4 祝?魔王外出!
村かあ、こっちに来て初めてウル君達以外の人に会うんだなあ、ああ、なんか緊張してきた。
僕は、そう思いながらウル君達の準備を待っていた。
「魔王様はこちらで椅子にお掛けになってお待ちください。」
とウル君に言われていたので、その通りにして待っているのだが、結構時間かかってるな。
何かトラブルでも発生したのだろうか、少し様子を見に行った方がいいかな?とそんな風に考え始めた頃、部屋の扉が開き、ウル君達が戻ってきた。
しかし、部屋に入って来たのはウル君達だけでは、なかった。
ゾロゾロ…ゾロゾロ…
(ああ、これは、まさかあのパターン…か…?)
僕は以前の記憶とともに、そう嫌な予感がしていた。
僕の方に歩み寄って来たウル君は、僕の少し右に寄って振り返り、全員が部屋に入ったのを確認して、口を開いた。
「本日、いよいよ魔王様がレイパナラ村へ出発される。」
「これが、我々にとってこの世界がよきものになる第一歩となるだろう。」
「皆、盛大に魔王様を見送ろうじゃないか!」
そう言うと、ウル君は再びこちらに振り返って、
「どうか、魔王様からも皆へ何か一言お願いいたします。皆この時を待ち侘びておりましたものですから。」
ああっ!もうっ!やっぱりっ!
予感的中だ。
その人数50名超。
ウル君含む4名の幹部と、今この本部にいるその他の魔王教メンバー達がきちっと整列し、一堂に会す。
そして、その誰もが、今僕に注目している。
コミュ障おっさんにとって、地獄の時間が再び訪れてしまった…
そう、前にもあった。
僕がこの世界に来た次の日のことだったか。
やっとウル君と気軽に話せるようになったかなと思い始めたくらいのタイミングで、「少しお待ちください」と言われ、今日みたいに椅子に座って待っていたら、今日みたいにゾロゾロと入ってきて、そう、今日みたいに…
あの時もいきなり目の前に何十人もの人が現れ、ウル君が「魔王様がご降臨になった。」と言って話し出したと思ったら、しばらく話した後、その皆の前で「魔王様からも…」と僕に話を振ってきたものだから、「え、えー、ほ、本日はお日柄も良く…」ってな感じで何かしょうもないことを皆の前で話すという地獄のような状況だった。何話したか正直よく覚えていない。
相手が一人、もしくは少人数ずつ時間をかけて次第に打ち解ける分には問題ないのだが、知らない大人数の前で、しかも、台本も練習もなしでいきなりスピーチするってのは、コミュ障おっさんにとっては、地獄の時間だったぜ。
魔王だからって、しょっぱなから地獄を味わわせてくれたってのかい?
粋な計らいしてくれたもんだぜ!
だから、あれ以来ウル君には、皆を一堂に会させての『いきなりスピーチ』はダメだよってお願いしておいたんだけどなあ。
ウル君の方も分かってくれていたみたいで、それから今日までは、ウル君エル君の二人で主に僕の世話をしてくれていて、僕の方はというと、この本部内で他の魔王教メンバーに会ったら、その時にちょこちょこっと挨拶を交わす程度でここまで過ごしてきた。
でも、そうかあ、ウル君としては、今日くらい皆を集めたかったんだろうな。
だって、ウル君は魔王教№1幹部だからね。
魔王教のリーダーとして、皆を先導し、纏め、そして何より希望を与える存在でなければならない立場だからね。
ウル君達からすれば、僕は本当ならこうやって皆の前で希望を与えるようなことをもっと語るべき存在なんだと思われていたに違いない。
それを僕がストップかけちゃったものだから、もしかすると今まで悶々としていたのかも知れない。
だとしたら、僕は転生してから今までずっと僕に良くしてくれている彼らの期待に応える必要があるんじゃなかろうか。
それに、これはもう乗り掛かった舟だ。
そうして、意を決した僕は口を開いた。
「今日は、僕のために態々こうして集まってくれてありがとう。」
「正直、まだ先のことをどうこうと確約して言うことはできない。だけど、これからは君たちのためにできることは、それがなんであれ、誠心誠意尽力することを約束しよう。」
「ただ、その過程で君たちの助けを借りることも多々あると思うので、その時は力を貸して欲しい。特に、幹部の4人には頼ることも多くなるかも知れない。その時はサポートをお願いしたいので、よろしく。」
「それじゃあ、ちょっと行ってきます。皆今日はどうもありがとう。」
そう言うと、それまでシンとしていた部屋に歓声が上がった。
なんか皆嬉しそうなので、一応、これで良かったのだろうか?
決して、家賃のことを言われるのを恐れて決心した訳でないことを付け加えておこう。
そして、僕はローブを身に纏い、ウル君エル君とともに一番近い村、セタレイトニア王国辺境のレイパナラ村へと向かった。
(おまけ)幹部さんいらっしゃ~い!のコーナー
魔王教幹部の話が出たので、ここで4人の幹部を紹介しておこう。
因みに、幹部は魔王教のメンバーによる投票で決まっているみたいで、得票数順に№1~№4となっているのだとか。
4人なのは、この世界の4つの国に対して、その動向等を調査・監視する担当の各リーダーにするためらしい。
では、早速。
1人目は、もう御存知だろうが、ウル君こと魔王教幹部№1のウルデスタ。
魔王教の中でも特に優秀みたいで、身体能力や魔力が一際高いのはもちろんのこと、魔法に関する知識等も豊富だ。僕らがいる本部内の書籍もほとんどこのウルデスタが集めたものらしい。そして、見た目はイケメンでありながら、性格も穏やかで、おっさんの僕でも爽やかな笑顔を向けられるとクラっとするレベル。
でも、普段はクールなのに、僕のことになると、たまに周りが見えてないような気がして、おじさんちょっと心配です。
2人目は、エル君こと魔王教幹部№2のエルーオソン。
ガタイはいいのだが、部屋にいてもすぐに気付かないくらい無口で大人しいイケメンだ。
だが、その実力は確かで、攻撃系の魔法のみならず、回復系の魔法に特に秀でているようだ。
魔王教№2だから、メンバーからの信頼も厚いと見える。
正確な年齢は分からないが、ウルデスタよりも2つ3つ年上のようだ。
道理でなんかウルデスタよりお兄さん感出てると思ったわ。
性格は、ウルデスタよりさらに温厚というか、むしろ感情が全然表に出ないというか。コミュ障気味なのは、僕に似ているかも知れない。親近感が湧く。
3人目は、魔王教幹部№3マウラボーゴ。
少年のような見た目で、明るくやんちゃな感じのするボーイ系イケメンだ。
しかし、見た目とは裏腹に攻撃系魔法を得意としていて、狭い範囲の移動系魔法も使えるらしい。
ウルデスタいわく、「非常に高い戦闘能力を持っている」そうだから、人は見かけによらないというか、ちょっとおじさんビビってます。
普段は、明るくて人懐っこい少年だから、その点は安心している。
4人目は、魔王教№4ユイニューリャ。
この方のためにこのコーナーを設けたといっても、過言ではない。
尽く美形の彼らの中にあって、一際美しい女性のような見た目のお方だ。
元の世界の僕なら、一瞬でハートを撃ち抜かれているに違いない。
しかも、ユイ様はいつもニコニコしていらっしゃって、こんなコミュ障おっさんに対しても、とても優しいのだ。でも、冷たくされたら、それはそれでいいかも知れない。今はいつか二人で一緒にお出かけするのが夢です。
あ、因みにユイ様は優秀な回復系魔法の使い手で、広範囲の移動系魔法も使えるそうです。
あと、魔力感知等の能力も使えるそうです。当然ですよね、ユイ様なら。
ああ、尊い。
以上、幹部さんいらっしゃ~い!のコーナーでした。