第74話 たった一つの希望
◇◇
エンシェント・ブラックドラゴンのガルーが復活した。
しかも敵となって襲ってきている。
俺はソフィたちを引き連れて作戦本部の塔に入った。
「でもなぜだ? ガルーはマリウスの仲間だったんだろ?」
「ええ。でもすごく短気で騙されやすい性格でしたの。だからマリウス様はもっとも信頼できる人々に彼を封印したほこらを守ってもらうことにしたのですよ。確か……生まれ故郷の小さな村だったような……」
それを聞いて、俺とサンがはっとなったのは言うまでもない。
「サマンサばあちゃんの村か! しかしあの村の人々は……」
「その様子ですと村に何かあったのですね。きっとガルーは何者かの手によって召喚された後、だまし討ちにあったのでしょう。可哀そうに」
ソフィは手を合わせて首を振った後、ガルーのステータスについて教えてくれた。
腕力:5000
防御力:1500
魔力:1000
スピード:1600
主な攻撃:ブレス、尻尾のぶん回し、ひっかき、かみつき
耐性:火、氷、水、風
こんな感じなんだそうだ。
対する俺はというと……。
腕力:1700
防御力:1800
魔力:6500
スピード:2500
主な攻撃:殴る、蹴る、ホワイトスパーク、ホーリーフレア
ホーリーフレアは使い物にならないのは既に実証済み。
ホワイトスパークは火属性だからガルーには効かない。
となると接近戦に持ち込むしかないのだが、明らかに分が悪い。
「どうしたものか」と悩んでいるうちにルナがやってきた。
「ご主人様。みなさん第54層に避難済みです」
「ありがとう。君もみんなと一緒に第54層で待機してくれ」
「いえ、私は……」
整った顔をわずかに歪ませるルナ。
一緒に戦わせてください――そう言いたいのは分かっている。
しかしそういうわけにはいかない。
大量のゾンビが襲ってきた前回とは状況がまったく異なるからだ。
「ルナ。君はみんなをまとめる役目を担って欲しい。いいね」
「はい……」
ルナは後ろ髪を引かれるような重い足取りで部屋を去っていった。
これでここに残っているのは、サン、エアリス、カーリー、ピピ、ソフィの5人。
しかし彼女たちの力を借りてもガルーを撃破するのは難しい。
刻一刻と時間だけが過ぎていく。
だが状況はさらに良くない方へ転がった。
「ピート。わるいやつも一緒にいるみたいだよー」
「悪いやつ……ニックか?」
ピピが大きくうなずく。
なるほどガルーはニックにとどめをさされてゾンビになってしまった、ということだな。
当然彼ひとりでどうにかなる相手ではない。
やはりアルゼオンが裏で手を回しているのは間違いなさそうだ。
だが驚くのはまだ早かった。
「わるいやつもすっごく強くなってるよ!」
「なに?」
「ガルーとおなじくらい!」
「まじか……」
間違いない。【ステータス同化】だ……。
ガルー1体だけでも厳しいのに、同じステータスを持ったニックも相手にしなくちゃいけないなんて……。
「ピートさん……。どうしましょう?」
心配そうに見つめてくるサンに、「大丈夫だ」と声をかけてあげたいところだけど、今回ばかりは状況が悪すぎる。
「ずるいよなー。いきなりめっちゃ強くなってるだもん!」
エアリスが半ば投げやりに嘆く。
……が、その言葉でとあるアイデアが浮かんだ。
「だったらこっちもいきなり強くなればいい」
成功するかどうかは分からない。
分からないけど、たった一つの希望にかけるしかない。
俺は早速行動に移すことにした。
大逆転の賭けをするしかない――。