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第37話 【閑話】絶望のイライザ①

◇◇


 ニックが守備兵を殺した後、姿を消してから早くも5日がたった。

 いまだに彼は見つかっていないらしい。

 ついでに言えばアルゼオンを封印していた宝玉も行方不明のまま。

 そんな中、私、イライザは査問委員会で『無罪』の評決を受けて解放された。

 王宮の中でも絶大な権力を誇るパパがこっそり裏で手を回してくれたみたい。

 でも、そもそも私は何も悪くないから、この結果は当たり前よね。

 トラビスは死んだだろうし、ニックも消えた。

 当然パーティーは解散ね。

 私は新しくパーティーを組む相手を探しにギルドの酒場に入った。

 私くらいのエリートで、実力も美貌も持ってる魔術師なら引く手あまたなのは分かってる。

 あら?

 ちょうど暇そうにしている男たちがカウンターにいるじゃない。

 私は彼らに声をかけるチャンスをうかがうべく、ちょっと離れたところに座り、彼らの会話に耳を傾けた。


「ぜってぇにニックの野郎が魔王を復活させたに違いねえ!」

「なんて野郎だ! そもそもたいしたレベルでもないくせに、もうすぐでSランクってのがおかしいと思ってたんだよ」

「ああ、そうだよなぁ。ヤツのパーティーがスピード出世できたのも、はじめからゴーレムを使役できたピートのおかげだって言うのにな」

「それなのに、あのいけ好かない女、誰だっけ?」

「イライザだろ。親が大物貴族だからって理由だけでエリート面してる勘違い女」

「そうそう、その女なんかピートに荷物持ちとかさせてたのをダンジョンで見たぞ」

「まじかぁ。弱いくせに、性格もブスとか、救いようがないな」

「だから魔王とつるんでるんだろ?」

「ガハハハッ! 違いねえ!」


 ………………。

 ………………。

 ………………。


 けっ。クソどもが。

 昼間っから飲んだくれているバカに何を言われても何とも思わないんだから。

 そもそもなんであの無能テイマー、ピートのおかげで私たちが出世できたことになってるの?

 まじでありえないし。

 圧倒的に私のおかげでしょ?

 私がいなかったらあんなパーティー、そこらの三流と変わらないから。

 

 ああ、もうイラつくわね。

 こんな場所にいてもイイ男に出会えるわけないか。

 もっと私にふさわしい王子様的な冒険者がどこかにいるはずよ。

 私は酒場を出た。


「おいおい、あれ見ろよ。イライザだぜ」

「あいつ魔王復活の容疑で捕まったんじゃなかったけ?」

「容疑というより犯人だしな。上級国民だから拘束すらされないらしいぜ」

「まじか。世の中不公平すぎだろ」


 炎の魔法でこの酒場燃やしたろか?

 

 ……いや、そんなことをレディの私が思うわけないわね。

 パパに言いつけて、あいつら全員処刑してもらうことにするわ。

 名前? そんなもん知らないけど、酒場にいる全員を処刑すれば済む話よね。


 さてと。ギルドで私を待っているのは誰かしら?

 ふふふ。アイドルの私のおでましよ!

 私は勇んでギルドの扉を開けた。


「おい、あれって……」

「見るな、見るな」

「関わらない方がいいって」

「だな」


 ………………。

 ………………。

 ………………。


 誰も近寄ってこようとしない。

 それどころか明らかに避けられている……。

 私は……私は……。


 ブチ切れた――。


「ちょっとあんたたち!! この私がわざわざ出向いてあげたっていうのに、なんて態度を取るの!! 私を見なさい!! そして声をかけなさいってば!!」


 余韻を残したままシーンとするギルド。

 普段は冷静沈着な受付嬢のエイミーですら、口をポカンと開けている。

 それでも誰も私に近づくことはおろか、顔すらあわせようとしなかった。


 私が何をしたっていうのよ。

 悪いのはニックよ。

 いえ、もっと悪いのはあいつ――。


「ん? そこにいるのはイライザか?」


 そうそう。この無駄に色っぽいハスキーな声の持ち主。

 ……って。は?


「ピート……。うそ……。そんな……」


 いえ、うそじゃない。まぎれもなく本物……。

 その隣にはオレンジ色の髪をした美女が、寄り添うようにして立っている。


「なんでここに……」

「ああ、運良く帰れたから、一応ギルドに経緯を報告しておこうと思ってな」


 ピートは手をひらひらさせて私の横を通り過ぎた。

 けど、3歩分遠ざかったところで、ピタリと足を止めた彼はぼそりとつぶやくように言った。


「ああ、そうそう。パーティーのメンバーを囮にしただけじゃなく、その場で眠らせて動けなくしたのは、明らかな違反行為だよな? 殺人未遂の罪にも問われるだろうよ。いくらあんたのパパが大物でも、さすがにかばいきれないと思うぜ」


 最悪……。

 でも私の絶望はまだ始まったばかりだったの――。

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