第9話『真実』
「グルル…。お客人。此方が我が家、リューキューである。」
…確かに立派だ。上等な木で組み上げられた大きな屋敷。俺の家の方が大きいがためはるレベルである。
「…グルル…。本当は竜人など入れとうないが、お客人との約束だ。今回限り、それも不問にしよう。」
…意外と優しいな。
あの時の奴はかなりキレていた。俺に対してだろうが、ならば俺を斬り伏せればいだろう。何故、しなかったのだろうか。
「…グルル…。お客人、その椅子にかけろ。」
…言われるがまま、俺は木で作られた椅子に腰をかける。リーファさん、そして、ついてきた少女も隣に座る。
「…グルル…。さて、お客人。我らをその手中に収める為にやってきたのだろう…。」
「言い方が言い方…だが、そうだ!!」
「…グルル…。威勢のいい女子だ。だが、我々も誇り高き龍の引くリザードマン。…貴君はその御眼鏡にかなうか…否か…。」
品定めするような目で此方を見るランドル。
なんかムズムズするなぁ…。
「…グルル…。魔力量だけで測れるものではないが、貴君の総量は我より上。その身体に入りきってることの方が…珍しいな。」
「…はい?」
気にしたことはないな…。
魔力量とか、なんとか…も生年月日とか血液型みたいに産まれた時から決まっているものなのか…?
そう心の中で呟くとリーファさんが捕捉した。
「…魔力量とは大体、人の身体や魔物の体に収まりきる量なのです。体をコップにするならば、魔力を水とします。満タンまで入れ、表面張力が働くまで入れると考えてください。それが魔力量なのです。」
「…なるほど?」
「…わかってませんね…。」
「…グルル…。人間は我々より小さな器の筈なのだ。器以上の水は入らぬだろう…。しかし、貴君はそれが可能なのだ。人を1、魔物を5とした時、貴君は20となる。だが、それは成長前のこと。成長すれば何処まで伸びるかわからぬ。」
ランドルはそう言いながら、頭を抱えた。
ほへー…。
俺、特異体質ってこと?
つまり、俺最強…ってやつ?
…なんか、嬉しい!!
「アホなんですか。貴方。いや、アホですね。末期ですね。」
「そんなこと言わなくていいじゃんっ!!」
…リーファさん、当たり強くなってない?と聞くと気のせいだと笑顔で言われてしまった…。ぐぬぬぬ。
可愛いからって…。甘やかさないぞっ!!
「グルル…。貴君らは仲が宜しいようだ。まるで姉妹かのよう。」
「そうです、私が姉です。」
…リーファさん、無い胸を張っても意味ないのよ?
「…変態っ!!スケベっ!!」
「殴るナァァァっ!!」
意外とその頭ポカポカ痛いのよ!?
そりゃ、魔法じゃないだけマシだけどさ!!
…とまぁ、こんな感じでいつもの儀式を済ませておいて…。本題に入ろう。
「ランドル。」
「グルル…。貴君は切り替えが早いな…。」
そりゃ、メイドさんに鍛えられてますから…。
俺、鍛えてますから。牛乳配達はしてないけど…。
「グルル…。して、なんだ。」
「…リザードマンと竜人族の関係について教えてくれ。何故、あんなことになったのか。」
「…グルル…。」
ランドルは顔を俯かせ、歯軋りをした。
…あんまり歯軋りすると良くないよ?歯、悪くするよ?なんか、歌にも影響するらしいよ?
「…そういう問題なんですか〜…?」
「…違うっけ?」
リーファさんがうなづいた。
…あんまり茶化すのはダメってことだね。
「グルル…。リザードマンと竜人族は元は一つの種族だった。」
わ〜お…。唐突ぅ…。
「竜の血を持つ種族、それが我々、リザードマン。その竜の血が鱗を形成し、リザードマンとするのだが、その鱗が極端に減り、まるで人の子のようになるのを竜人と呼んだ。リザードマンは次第に男が多くなり、竜人族は女が多くなった。しかし、元は同じ竜の血。力は二つの種族とも同じであり、二つの種族は力を合わせて、集落を守ったのだった。」
…へー。
つまりは、鱗がある方がリザードマン。人間に近い方が竜人ってことね。
「グルル…。そして、事件は起こった。ある日、一人の男がこの集落を訪れた。白髪の男だった。その男は本を取り出し、いきなり集落を攻撃し始めた。
リザードマンと竜人族は総動員し、その者に攻撃を仕掛けた。しかし、それはあまりにも強すぎた。その者にとって天災は息をするのと同じように起こせるほど。力の差は歴然だった。」
…それがルシフェル。
「…仕方なくリザードマンは従った。このままでは子どもたちが殺されてしまうからだ。しかし、愚かにも竜人族の男児がその者に石を投げつけた。集落から出ていけと。
その者は怒り、本の力で竜人族から力を奪った。それ以来、竜人族は人と同じ力しか出せなくなってしまった。」
「…なんということでしょう…。」
リーファさんが驚いている。
…力奪う本…か。
たとえそんなもんがあっても恐ろしくて手に取れんな。
しかし、魔王ってのは本当らしい。
D◯に出てきた世界の半分を…とか、魔王だと後は緑色の口から卵吐く奴とかしか知らんけど、邪智暴虐の限りを尽くしていたんだな。
「グルル…。その昔、その掟に従わず、竜人族と一緒に遊んだリザードマンがいた。その者はリザードマンの掟に反するとして軽蔑されたが、友の竜人族の女が居たので寂しくはなかった。
だが、両親が許さなかった。両親は族長だったからだ。その女は見せしめとして殺された。かのリザードマンは叫んだ。だが、届かず、竜人は…微笑み逝った。」
…おおう。
なかなかに重い話だ…。
だが、悲しいかな。社会のあり方ってのは犠牲と差別の上に立っていると言っても過言じゃないからなぁ…。
そのせいで区別と差別の違いすらもわからない人出てきてるし…。
やっぱり、良くも悪くも人らしいな。リザードマンは。
「グルル…。この掟に従い、我らは一生、蔑視せねばならない。竜人族は弱いからな。」
「…お前達の言い分はわかった。」
ランドルの目がキラリと輝く。
…意外と綺麗な目、してるんだよなぁ…。
さて、此処からはこの堅物リザードマンをどう説得するか…だ。
うぅ〜…。ここでも言論かよぉ〜…。
俺が王になるんだから、身内争いは無くしておくが吉だが、俺はそこまで饒舌じゃあない…。さて、どうしたものか〜…。
「ランドル様ァッ!!」
「…ん?」
何やら外が騒がしい。
話し込んでいて気がつかなかったが、爆音やらなんやらが聞こえて来る。
若いリザードマンがリューキューに入ってきたとき、事の重大さに気づいた。リザードマンの体が傷だらけであったのだ。
「カルル…。ご報告…致します…!!謎の飛行物体が、牙竜の里を襲撃ッ!!リザードマン達が…事態の収束に向かってますが…!!」
「グルル…!!」
ランドルはバッと立ち上がり、リューキューを飛び出して行った。
…あ、これ。俺たちも行った方がいい感じよね?
「…ええ。」
…もしかするとサンタナの言っていた奴に会うかもしれない。俺は少女を置いて、リーファさん達と共に外へと飛び出した。