第3話 明らかに死亡フラグ立ったよね!? しかも俺に……
◇◇
第50層のフロアボスを倒す、というのが俺たちが請け負った任務だった。
10日かけてようやく任務を終え、ギルドに戻ろうかというところで、他のメンバーは先に進むことを決めた。
だが俺は反対したんだ。
――第51層以降へ進むにはギルドの許可が必要なんだろ? いったん引き返してからまたここまでくればいいじゃないか。
――多少のリスクは覚悟のうえでの決断だ。ピート。君はいつも慎重すぎる。悪い癖だよ。
ニックに便乗するように、トラビスとイライザはここぞとばかりに不満を爆発させた。
――てめえはただ俺たちについてきただけじゃねえか! 無能なくせして偉そうに説教か? ふざけんな!
――そうよ! そんなに私たちと行くのが嫌なら抜けてもらってけっこうだわ。あんたなんかいてもなくても関係ないし。
いきり立つ二人を抑えたニックが、いつも通りに冷静かつ自信たっぷりに言い放った。
――僕たちはほぼ無傷だ。それにこのチャンスを逃せば最年少でのSランク昇格はなくなる。冒険は結果がすべてだと冒険者育成学校で習っただろ? 心配しなくても大丈夫。僕たちなら必ずやれるさ。
しかし彼の見通しは完全に甘かった。
第51層も第52層もモンスターが強すぎて、逃げ回るのが精一杯。
とてもじゃないが【レベルストーン】を探す余裕はなかった。
俺は何度も引き返すようニックに言ったけど、彼の決意は固かった。
――ここで引き返すわけにはいかない! 僕たちの名誉のためにも!
反論などできるはずもなく、俺とサンは休む暇すら惜しんで、罠の解除や索敵にあけくれた。
どれくらい時が経ったのかすら分からなくなった頃、俺たちはついに第53層に出た。
敵も罠もない広い部屋で、突き当りに小さな扉。その先はダンジョンの中にも関わらず、静かな草原と森、それに青空まで広がる不思議な場所だった。
そして草原のど真ん中に祭壇がポツンと建てられていたのである。
――紫に光る石が置かれているみたいだぜ。アレが【レベルストーン】に違いねえ。
――でも、厳重な封印の魔法がかけられて、持ち出せそうにないわ。
――ニック。手を出さない方がいい。何が起こるか分からないから。
――あはは! これは僕たちへの試験さ! Sランクなら封印ぐらい解いてみろってね! 僕に任せてくれ。
ニックのユニークスキルは、どんな封印でも解くこと。
だからあっさりと祭壇から【レベルストーン】を取り出すことに成功した。
――やったぞ!! これで僕たちは史上最年少でSランクになれるんだ!!
そう言えば冒険者育成学校でこうも習ったよな。
『順調すぎる時こそ、大きな落とし穴があるのがダンジョンの鉄則だ』
と――。
◇◇
「ゴオ……」
サンが何かおびえているような弱々しい声をあげる。
「おい、気持ち悪い声を出すんじゃねえ!! しばき倒すぞ! 雑魚が!!」
「ほんと、士気が下がるわぁ。見た目もブサイクなくせに、弱っちいとか、どんだけ使えないのよ。さいあくぅ」
酷い言われようだが、気にしても仕方ない。
それに今は彼らのことよりも、サンが心配だ。
いつだって健気に働いてきたサンがここまでおびえるのは普通じゃない。
「ニック。何かあるかもしれない。ここは一度引き下がった方がいい」
俺がニックに注意を呼び掛けたとたんに、トラビスが笑い飛ばした。
「ガハハハッ! 引き下がるだとぉ? 戦闘にすら出ねえようなクズが何言ってやがる!」
「そうよ! それに引き下がるってどこに行くつもりなの? まさか第54層を目指して前に進むとでも言いたいの? あんたってどこまでバカなの?」
「おい、ニック。こいつはここに残りたいみてえだぜ。だったら俺たちともおさらばするしかねえんじゃないか?」
「みんな、静かにしろ! 仲間割れをしている場合じゃない、ってさっきも言っただろ!!」
ニックの一喝であたりがシーンとなる。
彼の言う通りだ。この際、ニックがトラビスとイライザをギャフンと言わせてくれないかな。
「ピート。あまり輪を乱すような言動はしないでくれるかな? それにはっきり言うけど、怯えたゴーレムは使い物にならない。君もゴーレムももっと勇気を持ってほしい。このままだと完全に足手まといだからね。トラビスの言い方は悪かったかもしれないけど、本気で君たちの処遇を考えなくてはならなくなるよ」
……ギャフンを言わされたのは俺の方だったか。
「さあ、行こう。とにかく前進あるのみだ!」
俺はサンをなだめつつ、3人の後ろについていく。
しかし何もないはずの広い部屋に入ったとたんに、サンの怯えていた原因が分かることになろうとは――。
「モンスターハウス……だと……?」
少し離れたところからモンスターの大群が迫ってくる。
その数、ざっと1000。しかも51層と52層で苦戦を強いられたヤツらばかりじゃないか……。
俺たち4人はがくぜんとして、しばらく動けなくなってしまった。
けど俺にとっての悲劇かつ大逆転のはじまりは、これからだったんだ。
「誰かを囮にして脱出するしかないな――」
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