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第60話 畑づくりを成功させたい!

◇◇


 ニックとの対決を制してからしばらくたったある日。

 ひとつの問題が発生していた。


「やっぱりダメかぁ」

「はい……。全然、芽が出てきません……」


 見渡す限り茶色の土に覆われた畑を前にして、サンがしょぼんと肩を落とした。

 実は畑を耕したはいいものの、野菜の芽がまったく出ないのだ。

 

「かろうじて出てきた芽も3日で全滅ですな。ご主人殿。ドンマイっす」


 ヘルグリズリーのリズリーがダンディーな声で励ましてくれた。

 彼の鋭い爪は、畑を耕したり収穫するのに向いているだろうと思い、野菜作りを手伝ってもらっている。

 でも、まったく育たないんじゃ自慢の爪の威力を披露してもらうチャンスすらないよな……。


「うーむ。どうしたものか」

「水をあげすぎたんでしょうか?」

「おいらは肥料のあげすぎがよくなかったと思う」


 サンとリズリーはあーだこーだと理由を推測しているが、本当のことは何一つ分からないんだよなぁ。

 けっきょく答えが出ずに3人で呆然として立ち尽くしていると、ちょっと離れたところにある鍛冶工房から罵声が聞こえてきた。


「てめぇ! 何度言ったら分かるんでぇ!」


 何事かと駆けつけると、顔を真っ赤にしたドワーフのドフが、グリーンドラゴンのグリンを叱りつけていたのである。

 人間の腰ぐらいまでの身長しかないドワーフが、見上げるほどの巨体のグリーンドラゴンを正座させて叱りつけるという光景は何とも言えず不思議だ。

 

 が、そんなことも言ってられないか。

 ちなみに今、目の前で怒りをあらわにしているドフと、叱られているグリンはともにオートテイム状態だ。


 つい先日、俺は【オートテイム消費MP大幅減】というスキルを手に入れた。

 これまでは1体につき1日あたりMP400を消費していたけど、それがたったの20で済むようになったのである。


 まあ、それでも仲間は2000いるからな。

 今の俺の最大MPは約26000。

 全員をオートテイムにしたらMP40000消費することになるから、それはできない。

 それにモンスターたちの行動を制御できないのも痛い。

 かつて第54層を探索した時、オートテイム状態のカーリーとエアリスが先走ったせいで危うく全滅しかけたのは、今でも軽いトラウマだよ。

 だからオートテイム状態にしているのは、信頼のおけるごく一部のモンスターだけ。

 具体的には、サン、ルナ、グリン、リズリー、メラロ、ドフ――この6人だ。

 あとは燃費のいいモンスター・オートメーションのシナリオに従って仕事をしてもらっている。

 仕事がない時は使役していない状態になるから……モンスターたちは何もしない。

 他の仲間としゃべってるか、寝てるか、ボケっとしてるかくらいなんだよな。

 まあ、それでもHPやMPが回復できるみたいだから、厳密には何もしてないってわけではないけど……。

 

 さて、話を戻そう。

 ドフにグリンが怒られてるってことだよな。

 グリンはグリーンドラゴンたちのリーダーで、向こう見ずなところはあるが不正を何よりも嫌う正義感のかたまりのような男だ。先のニックとの戦いでも大活躍した実績もある。

 そんな彼がたとえオートテイム状態だったとしても、他人を怒らせるようなことはしないはずなのだが……。


「どうしたんだ?」

「いやぁ、旦那からも一言頼むぜ! こいつ素人のクセして俺っちのハンマーを振り回しやがってよ!」

「ハンマー?」


 ドフの手元に視線を移すと、彼の背丈よりも大きなハンマーが握られている。

 大きな体を小さくしたグリンは伏し目がちに言った。


「この前の戦いは勝つには勝ったけどな。ひどい傷ついた仲間も少なからずいただろ? もし俺がもっとしっかりしていれば……。そう考えたら、いてもたってもいられなくてな。自分でも使える武器が作れないか、試してみようと思ったのだ」


 なんて仲間思いの良いヤツなんだ。

 泣かせるじゃないか。

 

「ドフ。今回は許してやってくれないか? グリンだって悪気があったわけじゃないしな」


 ドフもグリンの話を聞いて納得していたのだろう。

 あっさりと肩の力を抜いた。

 

「ふんっ、旦那がそう言うなら仕方ねえ。でもよ、グリン。今後は武器が欲しいなら俺っちに言いな! こういうのはその道のプロに聞くのが一番だってことだ! 分かったな!」

「うむ。悪かった。そうしよう。だったら早速だがグリーンドラゴンでも使える武器は何かないものだろうか?」

「ガハハハッ! そう言うと思ってだな――」


 うん、どうやら一件落着だな。

 武器を装備したグリーンドラゴンかぁ。

 想像しただけで強そうだ。

 どんな武器が良いかはドフに任せるとしよう。

 やっぱりその道のプロに任せるのが一番だよな。


「……って、待てよ……」


 はっとなってサンを見る。

 彼女もまた目を大きくして俺を見てきた。


「ピートさん。もしかして……」

「畑づくりについては、畑づくりのプロに聞くのが一番ってことだよな?」


 俺たちは顔を見合わせたまま、ニコリと微笑んだ。

 頭に浮かんだ人物も一緒ってことだな。

 だって畑づくりをずっと頑張ってきた人物を俺たちは知ってるじゃないか。

 サマンサばあちゃんのことだ――!


「はいっ! そうしましょう!!」

「よしっ! 決まりだな! 善は急げだ!」


 俺はサンを連れて、サマンサばあちゃんの住んでいる村へ向かったのだった。


「あらまぁ! ピートにサンかね? よく来たねぇ。ささ、まずはあがってお茶でも――」



◇◇


 それから10日後――。


「おお! やったあ! 苗が育ってきたぞ!!」


 茶色の畑のあちこちに緑が眩しく輝いている。


「ピートさん、やりましたね!」

「ご主人殿! これは収穫が楽しみですな! うわっははは!」

「ああ、これもサンとリズリーが一生懸命世話してくれたおかげだよ! ありがとう!」


 ブルブルと首を横に振ったサンが一冊のノートを差し出してきた。

 サマンサばあちゃんが畑づくりのいろはを教えてくれた時のメモだ。

 パラパラとページをめくると、サンの書いた綺麗な字がびっしりと並んでいる。


「そうだな。サマンサさんが畑づくりを教えてくれたのが大きかったよな」

「ピートさん、今度ちゃんとお礼を言いにいきましょうね!」

「もちろん!」


 ノートをぎゅっと抱きしめたサンがニコリと微笑む。

 その様子を見て、ふとサマンサばあちゃんを訪ねた時のことを思い出した。


「そう言えば俺が村を見回っている間にサマンサさんと何を話してたんだ?」

「へっ?」

「いや、見回りから帰ってきたら、これとは違うノートに何か書き込んでただろ?」

「べ、別に何でもありません! あ、私ニワトリにエサをあげてきますね!」


 ん? 何か聞かれたくないことでもあるのかな?

 まあ、いいや。女同士の秘密ってやつかもしれないし。

 とにかくこれで畑づくりは成功しそうだな。

 ほんと収穫が楽しみだ――!

 

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