかな)と思っていると、、


「エル!あの男の右手を治してやってくれませんか。」


と、ウル君が急に大きな声でエル君に向かって言った。

エル君は「はい」と答えてムキムキ男に近づいて行った。

すると、ムキムキ男が、


「治す?治してどうする気だ!それでまた俺をボコボコにでもする気か?俺は、殺せって言ったんだよ!てめえら、どこまで畜生…ウッ」ドサッ。


ムキムキ男は、お話し中にウル君に気絶させられた。

ウル君、魔法で移動したのだろうか。

そして、ウル君が爽やかな笑顔で、


「さっ、エル、今のうちに。」


さらに、ヤバ男の方を向いて、


「そこのあなた。そう、あなたです。こっちに来てください。」


と話しかけた。

ヤバ男は、え?俺?みたいな顔をしつつも、ウル君の言う通りにしている。

エル君がムキムキ男の右手を治したところで、ウル君が僕とエル君に向かって、


「魔王様、私はこの男達二人を連れて少しここを離れますので、しばしお待ちを。」

「エル、領主とハズセルさんがどこかに行ってしまわないように見張りをお願いします。すぐに戻りますから。」


そう言って、ムキムキ男とヤバ男とともに、移動魔法でどこかに行ってしまった。


広場には、僕とエル君、領主とそれから一部始終を見ていた唯一の村人、ハズセルだけが残っていた。



(おまけ)

レイパナラ村より約数百キロメートル、リギヴデ山とセタレイトニア王国国境の中間に近いとある場所にて。


「さあ、到着しました。ここは、セタレイトニア王国国境から少し離れた未開地の中です。因みに、王国はあちら側ですね。ただし、レイパナラ村は今日から魔王様が領主となりますので、あなた方お二人の仕事はもうないかも知れません。」

「それでもよろしければまたお越しください。我々は、いつでも歓迎しますよ。」

「そんな顔しなくても大丈夫ですよ。あなた方なら、きっと戻れます。なんなら、いっそここに住んでしまうというのも悪くはないかも知れません。」

「ただ、ここは魔獣も多いので、早くその方を起こしてあげた方が良いかも知れませんね。」

「では、また。さようなら。」ヒュン!

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