第47話 あきらかなセールストークに騙されてはいけません、ってダニエルさんが言ってたし
いったいこいつは何者なんだ……?
しゃべる影ってだけで不気味だってのに、【ウルバリルを倒したらシナリオ】ってなんだよ?
「ククク。驚いて声も出ないといったところか?」
声からして、顔中しわだらけで、唇がカサカサのじいさんだな。
あくまで勘だけど。
だが攻撃してくる雰囲気はない。
とりあえず確認すべきことを聞いてみようか。
「ああ、正直ビックリしてる。ところでブラック・ファングは死んだんだよな?」
「ブラック・ファングじゃと? ああ、ウルバリルが乗っ取った体のことか。うむ、それはもう役立たずだ」
「なるほど。んで、あんたがウルバリルってわけだな?」
「余か? ククク、貴様は余に名を問うか?」
めんどくせーじじいだな。
なんとなく気づいているが、この影は単なるメッセンジャーだろう。
いわゆるじじいの『本体』は別にある。
そしてその本体こそ、十中八九、魔王アルゼオンだ。
「ああ、いや、別にいいや。今のなしな」
「は?」
「一つだけ聞きたい。ウルバリルって影は単体で人間を攻撃できるのか?」
「……貴様。余を誰と心得ての言動か?」
「別にあんたが何者であっても俺には関係ない。とにかく時間がないんだ。腹をすかせた奴らに飯を食わせなきゃならないんでね。最近、あいつらグルメになってきてさ。単に肉を焼いただけだと『ご主人様、手抜きですね』と白い目で見てくるんだよ」
「そんなことが余に何の関係がある?」
「関係ないけど、とにかく急いでるんだよ! 話があるなら今度ゆっくり聞いてやるから。今はここにサマンサばあちゃんが安全かどうか、それだけ聞かせてくれればいい!!」
「危険か、安全か、で言えば、安全だが……。よく聞け、ニンゲンよ――」
「あ、やっぱりそうなんだ。よし、話はついた。んじゃあな」
「ちょっ! おい、待て! ニンゲン! それほどの力があれば世界の半分をくれてやる。だから余の眷属に……」
まだ何か言ってるけど、安全が確保できてるなら用はない。
俺はサンとサマンサばあちゃんのもとへ駆け寄った。
「サマンサさん、もう大丈夫だ。行こう」
「う、うむ。し、しかしその影は……」
「ああ、いいんですよ。ベラベラ話すヤツにろくなのはいないですから」
ちらりと背後を見ると、黒い影はその場にとどまったまま。
少しだけ色が薄くなってる。
なるほどね。動けないうえに、時間がたつと消える仕様なのだろう。
『シナリオ』ってのが何なのかというのと、なんでブラック・ファングことウルバリルがダンジョンの外にいて、サマンサばあちゃんの村を襲ったのかは気になるが、いつか聞くチャンスはあるだろ。
なんならニックに伝達係をしてもらえばいいだけだ。
彼も聞いてもいないことをベラベラしゃべるからな。
きっと良い伝達係になれると思うんだ。
「おい、待て! 貴様! こんなチャンス、もうないのだぞ! 後悔するぞ!」
世界の半分をくれてやる、ね。
いかにも見え透いたセールストークだ。
そんなのに騙されるバカがこの世界にいるとは思えないけど。
あ、もしかしてニックのやつ……。