第28話 こんなに嬉しくない再会って珍しいよな
◇◇
――ピート。分かってほしい。今はみんな我慢しているんだ。君にも我慢してもらわなければ困るんだよ。
過去にニックからそう告げられ、食糧を一切分けてもらえなかったことがある。
迷宮にはまって3日も出られなくなった時だったからね。
仕方ないと腹をくくって、寝袋で丸まった。
でもテントの中からみんなの声が耳に入ってきたんだっけ。
――あんなやつに食わせる飯なんかねえってもんだよなぁ。ガハハハ!
――あはは! あいつは雑用しかできないんだから、そこらへんに生えてる雑草でも食べてればいいじゃない。
――みんな、気を抜いている場合じゃないよ。残りの食糧は僕たち3人分であと3日。それまでにここを抜けよう。
――まぁ、ニック。その言い草だと、ピートに3日も食糧をあげないつもり? あんたって意外と非道よねー。
――人間、3日くらい何も食べなくても大丈夫だってピート自身が言ってたんだ。戦える人を優先にするのは当たり前のことだと、彼も納得していたよ。
いやいや、そんな話聞いてないから。
でも実際に文句なんて言える立場じゃなかったから、空腹を抱えて我慢した。
あの時以来だったな。
必死こいて保存食の作り方を覚えたのは……。
そして今、目の前には大量の肉。肉。肉。
モンスターハウスでエアリスとカーリーが散々大暴れしてくれたおかげだ。
今晩の夕食と、明日の朝食の分を除いても、まだ余裕はある。
食べきれない分は保存しておくことにしよう。
さて、肉の保存と言えばやはり燻製だ。
まず肉の塊を薄く切って乾かす。本当は塩漬けにしたいところだが、塩がほとんど残っていないから仕方ない。
それでも丸1日青空の下においておけば、塩がなくても水分はだいぶ抜ける。
ここにはハエすらいないから虫に食われる心配がないのも助かるな。
翌朝、肉の様子を見てみる。いい具合に水分が抜けているぞ。
朝食を終えた後、いよいよ燻製づくりの本番開始だ。
ルナが集めてきてくれた石で作った石窯に入れ、サンの拾ってきた木を燃やして、じっくりといぶす。
あとは待つだけ。
時間がかかるから別の仕事にとりかかることにしよう。
「ピピの部屋を作りたい。サン、手伝ってくれ。」
「はいっ! 喜んで!!」
嬉しそうに後ろをついてきたサンとともに、昨日のうちに集めておいた木材を加工していく。
家の構造上、廊下に面して新しい部屋を作ることは無理だから、俺の部屋につなげることにした。
急造だから仕方ないけど、ピピが自分の部屋に出入りする時は必ず俺の部屋を通らねばならないというのは、やはり不便だな。
いつか大改築をした方がよさそうだ。
ちょうど作業が終わった直後、芳醇な香りが鼻をついてきた。
「うん、そろそろだな」
「おおお! うまそー!! ご主人さま! 食べていいのか!?」
「わーい! あたしも、あたしもー!!」
石窯の前で待ち構えていたエアリスとピピが、よだれを垂らしながら目を輝かせる。
だがこれらはあくまで保存食。
何かあった時のために取っておくつもりなのだ。
……けど、目を潤ませながら見つめられたらむげに断れないよな。
「ちょっとだけだぞ」
「うっひょーー!! やったぁぁ!」
「ピート、だぁいすきぃ!!」
ドラゴンの燻製肉を数切れずつ彼女たちに分けた後、サンたちにも持っていく。
「美味しい♪ ピートさん、ありがとう!」
「……おいしい」
「ご主人様、こんな美味しいものをいただけて、私、感無量でございます!」
3人ともすごく喜んでくれてよかったよ。
そうだ。ガイとコツにも持っていってあげよう!
ん? でもあいつら骨だからな。肉なんて食べないか。
そう思いとどまって自分の部屋に戻ると、ピピがてくてくとやってきて、俺の隣に座った。
「ねえ、こんどはピートのおはなしきかせてよー」
「俺の話?」
「うん! ピートはどこからきたの? なんでここでくらしてるの?」
くりっとした目をこちらに向けるピピ。
別に後ろめたいことなんて何一つないけど、言葉が出てこない。
いったいどこから話したらいいか分からないし、それに……。
――悪く思うな、ピート。これもさだめだ。
もうあの時のことは思い出したくないのだ。
どう話をそらしたらいいか考えていると、バンと大きな音を立てて、勢いよくドアが開いた。
「ぴ、ピートさん! た、大変です!!」
サンの顔が青い。
彼女の顔を見ただけで、嫌な胸騒ぎがした。
まさか魔王アルゼオンがここにやってきたのでは……。
その予想は見事に外れた。そもそも魔王は『鎖の封印』を解かない限り、第51層から動けないんだったな。
だが決して良い方に外れたとは言いにくい状況に陥ったのである。
「君……ピートかい? これは驚いた!」
無断で家に上がり込んできたのは他でもない。
俺をパーティーから追放した男……ニックだった――。
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