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第4話『女だけど、男の友情が芽生えました』

「…狼の部族ですか。」


リーファさんが帰ってきて、ご飯の支度をしながら、例の件を伝えてみた。


「…コボルト。或いは獣人ですか。なるほど。確かに最初に制圧するには簡単な部類ですし、戦闘力も高い…ですが、人間に靡くでしょうか。いかんせん、プライドが高いので…。」


「なるほど。」


「…行ってみますか?私も、少々どれ…仲間が欲しかったところなので。」


…笑顔でえげつないこと言うなぁ…。

てな訳でやってきました、狼の村!!茅葺き屋根に藁で作られた家。家から出る煙はおそらく、調理などの火だろう。文化レベルは原人並みにあると思われる。


「…何者だ。この近くからやってきたようだが。」


第一村民が話しかけてくる。声の太さからして男っぽいな。二足歩行の狼…か?

顔は狼、青い毛、緑の目、そしてツンッと立った三角耳。ぼろ切れのような服や、此方に向けるシャベルのような武器。確かにそれなりの生活をしている気がする。


「もう一度言う。何者だ。」


狼野郎が俺たちにそう話しかける。


「…我々はこの近くに住む魔法使いの一派です。あなた方に協力を煽りたく、此処まで馳せ参じました。」


「…協力?」


狼男が首を傾げる。リーファさんは此方の要求を速やかに伝えた。『魔女アイリスに仕えて欲しい』、『何れは魔王となり、この土地を統治する。その場合の安寧と秩序を約束する』…と。


「…俺たちにそのような眉唾な話を信じろと?…第一、そこの贅肉女が魔王になれる器なものか。此処にいたルシフェルは死んだ。最早、魔王などに頼らない。」


…ま、こうなるよね。

待て…誰が贅肉だって…?


「おい…。」


「…第一、貴様らは礼儀知らずだ。俺たちは俺たちの幸せというものがある。…其の手を退けろ。贅肉女。汚らしい。もう少し鍛えたらどうだ。」


…肩を掴んだ手をいとも容易く、跳ね除けられた。成る程、今ので確信した。コイツらは俺を贅肉女と罵っているのだな…!!

まぁ、魔物と人間の価値観は違うものだし?しゃーないかもしれないけど?女の子に対してそれは無いんじゃ無いかなぁ?


「…君、名前は?」


「あ、アイリス様…?と、とんでもない顔をなさってますよ…。」


リーファさん…。止めんでくれ…。

このクソ野郎は俺が殺されなければ、多分、お上が許してくれないィ…!!


「…俺か。俺はオルトロ。この村の村長だ。」


あらぁ……村長さん……。

ソンチョウさんッ!?


「…そうか。それで、そんなご大層な態度を…?」


「…魔女だがなんだか知らんが、我々の平和を壊すのなら、この俺が此処で仕留める。」


オルトロが俺に向かってあのシャベルのような武器の先端を俺に向けてくる。少し指でなぞってみるが、鋭利だな。少しなぞるだけで指が切れた。


それを見てオルトロが犬歯を見せてニヤリと笑った。


「どうだ。人間の女、怖気付いたか?」


「…ほお?」


…この俺に怖気付いたか、だと?

俺がここまでどんなに理不尽に耐えてきたか、わかってるのか?

男兄弟の次男に生まれ、醜悪な見た目で女の子には蔑まれ、最終的にはブラック企業で一生を終える…!!これを理不尽と言わず、なんと言うべきか…。


「…やはり、痛みで泣いているでは無いか?」


「痛いからじゃ無いわっ!!」


「ふっ…。では、今から決闘か。俺とて、コボルトの豪傑。女には負けんぞ。」


その掛け声にコボルトどもが一斉に駆け寄ってくる。円形に俺たちを包み、リーファさんもその中に加わる。

コボルトどもからは俺を心配する声や俺に対する罵声やらが飛び交っているが、リーファさんはなにやら柔和な笑みを浮かべていた。


「…来ないのか。こっちから行くぞッ!!」


オルトロが俺にシャベルのような武器でついてくる。


俺はそれを右にステップで避ける。


…先に武器から壊させてもらおう。


「『フレア』」


指パッチンでコボルトのシャベルを爆散させる。


あの驚いてた顔…。めちゃくちゃいいな。


「チッ…。魔法か。だが、ウオォォォッ!!」


次は殴りかかってくる…か。


俺はその拳を受け止める。奴め。まさか女に止められるとは梅雨知らず、汗だくで驚いてやがるぜ…。


「…なん…だと…?」


「ふっ…。俺をなめすぎだぜ。ワンちゃん。」


「…キモいです。アイリス様。」


…ぐっ。リーファさんの笑顔の言葉が心にささる…。刺さりすぎるぅ…!!


「…くっ。」


俺はオルトロの拳を離す。

オルトロはなにやら俺を睨みつけて、少しずつ下がっていく。


「…チッ。悔しいが、貴様の力は本物らしいな。魔女様。」


「ふふっ。わかってくれて嬉しいよ。」


ニヤッと笑うオルトロ。

その手を俺は握る。ふさふさしてて、だが、ゴツゴツとしている感触は元の俺の手のようだった。


「…拳を交え、わかった。お前らは悪い奴じゃ無い。…新たな友よ。歓迎する。」


「あぁ。」


新たな男の友情ってやつが芽生えた瞬間だった。…ま、今、俺、女だけど。

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