第52話 完全に狂ってるとしか言いようのない姿だよ。ニック
「グアアアア!!」
「ギャアア!!」
俺たちがモンスターハウスに入った頃には、中はもうぐちゃぐちゃになっていた。
無数のゾンビたちが無言でモンスターに襲いかかり、容赦なく肉を食いちぎっていく様は、正直言って気持ち悪かったよ。
『ドラゴンゾンビたちの群れ、2985体があらわれました』
ご丁寧に無機質な女性の声が敵の数を教えてくれる。
なるほど。カウンターとしても使えるんだな。まじで有能だよ。この声の中の人。
さて……。それよりも目の前の光景をどうにかしなくちゃ。
「あははは! 死ね、死ね、死ねぇぇ!!」
ん? あれはニックか。
返り血を浴びて全身を真っ赤に染めながら、高笑いしてモンスターたちにとどめを刺しまくる彼は狂気そのものだ。
あんまり相手したくないな……。
「ピートさん、あれ見てください」
「うわぁ。生き返ってるし」
「……ゾンビになった」
「ああ……」
ニックにとどめを刺されたモンスターはその場で立ち上がり、ゾンビとなってついさっきまで一緒に戦っていたモンスターに襲いかかる――いやぁ、教会の神父さんが言ってた地獄ってこういう感じなんだろうなぁ。
「ピートさん、どうしましょう?」
あわよくば、ここにいるモンスターを仲間にしてからニックを迎え撃つ、なんて考えてたけど……。
それどころか逆にこのままだとモンスターたちはニックの手下になってしまう。
「せめて敵の戦力がこれ以上大きくならないようにするくらいしかできない」
「ねえ、ご主人さまぁ。ついでにゾンビも倒しちゃっていい?」
「ああ」
「……つまり全員ぶっ倒すでよい?」
「ああ、まあ、そうなるな」
「やったぁ! 暴れちゃうよー!!」
「……ふふ。腕がなる」
「サン、行きます!!」
こうして地獄をさらに地獄に変える戦いがはじまった。
だが想定よりもゾンビたちはかなり手ごわいことが分かった。
ダンジョン探索で強敵たちを相手してきたエアリスとカーリーですら、1体を倒すのに時間がかかっている。
というのも彼らは体の一部を破壊されても死なない。
どうやらコアみたいものがあって、それを破壊しければならないようなのだ。
しかもそのコアは個体によって場所が異なるという厄介なおまけつき。
俺がゾンビになったトラビスを一撃で倒せたのは、かなり運が良かったってことだな。
攻撃力やスピードもそこそこある。
トラビスもそうだったけど、モンスターからゾンビに変わるとステータスがアップするのだろう。
俺たち全員、少しずつではあるがダメージを受けはじめている。
「ピートさん、このままではらちが明きません! いったん引きましょう!」
「ご主人さまぁ! 私は平気だよー!! まだまだぁ!!」
「……退却はしない。全員、倒す」
エアリスとカーリーはやる気まんまんだが、すでにモンスターハウスの中に生きているモンスターはおらず、およそ4000体に膨れ上がったゾンビの群れだけ。
いくら何でも多勢に無勢だ。
うむ、ここは拠点に戻って……。
「あははは!! ピート、そこにいるんだろう? 降参するなら今のうちだよ!」
……やっぱりこのままで引き下がるのは癪だ。
けどこのまま戦い続けても勝ち目はないのは分かってる。
悔しいけどな。
ならば一つ、前から試したかったことを試してみよう。