第31話 まったく哀れなヤツだな。トラビスは
「……許さない、許さない、許さない……」
うわぁ……。ブツブツつぶやいちゃってるよ。
完全にホラーだ。
ニックは真横に立ったトラビスにコッソリ耳打ちする。
「トラビス。ほら、そこにいるのは彼だよ。君の探していたピートさ」
「ピート……。ピィィィトォォォォ!! てめえのせいで……。てめえが無能だから……。俺は……俺は殺されたんだよぉぉぉ!! ぜってー許さねえぇぇ!!」
トラビスの白目が赤く染まり、口は裂けるくらい大きく開かれた。
俺のせいで殺されたって叫んだよな?
待て待て、逆ギレもいいところだ。
「ピートさん!!」
サンが甲高い声をあげる。
だがオートテイムも使役もしていないから、サンたちは俺の前に出てこれない。
でもそれでいい。
俺はちらっと後ろを振り返って、
「大丈夫だ」
と微笑んだ。
そして前に向き直る。
トラビスが剣を振り上げて襲いかかってくる。
「あはは。トラビスは【剣技(上級)】のスキルの持ち主。彼の剣がかわせるかな?」
ご丁寧に解説どうも。
さてと、じゃあ、力の差ってやつを見せつけてやりましょうかね。
「しねぇぇぇぇ!!」
最後に見た時と比べるとだいぶ速い。ゾンビになったことでステータスが上がったのか。
それとも主人であるニックが何かしたのか。
まあ、この際、そんなことどうでもいいか。
速いことは速いが、今の俺にしてみればたいしたことはない。
――ブンッ!!
トラビスの剣が空を切る。
「おのれぇぇぇぇ!! ピートのくせにぃぃぃ!!」
――ブンッ! ブンッ! ブンッ!
縦に横に剣を振り回すトラビス。
ひらりひらりと余裕でかわす俺。
「なっ……なんだ……?」
ニックの驚きの声が耳に入ってきた。
うん、それでいい。
俺が今までの俺とはだいぶ違うことが分かれば、いくら頑固な彼であっても引き下がってくれるに違いないから。
「うがああああ!!」
トラビスが剣を両手で持って振り下ろしてきた。
【ファイナルスラッシュ】って剣技か。
レベル50になって身につけた上級剣技。
――ガハハハ! てめえみたいな無能には一生縁がないスペシャルな必殺技だぜ! どうだ? 羨ましいだろ! ガハハハ!
とか言ってたっけ。
つまり自慢の一撃だったな。
よし、ならば……。
――パシッ!
俺は2本の指で彼の剣を受け止めた。
「うぐっ!?」
トラビスの顔が初めて歪む。
ゾンビで驚くんだから、人間なら心臓が飛び出るくらいにビックリするだろ。
「そんなっ!!」
ニックの驚愕に満ちた声が気持ちよく響いた。
うむ。これでじゅうぶんだ。
――よぉ、ピート。おまえのゴーレム、俺が殺してやろうか? ゾンビになって復活すれば、多少は強くなるんじゃねえか? それともおまえがゾンビになってみるか? その気になったらいつでも言ってくれな。俺がとどめを刺してやるからよぉ! ガハハハッ!
そう言ってたヤツがゾンビになっちまうんだから、世の中面白いもんだな。
さてと。そろそろ最後の仕上げといきますか。
右の拳にありったけの力を込める。
「せめてもの慈悲だ。クズ野郎の奴隷になったおまえを、苦しみから解放してやるよ」
「ひ、ひぃぃぃぃ!! や、やめろぉぉぉ!!」
ゾンビでも恐怖の予感みたいのはするみたいだな。
けどもう止まらない。
踏み出した左足を軸に体をギュンと高速でひねる。
同時に鉄拳がトラビスのみぞおちに吸い込まれていった。
――ドゴォォォォン!!
耳をつんざく轟音とともに、一撃必殺のボディーブローが炸裂。
白銀でできた自慢の鎧を突き破り、めりっと腹に拳が食い込む。
「うぎゃあああああ!!」
断末魔の叫び声と同時に、無機質な女性の声が響いた。
『ピートの攻撃! 会心の一撃!! ソルジャーゾンビを倒しました!!』
トラビスのやつ……ソルジャーゾンビってモンスターになってたんだな。
まったく哀れなヤツだ。
お読みいただきありがとうございました。
トラビスを失ったニック。果たして彼はどうするのでしょうか?
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