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第63話 【閑話】絶望のイライザ④

◇◇


 ありえない! ありえない! ありえなぁぁぁい!!

 なんでなの?

 なんでこの私がこんな屈辱を味合わなきゃいけないの!?


「おい、イライザ! てめえ新人のクセしてサボってんじゃねえ! テーブル拭きくらいとっとと済ませて、こっち手伝えや!」


 ああ、ムカつく。

 たかだか酒場のマスターごときに、なんで罵声を浴びせられなきゃなんないのよ!

 でもここはグッと我慢よ。


「はい! 今行きますから!」


 私は快活な返事をして雑巾を絞った。

 臭いし汚い。

 それに店がはじまれば下品な男どもを相手に注文を取ったり酒を運ばねばならない。時々セクハラまがいのこともされる。

 控えめに言って最悪だわ。

 ほんと、なんでこんなことになっちゃったんだろ?

 

 ああ、考えるまでもなかったわね。

 あいつよ。ピートのせいよ。

 あいつが私の誘いを断ったからこうなったのよ。


 ――なに? Aランクになれないだと? 約束が違えじゃねえか! だったらこっちも好きにさせてもらうぜ。


 全財産をはたいて『奴隷』にしたブサイク男どもにまで逃げられる始末。

 ちょっとだけお小遣いをせびろうとパパの家に戻ったら、開口一番こう言われたわ。 


 ――イライザ。もう冒険者なんてやめて、許嫁のロメロ卿と一緒になりなさい。


 ロメロ卿?

 公爵の跡取り息子のクセして、社交界にも顔を出さず、教会で貧しい子どもたちの面倒ばっかり見てるっていう変人じゃない。

 ピートとも仲良しだって言うし。

 そんなヤツと結婚するなんて、まっぴらごめんだわ。

 

 それに私には王国一の冒険者になって称賛を浴びるをという夢があるのよ。

 そうすれば、小さな時から優秀な兄のことばかりをかわいがっていたパパとママだって気づくはずだわ。

 私だって兄に負けないくらいの才能の持ち主だってね。

 だから私はこのまま引き下がるわけにはいかないの。

 最年少でSランク昇格だけでなくAランク復帰すら消えた今、私がなすべきことはたった一つ。


 魔王アルゼオンをこの手で倒す――。


 そのためならたとえ泥水をすすろうとも這い上がってやるわ。


「おい! イライザ! ちんたらしてんじゃねえぞ!」

「はいっ! ただいま!!」


◇◇


 夜――。

 その日の仕事を終えた冒険者たちで酒場がごった返している。


「ガハハハッ! おい、そこの姉ちゃん! 酒だ! 酒持ってこいや!」

「は、はい! 少々お待ちください!」

「ちっ! 口ごたえしてんじゃねえよ! 早く持ってきやがれ!!」


 口ひげを生やしたクソ野郎に怒鳴られる。

 こっちは3つも同時にオーダーをこなしてるっつーの!

 ちょっとぐらい待ったて死にゃしないわよ!

 あー、ムカついてきた。

 だからこっそりビールの上で雑巾を絞ってから出してやったわ。

 何の疑いもなく「うっめぇぇぇ! やっぱりこの一杯に限るな!」って大声あげて飲んだくれてるんだから、おめでたいものね。

 誰の目にも入らないようにして、「くくく」とほくそ笑んでいると、彼らの話し声が耳に入ってきた。


「ところでよぉ。聞いたか? 魔王アルゼオン討伐隊の派遣が見送られたらしいぜ」

「ああ、聞いた。聞いた。魔王と戦えるだけの実力の持ち主がみつからなかったってな」


 ふんっ。当然の成り行きよね。

 この私を抜きに話を進めようとしたのが悪いのよ。


「もうこうなったらエンシェント・ブラックドラゴンを召喚するくらいしか方法がないんじゃないか?」

「エンシェント・ブラックドラゴンだとぉ? かつて英雄マリウスが使役してたっていうあの伝説のドラゴンか? あー、そんなの無理無理。誰もできっこねえぜ」


 エンシェント・ブラックドラゴン、ね。

 ブレスはあらゆる物を焼き尽くし、爪はプラチナですら一撃で切り裂き、羽ばたけばすべてを吹き飛ばす烈風を巻き起こすって言われた伝説の黒龍。

 名前くらいは聞いたことあるけど、架空のモンスターに決まってるでしょ?

 バッカみたい。


「だよなー。やれるとしたらレベル1でゴーレムを使役できたっていうピートくらいなものかねぇ」

「そうだな。ピートならやれそうだよな。つい最近、フレッドさんがピートに『特別任務』を与えて、その報酬として前金で金貨10枚あげたって言うしな」


 なんですって……!?

 この私が銅貨1枚の日銭を稼ぐのに屈辱に耐えてるというのに、あの無能は何もしてないくせして金貨10枚を手に入れたですって……!?

 ますます許せない……。あいつ、いつかぶっ殺してやる。

 金貨10枚は私のものよ!!


「ピートがいれば魔王討伐も現実になるかもしれねえのになぁ」


 ――ダンッ!!


 私は思わずテーブルを叩いた。

 男どもがギョッとして私を見上げている。

 その顔に向かって、私は言ってやったわ。


「あんなヤツがいなくても、この私がいればじゅうぶんよ!!」


 男どもがゲラゲラ笑う。


「ギャハハハ! お嬢ちゃん、冗談キツイぜ!」

「ガハハハッ! てめえ、ウエートレスのくせして酔ってんのかぁ? ガハハハッ!」


 店長からは「くっちゃべってねえで仕事しろ!」とどやされるし、もう最悪。

 でも私は決めたの。


 エンシェント・ブラックドラゴンを召喚してみせる。

 ピートなんかよりも私の方が数百倍も優れてるというのを、国中に見せつけてやるのよ!!


 


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