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第58話 サンに伝えなきゃいけないことを今、言おうと思う

◇◇


 目の前には燃え盛る炎。壁の向こうからかすかに聞こえる叫び声。

 ふふふ。

 まさに僕が望んだ地獄を思わせる展開じゃないか。

 僕の犬たちが壁の向こうに消えてからしばらく経つ。

 あの門から逃げ出したピートたちが姿をあらわすのも時間の問題だね。

 さあ、どうしてくれようか。

 僕の可愛いペットを黒焦げにした代償は重いぞ。

 そうだ。

 こうしよう。サンの他にすらっと背の高い女の子もいたよな。

 彼女もいただくとしよう。

 サンはピートの前で可愛がった後、僕の犬にしてあげよう。

 もう一人の方は生きたまま、ずっと僕の隣にいさせてあげる。


「ふふふ……ふわっははははは!!」


 さあ、早く出てこい。

 出てきて僕にひれ伏せ――!


 ……と、次の瞬間だった。


「わあっ!!」


 壁の向こう側から大歓声が聞こえてきたのは……。


◇◇


「ご主人様……。すべて……すべてのゾンビを討伐しましたっ!!」


 いつも冷静沈着ルナが弾んだ声で報告してきた。

 ステータス画面をちらりと確認する。

 残りMPは……5か。

 ……ったく、冷や冷やさせやがって。

 俺は集まってきたモンスターたちの顔を見回した。

 どの顔も泥と血だらけ。

 中には立っているのもやっとってくらいにダメージを受けてる者もいる。

 でも目がキラキラと輝いているのは全員共通しているな。

 思わずニヤリと口角が上がるのを抑えられなかった。

 それくらい、ほんと久々に心の底から嬉しかったんだ。


「みんな、よくやった。俺たちの勝ちだ」


 そうつぶやくように宣言した直後、モンスターたちの喜びが爆発した。


「わあっ!!」

「やったぁぁぁぁ!!」

「よぉぉぉぉぉし!!」

「ざまぁぁぁぁみろぉぉぉ!!」


 グリーンドラゴンたちが空に向かって火を吹き、キメラロードたちが咆哮し、ヘルグリズリーたちが胸をドンドン叩いて、喜びを表現している。


「わーい! ピピのかちー! ピピのかちー!」

「やっほーい! さっすが私ぃ!」

「……ふっふっふ」


 ピピ、エアリス、カーリーもそれぞれに喜んでいるみたいだけど、カーリーの笑い方はちょっと怖いな。


「ピートさん!! やりましたね!! 私、とっても嬉しいです!!」


 頬を桃色にしたサンが目を潤ませながら声をかけてきた。

 俺はふらつく足でどうにか立ち上がる。


「ピートさん。無理はしないでください!」

「いや、今は無理をさせてほしい。だってこんなこと言えるの今しかないから」

「えっ……」


 そう……今しかないよな。

 俺はサンと向き合った。

 サンは口をきゅっと結び、もじもじしている。

 大きな瞳に、優しい性格をそのまま映した顔立ち、サラサラしたオレンジ色の髪。

 初めてこの姿を見た時から、俺は絶対に言おうと心に決めていたことがあった。


 それは……。

 

 ありがとう。これからもずっと俺のパートナーでいてほしい。


 ってね。

 礼を言うって、なかなか恥ずかしくてできないものだよな。

 だからこんな機会でもないと――。

 ……と、俺が口を開く前に、サンが慌てて言った。


「ピートさん! わ、わ、私たちまだそういうカンケイは早いって言いますか。あ、でもピートさんが望むなら、私は……」

「ん? どういう意味だ?」


 そう問いかけると、サンは顔を真っ赤にした。


「そ、それ以上は、恥ずかしいですっ!」

 

 そして右手で顔をおおい、左手でポンと軽く俺の肩を押したのだ。

 ポーンと軽くね……。


 ――ドォォォォン!!


 轟音とともに俺の体は門の外へと吹き飛ばされていく。


「うあああああああ!!」

「ピートさん!!」


 火の海と化した外堀の中へ一直線……と思ったら、その寸前でなんとか落ちてくれて助かったよ。


「いつつ……」


 しこたま打った腰をさすりながら立ち上がる。

 すると背中に鋭い声がかけられた。


「ピート!! いつまで僕を待たせる気だ!!」


 振り返ると外堀の向こう側には眉間にしわを寄せたニックの姿が……。

 ああ、こいつ、まだいたのね。

 すっかり忘れてたわ。

 

 

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