第33話 守りを大幅に強化して、クソニックに備えよう!
◇◇
ニックのことはクズだとは思ってたけど、まさか魔王アルゼオンに魂を売るほど腐った性根の持ち主だとは考えていなかった。
おおかた「余が世界を征服した折には、その半分をくれてやろう」とか持ち掛けられて、ホイホイと釣られたんだろうな。
『鎖の封印』を解きたいアルゼオンにしたら、ダンジョンを自由に探索できる人間を手ごまに加えられたのはラッキーとしか言えない。
だからニックの失敗を許したうえで、近いうちにもう一度襲撃させるのは間違いない。
そうなると、だだっ広い草原にポツンと建てられた家だと守り切れる自信がないな。
いや、トラビスことソルジャーゾンビ1体くらいなら、あっさり撃退できる。
しかし、もし100体いたら?
それかとんでもなく強いモンスターを引き連れてきたら?
つまり『量』か『質』のどちらかを大幅に強化してくるのは目に見えている。
どっちにしても今のままではダメだ。
「そこでだ。要塞を作ろうと思う!」
俺はみんなの前で高らかに宣言した。
……しかし。
「わーい! よーさい、よーさい! おいしそー!!」
「ご主人さまぁ! かっちょいいーネーミング!!」
「ご主人様がそうおっしゃるなら、私はどこまでもついていきます。んで、どんなお料理なのですか? ヨーサイというのは」
「……名前からして旨そう」
「み、みんな、違うから! ようさいはご飯じゃなくて……あれ? なんでしたっけ? ピートさん」
うむ。どうやら彼女たちには要塞の意味が分からないみたいだ。
「要塞は飯でもお菓子でもないぞ。敵の襲撃にそなえるために、守りの固い建物を造るってことだ」
「ええー……」
「ご飯じゃないの? ピートのばかぁぁぁ。ううっ」
おいおい。あからさまにガッカリした顔するな。
特にそこの幼女。泣くんじゃない!
「……ったく。要塞ができたらたんまり旨いもん食わせてやるから」
「わーい! あたし、がんばるー!」
「うっひょー! やったぁ! さっすがご主人さま!」
「……旨いご飯ため」
「ご主人様、そういうことであれば、全力で働かせていただきます!」
「ピートさん、私も頑張ります!」
おいおい、本当に飯のことしか頭にないんだな。ちょっと心配になってきたぞ。
ま、いっか。みんなやる気を出してくれたし。
しかしまだ問題はある。
人手だ。
草原はかなり広いからな。要塞を造るとなると、圧倒的に足りない。
ガイとコツをこっちに呼び寄せたとしても全然足りない。
そもそも骨のあいつらに力仕事が期待できるとも思えんしな。
そこで俺は一人でモンスターハウスに入った。
食糧も仲間もこの部屋なら調達可能ってわけだ。
まさに「困った時のモンスターハウス」だな。
残りのメンバーには石材の調達をしてもらってる。
ピピは待機。彼女に力仕事は無理だし、別にやってもらいたいことがあるからな。
んで、どうやって仲間を増やすのかって?
あれこれ考える時間はないのは分かってる。
だから方法1つしかない。
「わ、分かった……。仲間にでもなんでもなるから、命だけは取らないでくれ」
「お、俺も……!」
「おいらもだ!」
「どうかご慈悲を~!」
俺の背後にはおよそ100体のモンスターの亡骸が積み上げられている。
――こうなりたくなかったら、俺に力を貸してくれ。頼む。
いや、自分でも思うところはあるよ。
でも仲間を増やせば食糧は足りなくなるし、恐怖におののいたモンスターたちは仲間になってくれるし、一挙両得だと言えるよな?
――おめでとうございます。【名スカウター】の称号を手に入れました! 記念に【一斉攻撃】のスキルを獲得しました!
いやいや、その称号を俺にくれるのはどうかと思うぞ。
スキルはありがたく頂戴しておくけどな。
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