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第8話『リザードマンの掟』

…森を抜ければ、そこはジメジメとした湿地だ。家から出て、小一時間ほど。俺たちはリザードマンの協力を得るため、ナパール湿地にやってきた。しかし、湿地…というよりは浅い水辺とした方が良いかもしれない。いや、それが湿地か…?


「…久々に飛んで見ましたが、ナパール湿地ってこんなに大きいんですね。森の大半が湿地ですよ…これ。やけに暑いわけです。」


「…あれが?」


「ええ。アレが…リザードマンです。」


藁を束ねたテントのような家が数軒立っており、コボルトの集落のように煙が立っている。俺たちはその集落の門あたりに降りる。

…門番は二人。爬虫類の蜥蜴のような顔に肩甲骨あたりから生えた小さな羽根、持っているのは三股の槍だ。


「クルル…。何者だ。」


「俺はアイリス。この森に住む魔女だ。」


「…クルルル…。魔女?魔女がどうした。此処は不可侵の地、牙竜の里。ランドル様は人間を嫌う。故に、我ら門番、ザッタ。」


「クルル…。ダッタはお前達をこれ以上前には行かせられない。」


…三叉の槍を此方に向ける二人。門というのも名ばかりの木の柵と木の門だが、この二人もなかなかの魔力量だ。コボルトなんかよりも2、3倍は強いだろう。


「クルル?…何故笑う。魔女よ。」


「くくっ…。なぁに。結局は戦わなければならないんだろ?…ならば、話は簡単だ。」


「クルルル…。ダッタ、この者は危険だ…。此処で…排除せねばなるまい…。」


「クルル。了解だ。兄上。いざ…参るッ…!!」


右のリザードマン、赤色の鱗のダッタが俺に槍をついてくる。


俺はそれを飛んで避ける。


「クルル…?飛んだ…?」


「クルルル…。ダッタっ!!」


…魔法を…。水辺だから、雷系の魔法を使ってみよう…か。俺は左掌を我が物顔で二人のリザードマンに見せつける。詠唱なんて…必要ない。


「『サンダー』」


「クルッ!?」


左掌から雷の玉が射出され、ダッタの体を放電。ダッタの鱗は焼け焦げ、ダッタは地面に伏せ倒れた。…殺すほどのパワーは出してはいない。雷系の中でも最下位の魔法だからだ。


「クルルル?…まさか、人間が…。」


「ふっふっふー…!!これで、わかってもらえたかな?リザードマン君。」


「キモイですよ。アイリス様。」


ドヤ顔くらいしても良いじゃんっ!!

死んでる目をしてるリーファさんを半ば恨めしく睨みつけていると、牙竜の里奥から何かがドシドシと地鳴りと共にやってくる。…巨大な体躯のリザードマンだ。ザッタやダッタは人並みの体躯だが、それよりも一回り大きい。

黒い鱗に爬虫類の赤眼が俺たちを見る。鍛えられた体からも感じられる覇気からも強者であることが感じられた。


「…何者だ。人間よ。」


「…俺は魔女アイリス。このマカの森の支配者となる者だっ!!」


俺は声高らかにその意を示す。

目の前のリザードマンは口角を上げ、持っていた薙刀のような武器の持ち手の下、刃が無い方をバンッと突き下ろした。


「…グルル…。男児のような物言いをする女よ。我らは強き者を好む戦闘種族。このダッタは里でも上位の強き者。貴君はそれに勝った。…この里を自由に徘徊する権利、この族長ランドルの名において許す。」


男、ランドルは地鳴りのように低い声で、俺にそう言った。…話がわかるやつで良かったよ…。


リーファさんが優しげに微笑む。俺たちはランドルに案内される形となった。ランドルは街を歩いているだけで皆から歓喜の声があげられていた。…カリスマなんだな。


牙竜の里は何処か、繁華街のようだった。蛮族のようなリザードマン達だったが、少なくとも料理や藁のテントに隠れて、木で作られた家までもある。なるほど、立派だ。


「グルル…。どうだ。俺たちの里は。」


「良い里だね。リザードマン達が生き生きしてる。」


…ランドルは笑顔で俺を見た。リザードマンといっても…なにか人間らしいんだな。言葉は思いつかないけど…。だからこそなのだろう。家と家の間、路地とでも言うか…。路地裏で何処か、人らしい種族がリザードマンの子どもに襲われていた。


「あれは?」


俺は指を指してそれを言う。リーファさんはなにか目を逸らしているような感じだった。ランドルは眉間に皺を寄せて、それらを睨む。


「…グルル…。かの者たちは竜人族。我ら、リザードマンの直系に当たる兄弟分のような種族だ。今のリザードマンからは何にも思われていないが。すまぬ、恥ずかしいところを…。」


「…差別ってやつか。」


そういえば、リーファさんが言っていたな…。少し、胸糞悪い。リーファさんが俺の手を握る。手を出すな…とでも言いたげな目だった。


「…グルル。話は王宮たる『リューキュー』でお話しする。この件には魔王も関係するが故な。我らは無敵のリザードマン。…ヤワな竜人族は鈍である。」


そう言うとランドルは歩き出そうとした。俺もそれについて行こう…ん?


「あの…お姉さん…お花…買ってくれない…ですか?」


しどろもどろの少女が花の入ったカゴを持って、俺のスカートをギュッと握っている。周りのリザードマン達がそれを慌てた顔で見ている。


「…グルル…。お客人、その者に手出し無用。花など売って生計を立てている貧乏人。無視で結構。」


…ランドルが此方を見ていない。此方を見ずに低い声で呟いた。少女を見てみる。小学2、3年生ほどの少女で服装は此処では珍しい和服。赤い着物を着た白いポニーテールの少女だ。ただその肩甲骨あたりから小さな羽が生えている。…リザードマンによく似ているな。これが竜人族…。


「…リーファさん。」


「…此処で彼女の味方をすれば、リザードマン達の協力は仰げません。…ただ、私は彼女の味方をしたいです。」


リーファさんが珍しく、キリッとした目で俺を見ている。だ女神が本当の意味で慈愛に満ちた神に見えてきた…。


「何馬鹿なことを言ってるんですかっ!!…兎に角、彼女を放ってはおけません。ランドル様、彼女を助けてもよろしいでしょうか!!」


「…グルル…。それはこのリザードマンの掟に反する。あまり、我儘、言われませぬよう…。竜人族は容姿端麗ではあるが、力を持たぬ。我々からしたら、なんの魅力もない吐口。言いようによっては、リザードマンの汚点とも言える。個人的な感情で掟を穢されませぬよう…。」


「なっ!?」


リーファさんがワナワナと震えている。泣くか…?アイリスちゃん、胸なら貸してあげるよ?


「泣きませんよっ!!馬鹿主人ッ!!」


…半泣きですがな…。

ツンデレなんだから…もう。俺はリーファさんの頭をぽんぽんと叩いて、少女を見る。此方を見たランドルに怯んでいるのか、怖がっている様子だった。


「ねえ。」


「…っ!!…はい…。」


「お花、いくら…?」


「…へ?」


…とはいえ、手持ちもないし、何千円!!とか言われたら言われたでキツイんだけど…。てか、通貨的な問題はどうなってるんだろうか…。


「…ろ、6ペック…です…。」


「…6ペック?」


リーファさんが耳打ちで教えてくれた。大体、日本のお金で120円ほどらしい。安いもんだね。俺はポケットから小銭袋を取り出し、あらかじめリーファさんに渡されていたお小遣いから6枚取り出し、少女に与えた。


「はいっ。」


「あっ…ありがとう…ございます…。」


…俺は少女からお金の代わりにお花を一輪もらった。コスモス…みたいな花だ。…とりあえず、少女は笑顔になったな。元気っこみたいな笑顔じゃなくて、微笑んだみたいな…。


「…グルル…。お客人。自身の行い、何をしたか…お分かりか?」


「…さっきも言ったけど。此処は良いところだね。ランドル。」


ランドルの方を見るとギチギチと音を立て、薙刀を握っている。表情からはわからないが、かなりブチギレているな…。リザードマンや少女だけならともかく、リーファさんまで怯えている。


「…ランドル。此処は集落としての基礎が少し高い。物々交換ではなく、貨幣との交換。賢いやり方だ。さしづめ、先代魔王『ルシフェル』の入れ知恵だね。」


「…グルル…。何が言いたい。お客人。」


「…ほんと、良いところだよ。…だからこそ、なんでこの子も笑えるところにしなかったのかな。」


俺は少女の頭を撫でる。

ランドルは首を傾げた。何もわかってないかのようにとぼけてはいたが、目だけはマジだった。


「…グルル…魔の王になる…だったな。お前、そんなので魔の王になれると本気で思っておられるのか…?」


「あぁ。無益な殺生はしない。全種族が平穏に生きられる世の中にする。それが魔王になった後にすることだよ。」


「…グルル…。そんな夢物語…。成功するとでも?」


「…お前達のおかげさ。お前達のおかげで俺の魔王道が決まった。」


…こんなご大層な考え。こいつらには理解し難いだろう。だが、誇らしげなリーファさんを見るに、彼女は俺がこう言い出すのを見抜いていたのかもしれない。


…よくある話だ。善良な人間が世界征服をすれば、それは平和につながるなど。俺もお気楽でご大層な考えだとは思う。だからこそ、俺は実現する。


「…グルル…。わかった。今回は不問にする。次はないぞ。魔女アイリス。必ず、そんな理想はなくなると知る…。」


そう言うとランドルは静かに歩いて行った。俺も少女を連れて、リューキューへと入って行った。

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