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第64話 【閑話】ニックにざまぁするまで⑦

◇◇


「おい、小僧。もたもたするな! とっとと石を運べ!!」


 ピートとの勝負に『引き分けた』後、僕、ニックは魔王アルゼオン様のもとに戻った。

 もう一度やれば次こそは僕が勝てるのは分かってるよ。

 でもただ勝つだけじゃダメだ。

 圧倒的に勝つ。

 そうすればサンの心は僕に傾くはず。


 ――最強の英雄のニック様こそ、ご主人様にふさわしいわ! ニック様、私を奴隷にしてください!


 ふふふ。綺麗な瞳を輝かせながら僕に懇願する姿が目に浮かぶよ。

 今のままの僕でもじゅうぶんにピートと戦える自信はある。

 けど僕は昔から近道が好きでね。

 アルゼオン様のお力を借りるのが近道だと判断したのさ。

 

 でも僕を待っていたのは雑用の山だった。

 しかもアルゼオン様の『犬』……つまり愚かにもアルゼオン様にとどめを刺された元冒険者のゾンビたちが僕の上官となのだ。


「なんだ? その目は。貴様、まだ『生きてる』からって調子こいてんじゃねえぞ!」

 

 ジェレミーめ。

 ギルドのお情けでSランクになれたヤツが偉そうに僕を見下ろすなんて……。

 屈辱だよ。


「けっ! てめえなんてピートがいなきゃ今ごろまだCランクにもなれてなかったクセによ」

「……なんだと?」


 今のは聞き捨てならない。僕は運んでいた石を放り投げてヤツにつめよった。

 死臭がプンと鼻をつく。

 普段ならむせてしまうところだろうが、頭に血の昇った僕はさらにグイッと顔を近づけた。


「てめえやるのか? ただでさえレベルが低かったくせに、ゾンビになってアルゼオン様から大幅に能力を強化してもらった俺に歯向かえるのか?」

「…………ふんっ。今日のところはこの辺で許してあげるよ。感謝するんだね。寛大な僕に」


 僕はさっき投げ捨てた石を持ち上げた。

 そこに大きな石がさらに積み上げられる。


「ギャハハハ。身の程知らずにはお仕置きが必要だもんなぁ」


 腰が痛い。腕がちぎれそうだ。

 息を止めてなきゃひざをついてしまう。

 苦しい……。


 ……でもなぜだろう。

 ちょっと気持ちいい――。


「うげっ。なにこいつ? 苦しいはずなのに恍惚としてやがる。気持ちわりいな」


 ゾンビに気持ち悪いと言われたくない。

 ……が、そんな侮辱すら春のそよ風のように心地いい。


「変態め……」


 ジェレミーは気分悪そうに白い顔をさらに白くしてどこかへ行ってしまった。

 ふふふ。そうか。

 僕には苦しければ苦しいほど気分が良くなる『チート』な能力が眠っていたってことだ!

 ああ、素晴らしいよ。

 さすが僕だ。

 だから誰でもいい。


 もっといじめてくれ――。


◇◇


 どれくらい時が経っただろうか――。


「おい、ニック。そこの水捨てとけ」

「はい! 喜んでー! あ、もっと桶に臭い水を入れてもいいですよ?」

「……いや、いい。キモいから早くいけ。じゃないと蹴り飛ばすぞ」

「だったら蹴り飛ばしてくれてもいいよ? どこがいい? お尻かい?」

「うげぇ。分かったらから早く行け! 戻ってきたら蹴ってやるから!」

「はい! 喜んでー!!」


 雑用もすっかり板についてきた。

 むしろもっともっと無茶を言いつけて欲しい。

 喉がカラカラに乾いている時に飲む水のように、無理難題は僕にとっての癒しになっていた。


 いつの間にか第51層には巨大な城が完成している。

 我がご主人様にふさわしい威容じゃないか。

 僕の寝床? 脇にある物置さ。ござの上で寝るのはとても心地良いんだぜ。

 

 時折「俺が魔王を倒して英雄になってやるんだ!」と、とんだ勘違いをしてここを襲ってくる冒険者たちを確実に仕留めていったご主人様のもとには、すでに100以上の奴隷がそろっている。

 立派な魔王軍の完成だ。


 そんなある日のこと。

 僕はご主人様から謁見の間に呼ばれた。

 そこで僕は気づかされることになるんだ。

 これまでの雑用はすべて無駄じゃなかったと。

 そしていつの間にか僕は『最強』の階段を一足飛びに駆けあがっていたことに――。



 

 

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