第26話 【閑話】ニックにざまぁするまで④
◇◇
「やはり戻ってきたか」
僕は今、魔王アルゼオンの前にいる。
彼のかたわらには虫の息のトラビス。顔が腫れあがり、鎧を身につけていなかったら誰かすら見分けがつかなかっただろう。
かわいそうに……。さんざんいたぶられたうえに、苦しませるためにあえて殺さずに生かされていたのだろう。
ま、もう僕には関係のない人だから、どうでもいいけどね。
僕が考えるべきことは、僕がいかにして英雄の座に返り咲くかってこと。
けどその答えはもう決まっている。
簡単なことさ。
魔王アルゼオンを封印する――。
それしかない。
否、それさえできれば、僕は勇者マリウス以来の伝説となるに違いない。
「さて……。貴様がここにきた理由を聞かせてもらおうか?」
低い声でアルゼオンが問いかけてきた。
返答の仕方を間違えれば、直後には僕の首から先は飛ばされるだろう。
でも、僕はそんなヘマはしないよ。トラビスと違ってね。
「これを渡そうと思ってね」
第53層のレベルストーンを取り出す。
「ほう……。見返りもなく、か?」
「ははは。友情の証、とでも言えばいいかな?」
「つまり『仲良くしたい』ということかのう」
ひょいっとアルゼオンに向かって、緑色に光る石を投げた。
「お主……。これが余を封印するために必要な宝玉と知らぬとは言わせぬぞ」
「もちろん知っているさ。だからあなたに捧げたのですよ。我が友よ」
「くくく……。小僧、やはり面白い。うわはははははっ!!」
愉快そうに笑うアルゼオン。
もう封印させる心配がなくなったと思い込んでるんだろうな。
でもね、僕がいればそんな石ころなんていらないんだよ。
僕はなんだって封印できるチート能力を持っているからね。
けど、さすがに魔王クラスになると、それなりにダメージを与えてからでないと封印できない。
もちろん今の僕が彼にダメージを与えられるはずもない。
となれば、アルゼオンと対等に戦える者があらわれるのを待てばいい。
ちょうど今ごろはギルドがSランクを中心とした精鋭たちを集めているところだ。
彼らが束になってかかれば、さすがのアルゼオンでも重傷を負うだろう。
その瞬間を見計らって、僕が彼を封印する――我ながら完璧なシナリオだ。
それまでの間はアルゼオンを油断させなくてはならない。
だから彼に取り入ったというわけだ。
「我が友ニックよ。余に忠誠を誓えば、大いなる褒美をくれてやろう」
忠誠?
くだらないな。そんなもの幻想だよ。
この世界は裏切ってなんぼ。
生き残り、成り上がるためには、何だって使うさ。
たとえ魔王であろうともね。
「ああ、誓おう。あなたは僕にとって神みたいなものさ」
「ククク。よい、よい。それでよいぞ」
……と、次の瞬間だった。
『奴隷契約の条件を満たしました』
無機質な女性の声があたりに響き渡ったのだ。
「なんだ?」
そうつぶやくと同時にひたいが焼けるように熱くなった。
「うぐっ……。いったい何をした!?」
「余は何もしておらんよ」
「な、ならばなぜ……。うがああああああ!!」
「ククク。余には忠誠を誓った人間を自動的に奴隷にできるスキルがあってのう」
「ま、待て。ぼ、僕はあんたの奴隷なんかに……うあああああ!!」
「まあ、よいではないか。念には念をというだけのことだ。もし貴様が余に逆らえば、貴様の心臓がはじけ飛ぶ。だが余は貴様を邪険に扱うつもりはない。裏切られたくないだけのだよ。貴様がそこに転がっている男に対して行ったみたいにな」
逆らう手段はなかった。
無知とはいえ、僕の脇が甘かったのは否めない。
トラビスを囮にしたこともよくなかったみたいだ。
まったく……トラビスという男はどこまで僕の足を引っ張るつもりなんだ?
「おめでとう。たった今、貴様は生きながらにして余の眷属となった!」
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