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第67話 聖女(自称)との出会いは最悪で……

◇◇


 第99層――。

 大台の第100層の一歩手前まで、ピピ、エアリス、カーリーの3人は到達した。

 そこはとても静かな場所で、花畑には色とりどりの花が咲き誇っている。

 当然、モンスターの気配すらない。

 これまでかなり危険なフロアばかりをくぐり抜けてきた3人にとっては拍子抜けとしか言えなかった。

 と、そこでカーリーが何かを見つけたのか、一点を指さした。


「……あそこ。何かある」


 残りの2人が目を凝らしてみると、確かに何かある。

 さらに近づいてみると、どうやら屋根に大きな十字架がある建物のようだ。


「教会かなー?」

「いってみよー!!」


 もともと怖いもの知らずの3人は何の疑いもなくその建物に向かった。

 

 ――ギィィィ……。


 大きな木の扉を開ける。

 やはり教会だ。ズラリと長椅子が並び、先には赤い絨毯が敷かれた祭壇がある。


「あっ! 人がいるー!」


 エアリスの甲高い声に、祭壇の中央で必死に祈りを捧げていた若い女性が振り返った。

 青い修道服。優しそうな大きな瞳と、ふっくらした唇。

 まるですべてを包み込む聖母のような神々しさが感じられる。


「ねえねえ、なんでこんなところにいるのー?」


 無警戒のピピが祭壇に向かって飛び込んでいく。

 だが……。


 ――バチンッ!!


 祭壇の一歩手前で彼女は見えない壁に弾き飛ばされてしまった。


「いてて……」

「ふふふ。あなた方、もしかしてモンスターかしら?」


 ゆったりとした口調で問いかけてくる修道服の女に対し、ピピを抱いたエアリスが口を尖らせた。


「ちょっと酷すぎー!! ピピが何したって言うのよー!」 

「あら? ピピって、あのピピ?」

「ん? あんたピピのこと知ってるの?」

「ふふふ。私の知っているピピだとしたら、そうなるわね」


 そう言われたピピは、こめかみを指でぐりぐりしながら考え込んだ。

 そしてしばらくした後、「あっ! 思い出した!」とはね起きたのだった。


「じしょーせいじょ!」

「自傷性女? もしかして変態?」

「ち、違うわよ!! 自称、聖女でしょ! ……って、自称はいらないから! 聖女よ、聖女! 聖女ソフィとは私のことよ!!」


 ソフィと名乗った女が腰に手を当ててずいっと胸を突き出す。

 たゆんと大きな二つの山が揺れるのを見て、カーリーがゴクリと唾を飲んで、自分のと見比べる。


「……負けた」

「いやいや、カーリー。まだ分からないわよ。アレだって偽物かもしれないしー!」

「ちょっと! おっぱいも聖女も両方とも本物だから!」

「ふーん。あっそ。もうどうでもいいし。んじゃあねー」

「はい、またねー。……って、ちょっと待ちなさいよ! どうしてモンスターがここにいるのよ!?」


 エアリスたちは顔を見合わせて、うなずきあった。


「あはは! そんなのどーでもいいでしょー」

「……用がないから帰る。ただそれだけ」

「じしょーせいじょ。バイバーイ!」


 めんどくさそうなヤツには関わるな、とピートからの言いつけられていたのを彼女たちはちゃんと覚えていたのだ。

 その場を後にし始める3人。

 だが……。


「待ちなさいって言ってるでしょ!!」


 ソフィの声が響くと同時に、全身を鎧で覆い隠したモンスターたちがいきなり現れたかと思うと3人を取り囲んだ。


「やっぱりめんどくさいヤツだったねー。どうするのー?」

「……片付けるだけ」

「へへっ。やっちゃうよー!!」


 ばらばらの方向に散った3人。


「やってしまいなさい! セインツ・ナイト!!」


 ソフィの号令で鎧のモンスターたちもまた一斉に動き出したのだった――。

 

◇◇


 はじめはエアリスたちがセインツ・ナイトの群れを圧倒した。

 エアリスとカーリーのパンチは一撃で鉄壁の鎧をぶち抜き、ピピのホワイトスパークは鎧ごとモンスターを丸焦げにした。

 だが彼女たちにとって誤算が1つだけあった。


「生と死をつかさどる神よ。死せる者に蘇生の光を! リザレク!!」


 なんと聖女(自称)が何度もセインツ・ナイトを蘇らせたのだ。


「だからぁ! 自称はいらないって言ってるでしょ! っつーか、そろそろ観念なさい!」

「あんたの方こそ観念したらどうなのー? それに私たち何も言ってないから! えいっ!」


 それでもエアリスたちは戦い続けたのは、ソフィのMPがいつか尽きることを分かっていたからだ。

 だが彼女のMPはまったく尽きることはなかった。

 逆にエアリスたちの体力が底をつき始める。

 そしてついに……。


「ホーリー・プリズン!!」


 ――ガシャンッ!!


 戦い疲れた3人がひとかたまりになった隙をついて、ソフィは魔法の檻で彼女たちを捕えたのだった。


「ここから出してよー!!」

「……悔しい」

「じしょーせいじょめぇぇ! ひきょーだぞー!」


 3人が口々に文句を言ったが、ソフィは何事もなかったように祭壇に戻り、再び祈りを捧げ始めた。


「マリウス様……私のご主人様。あなたなのですか? この者たちを遣わせたのは……。会いたい。どうか私のもとへ姿をあらわしてください」


 彼女の寂しげな声が教会に響くと同時に、ピートの脳裏には無機質な女性の声が聞こえてきたのだった。


『逃走不能シナリオの条件を満たしました』



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