第70話 俺はソフィのことを大切にすると約束する!
ソフィと名乗る聖女(自称)に結婚を申し込まれた俺。
ちょっとだけドキドキしちゃったのは否めないよ。
だって女の子の方から言い寄られた経験なんて今まで一度だってなかったんだから。
けど本気で結婚なんてするつもりは当然ない。
「悪いがそれはできない」
「どうして?」
「だって俺はあんたのことを知らない。あんたは俺のことを知っているのか?」
「ふふ。そう言われればまだお名前をうかがってませんでしたわね」
そう無邪気に問いかけてくるソフィ。
白い頬に小さなほくろ。艶やかな黒髪に長いまつげ。はっきりした目鼻立ちにふっくらした唇。
こうして目の前にしてみると邪気のようなものはまったく感じず、むしろ昔からの知り合いのような心地よさすら感じるのは気のせいだろうか。
「ああ、ごめん。俺はピートだ」
「ふふ。これで私たち立派な知り合いですわ。さあ、愛の契約をしましょう!」
「でも……」
反論しようとした俺の唇をソフィは人差し指で抑えた。
「これから互いのことを知っていけばいいと思いません?」
ドキンと胸が高鳴った。
顔がかっと熱くなる――。
このままソフィの言う通りに『結婚』してしまってもいい気がしてきた。
……が、ふと目に入ったサンの悲しげな顔で我に返った。
「いやいや。お、お、俺には……」
「ふふ。別に大切な方がいらしても関係ないですわ。私たちの間に愛があれば」
ソフィがちらっとサンを見た。
も、も、もしかしてサンのことを俺の『大切な人』って勘違いしてるのか?
いや、確かに彼女は大切な人だけど、そうじゃないって言うか……。
そもそもサンは『人』じゃないしだな。
「……ん? 待てよ。もしかして……!」
俺は急いでステータス画面を開いた。
「どうかされたのですか?」
きょとんとしたソフィのステータスを確認する。
そして映し出された表示を見て、思わず笑みがこぼれた。
「あはは! やっぱりそうか!」
「い、いきなりどうしちゃったのですか?」
ソフィの両肩をつかんだ俺は、力強い口調で告げた。
「俺はソフィのことを大切にすると約束する! だから契約してくれないか?」
彼女は大きな瞳をさらに大きくしてポカンとしていたが、すぐに嬉しそうな眩しい笑顔になった。
「ええ! もちろんですわ!」
サンたちが不可解そうな視線を俺に向けている。
でもこれでいい。
俺はそう確信していた。
◇◇
そもそもダンジョンの第99層に、いくら『無敵の聖女』(自称)だとしても、女の子一人で暮らしている、なんて考えられないと思わないか?
たとえ教会が安全だとしても、水や食糧は確保できるとは思えない。
それに複数のモンスターを従えているのも不思議だった。
……となると考えられるのは一つしかない。
ソフィ自身がモンスターであること――。
ピピと同じように人間に変化できるスキルが使えるのだろう。
そこで俺は彼女のステータスを確認したわけだ。
結果は予想通りだった。
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名前:ソフィ
種族:堕天使
進化レベル:究極(聖女)
レベル:500
HP:35780
MP:157650
腕力:1200
防御力:1100
魔力:6785
スピード:1100
スキル:
リザレク、デバイン・レイ、ホーリー・プリズン、ホーリー・ウォール、エリクサー・ヒール、人間に変化
性格:非常に楽観的、天然
状態:運命の人との出会いを待つ
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正直言って、こんなにすごいステータスの持ち主とまでは想像してなかった。
しかも進化レベルが『究極』って……。
もしソフィを仲間にスカウトすることができたなら、【ステータス同化】のスキルによって、俺のHP、MP、魔力が大幅に強化されることになる。
この頃は仲間のモンスターが一気に増えたから、使役するのにMPの配分が難しいと感じていたところだった。現に半日はボケっとしたままのモンスターも少なくなかったからな。
MPが15万もあれば、まさに無敵。
無敵の聖女と彼女が言ってたのもあながち間違ってなかった、ってことか。
「私、嬉しいですわ!! この日が来るのをずっと待ちわびておりましたの!!」
目を輝かせながら喜びをあらわにするソフィ。
仲間になれば大切にするのは当然だし、仲間にするためには『主従契約』を結ばないといけないから『契約してくれないか』と問いかけたのも、別に間違っちゃいない。
けど……。罪悪感がハンパないのはなぜだろう……。
「あのぉ……。一応言っておくが、俺の言う『契約』はあんたの考えてる『結婚』とは意味がまったく違うんだが、それでもいいか?」
ソフィはニコリと微笑んだ。
「大丈夫ですわ。私は言葉にはとらわれませんし、そもそも『結婚』というものが何なのか分かりませんもの」
「でもさっき『結婚式をしよう』って……」
「ふふ。運命の人と結ばれる儀式のことでしょう? それくらいは知ってますわ。でもあなたの言う『契約』なるものが、結婚式の代わりになるなら、それでもいいのです」
「そういうものなのか?」
「ええ。だって、私を大切にしてくれる人間と再び出会えた――それだけでもじゅうぶんに幸せなのですから!」
「ん? 再び、って言ったか? ということは以前にも俺のような人間がいたってことか?」
「ええ、もちろん! マリウス様ですわ!」
「マリウス……って、魔王アルゼオンを封印した、英雄マリウスのことか!?」
「ふふ。その通りですわ。マリウス様と最後にお会いした時に、こう言い残してくださったの。『多くのモンスターを従えて君に会いにきた人間が運命の人だよ。その人と結ばれるんだ』と」
あの英雄マリウスが、俺がここに現れることを予言していた――。
いや、正確には『自分と同じ能力を持った人間の出現』を予知していたということ。
どういうことだ……?
そもそもなぜ彼はこんなところにソフィを置いていったのだろう?
「さあ、愛の契約をいたしましょう!」
色々と疑問はつきないが、ここでのんびりしている場合じゃない。
ソフィを仲間にした後、拠点に帰ってから考えることにしよう。
「よし、じゃあ確認するけど、俺の仲間になってくれないか?」
「はい! ピート様!」
こうして聖女ソフィが仲間に加わった。