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第61話 胃袋をつかめってノートに書いてあった

◇◇


 ニックのことはどうでもいいが、どうでもよくない部分もある。


 モンスターハウスだ。


 前回の襲撃ではあそこのモンスターをいっぺんにゾンビにされたことで、ニックの戦力が増強された。

 次襲ってくる時も絶対に同じことをしてくるに違いない。

 どうにか対策をうたなくては……。

 しかしいくら考えても良いアイデアは浮かばない。


「うむ。どうしたものか……」


 何か思いつくかもしれないと、ダメもとで広々とした草原に仰向けになってボケっとしてみた。

 まるで吸い込まれてしまいそうなほど鮮やかな青空だ。

 ポカポカして気持ちいい。


 しかしほんと不思議な場所だよなぁ。

 四季はないけど、天気は変わる。

 たいていは穏やかに晴れてるけど、雨もあれば曇りもある。

 さすがに雪が降ったことはないけど、もしかしたらいつか降るかもしれないしな。

 

 ただどんな日でも共通して言えるのは、とても過ごしやすいってことだな。

 それもここで暮らすモンスターたちが家族のように俺を慕ってくれるからだ。

 ニックを撃退したことでさらに信頼が強まったのは気のせいじゃないはずだ。


 けど油断は禁物だよな。

 これからも頼れる主人でないと、いつそっぽ向かれるか分からない。

 やっぱり何事にも動じず、どっしりと構えていなくては。


 そんな風に考えていると、ぬっと黒い影が視界を覆った。


「ピートさん?」

「ぬあっ! サンか!?」

「は、はい! 驚かせちゃってごめんなさい」


 本当は心臓が飛び出そうなほど驚いたけどダメダメ。

 こういう時こそ威厳を示さなくては。

 体を起こした俺は、何食わぬ顔で返した。


「いや、大丈夫だ。全然驚いてないから。ちょうどサンを呼ぼうと思ってたしね」

「えっ? どんなご用件でしょう?」


 あ……。つい口を滑らせちゃったけど、何も考えてなかった。


「う、うん。いや、そろそろお昼の時間だし、何か食べたいものとかあるかなーってな」

「へっ? あ、そ、そうでしたか。ええっと……」


 真剣な顔つきで考え込むサン。

 ただの思いつきで言ったんだけどなぁ。

 なんだか悪い気がしてきたから、久々に料理に腕を振るってみるかな。

 

 ふふふ。サンはたいていのことはできるけど、料理だけは苦手だ。

 逆に俺は料理は得意分野だからな。

 サンに喜んでもらえるような料理を作ろう。


 ……と息巻いたはいいものの、どうせイノシシの肉かニワトリの卵を使った料理しか作れないんだよな……。

 あ、ちょっとずつ豚も増えてきたから、そろそろ料理に出してもいいかな?

 

「あの……。ピートさん」


 やっぱり野菜とか魚も欲しいよなぁ。

 でも野菜の方はサマンサばあちゃんの教えのおかげであと1か月もすれば最初の収穫はできそうだし。もう少しの我慢だな。

 あとは魚か。

 ダンジョンのどこかに海はないのかな?

 

「ピートさん!! 聞いてください!!」


 耳元でサンが大きな声をあげた。


「のわっ! び、ビックリしたなぁ」

「ごめんなさい」


 あ、やべ。思いっきり動揺しちゃったし、思わず「ビックリした」って言っちゃったよ。


「いや、ウソ。別にビックリしてなから。ほら、言葉のあやってやつ?」

「そ、そうでしたか。それは良かったです」

「んで? 俺に聞いて欲しいことってなんだ?」

「あの……その……これ」


 サンは手のひらサイズの包みを差し出してきた。

 早速開けてみると、それはサンドイッチだった。


「これ……サンが作ったのか?」

「はい……」

「パンも?」

「サマンサさんから材料を分けてもらってましたので、それで……」


 なるほど……。『違うノート』の中身はこれだったか。

 でも、サマンサばあちゃんはなんで俺に黙ってたのだろうか……。


「あの……。食べていただけますか?」


 顔を赤くしたサンが上目遣いで問いかけてきた。

 不覚にも胸がドキドキして、完全に動揺している。

 だって料理の苦手なサンが、一生懸命にパンをこねているのを想像しただけで泣けてくるじゃないか。

 

 なんてご主人思いの良い子なんだ……。


「ありがたくいただくよ」


 パクっ。大きく口を入れてかぶりつく。

 ……しょっぱすぎる。涙が出そうなほど。

 塩の入れすぎだ。

 でもこういう時も動揺を見せてはならないよな。


「ど、どうでしょう?」

「……ちょこっとだけ塩が多いかなぁって感じだけど。あ、でも食べられないことはないぞ」

「まずいってことですか?」


 涙目で顔を覗き込んでこむサン。

 ……そんな顔されたら、もはや一つしか選択肢がないだろ。


「いや、うまい! すごくうまいよ!!」


 サンの顔がぱあっと明るくなった。


「よかったぁ! 嬉しいです! うふふ。じゃあ、私。リズリーさんの家が雨漏りしたって聞いたから直しにいきますね!!」


 ピョンとはねた彼女は軽やかな足取りで立ち去っていった。

 その途中、彼女は何か落とした。

 ノートか?

 コッソリ中を覗いてみると、そこにはパンの作り方が、綺麗な字でびっしり書かれてた。

 そしてこう結ばれていたんだ。


『男心をつかむには胃袋をつかむことよ』


 ここだけぐりぐりと丸で囲ってあるけど、どういう意味なのかサッパリ分からない。

 ……が、サンが喜んでくれたならそれでいっか。


 さてと。俺はモンスターハウスの件で悩んでたんだったよな。

 モンスターハウスねぇ。

 ん? 待てよ。

 さっきサンが『リズリーの家』って言ってたよな?

 

「そうか! もしかしたら!!」


 俺はパッと浮かんだアイデアを早速実行に移すことにしたのだった。

 


  

 

 

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