第78話 いったい何なのよあんたたち……
◇◇
すごい……。
月並みだし、すごく悔しいけど、今、目の前で繰り広げられているピートとニックの攻防はその一言に尽きると、私、イライザは思った。
「食らえ!! ホーリースラッシュ!!」
ニックが必殺の一撃を繰り出すと、ピートはすんでのところでそれをかわす。
衝撃波がぶつかった外壁は轟音とともに崩れ落ちていく。
堅い石で作られた壁をあっさりぶち壊すなんて……。
普通にありえないでしょ。
けど二人はまったく意に介さず、次の行動に移っていた。
「だああああああ!!」
ニックの振り下ろし。
けど素人の私から見ても遠いのが分かる。
あっさり回避したピート。
距離を取ってニックの出方をうかがうのかと思いきや、あえて差をつめてきた。
――ドンッ!
ピートの左拳がニックの脇腹に突き刺さる。
だがニックにダメージを与えられない。
「無駄、無駄ぁぁぁ!」
ニックが剣を右斜めに斬り上げた。
どうやらピートもニックにダメージを与えられないことは承知していたみたい。
驚きもせず、淡々と彼の背後に回り込み、今度は右足で背中を蹴り飛ばした。
……が、これも当然ダメージはない。
ちょっとだけよろけたニックは、すぐに態勢を整え、くるりとピートの方を振り返る。
しかしピートは既に上空高く舞い上がり、ニックの死角に入った。
「ちょろちょろと鬱陶しい!! これでも食らえ!!」
ピートの全身が眩しく光りはじめた。
まずいっ! 私も逃げなくちゃ!
光の檻の中に駆け込み、ガルーの背後に隠れた。
ゾンビになったからって私の主人には変わりないんだからね。
奴隷を守るのも主人としての当然の役目だわ!
「灼熱の光!!」
ガルーが得意とする必殺のスキルじゃない!
ステータスだけじゃなくて、スキルまで同化するなんて……。
ずる過ぎる!
――ピカッ!!
あたりが白い光に包まれ、思わず目をつむる。
――ガンッ!!
光の中から鈍い音が聞こえてきた。
それから派手に壁に打ちつけられる音も……。
「くっ……」
うめき声が耳に入ってきたところで、ゆっくりと目を開けると、口から血を流したピートがゆっくりと立ち上がるのが見えた。
でも何かおかしい……。
だって壁にめり込むほど強烈な一撃を食らったにも関わらず、あまりにも涼しい顔してるのだもの。
はっとなって視線をニックの方に向けると、彼は左の頬を真っ赤に腫らしていた。
どうやらうめき声を上げたのは彼の方だったみたい。
でも明らかに大きなダメージを食ったのはピートの方なのよ!
いったいどうなってるの?
まったく訳が分からない。
でも一つだけはっきりと分かったこともある。
それは……。
私の知る限り、二人とも人間の限界を超えた力を持っているということ。
つまり目の前の対決は、まさに人間の頂点を決める戦いと言っても過言ではないわ――。