第38話 巨乳でクールな受付嬢、俺を見て取り乱す
◇◇
久々のギルド。まず顔を合わせたのがイライザだったのは、正直言って胸くそ悪かったけど、まあ、そういうこともあるよな。
俺はサンとともに受付嬢のエイミーの前に立った。
「やあ、エイミーさん」
「もしかしてピートさん!?」
「ええ、そうです」
「生きてたのですね! 嬉しっ……じゃないわね。ええっと、ど、どうしましょう」
エイミーさんは小さな眼鏡を落としそうなくらいに取り乱した。
クールで、時折見せる微笑みとのギャップが激しくて隠れファンの多い彼女。
大きな胸をたゆんと揺らしながら、あたふたしている。
こんなに慌てた姿を見たのは初めてだから、むしろ見ていて楽しい。
「ピートさん……。ジロジロ見過ぎです」
サンが背後からとんでもなく低い声でささやいてきた。
冷や汗がたらりとひたいを流れる。
ゾンビになったトラビスがあらわれた時以上のホラー感がはんぱない。
と、とにかく話を前に進めた方がよさそうだな。いろんな意味で。
「エイミーさん、落ち着いて。ダニエルさんと話がしたいんだ」
「はっ! そ、そうですね。ギルド長をお呼びするのが一番ですね!」
「あ、わざわざ呼ばなくてもいいよ。俺から出向くから」
「その必要はないぞ、ピート」
ドスのきいただみ声が背後からかけられる。
急いで振り返ってみると、そこには白ひげのいかついおっさんが立っていた。
「ぎ、ギルド長!!」
そう、彼がギルド長のダニエル。
眉間にしわを寄せ、鋭い視線を俺に向けている。
……が、白い歯を見せてニンマリと笑ったかと思うと、パッと明るい表情に変わった。
「よくぞ帰ってきおった! もうダメかと思ったぞ!!」
ダニエルが太い腕を俺の肩に回し、ぐりぐりと首を絞めてくる。
「ははっ。俺もダメかと思ったんですけどね。サンが助けてくれたんです」
「サン? ああ、あの優秀なゴーレムか。今はどこにおるのだ?」
「そこですよ」
「そこ?」
優秀と言われて嬉しかったのだろう。サンは顔を真っ赤にしてもじもじしている。
そんな彼女を俺は指さした。
ダニエルは目を大きく見開いて、しばらくあぜんとしていたが、ぐっと表情を引き締め、俺と向きあった。
「ついにやりおったな」
「ん? 何をですか?」
「いや、ここで話すのはなんだ。わしの部屋へきなさい。おい、エイミーや。王宮からフレッドさんを呼んできてくれ。今すぐに」
「は、はいっ!」
おいおい、フレッドって言えば、王宮の中でもエリート中のエリート。
さらに超一流の魔術師としても知られている。
国家機密のほとんどは彼を通じているって言われるような超大物だぞ……。
しかも冒険者たちが罪を犯した際に処罰を決める査問委員会の議長だったような――。
あ、もしかして俺、罪に問われるのか……?
だって魔王アルゼオンの封印を解いてしまったのは、俺がニックたちを止められなかったせいでもあるからな。
国を揺るがす大事件を引き起こした犯人グループの一味――と言われれば、否定できない。
「ガハハハッ! そう暗い顔するでない! 誰もおまえさんを取って食おうなんて考えちゃいねえさ!」
「いえ、食われる心配はしてないんですけど、投獄されちゃうのかなって。でも俺まだダンジョンでやらなきゃいけないことがあるので……」
「だから心配は無用だ!」
ダニエルのおっさんは自信たっぷりに分厚い胸を張る。
なんでそう言い切れるんだよ……。
と、問いかける前に、コンコンとドアがノックされ、いかにも切れ者といった風貌の青年が入ってきた。
「はじめまして、私はフレッド。君がピート君かね?」
細い声、突き刺すような視線、流れるような動作――。
すべてに無駄なんて一切ない。
どんなウソでも一瞬で見抜かれそうだな。
あ、でもこの国にいるはずもないか。
フレッド相手に平気な顔してウソをつける大バカなんか――。