第17話『魔王の秘密』
「…なんちゅうもん連れてきてるんですか…!!」
「…だから、エルフと死神。」
…なんか問題あるかな。
ニコニコとしている死神と最早、ツッコミ疲れた俺の腕を抱き抱えるエルフ。
「問題あるかなですって…!!問題しかないですよッ!!エルフはさておき、死神って…!!」
「死神とは失敬な。私めにはアイリス様に頂いたグリムという崇高なる名がッ!!」
「貴方は黙っててくださいッ!!」
「あのさ、そんなに重要なこと?」
…キッと睨みつけてくるリーファさん。
ことの重大さがちっともわかってないとでも言いたげだ。
「…そもそも、死神が人に靡くなんて事例、過去のどの文献を探しても出てこないような珍妙なことです。それも凶災ともなれば、ルシフェルの幹部も幹部。右腕とも言える人物…そんな人がなんの条件もつけず、仲間になるなどあり得ますか!?」
「…うっ。」
そう言われれば…そうだ。
あの、キール伯爵の怯え顔。そして、今のリーファさんの慌てよう…。やっぱ、とんでもないやつなのかなぁ…。
あと、動きづらさが尋常じゃない。
メーデルさん、懐いてくれるのは結構だけど、腕を抱かれると…。ニコっ!!じゃないの。
「…その人もなんなんですか?来た瞬間、アイリス様にひっついて。」
「何を言う。妾とアイリスは将来を誓い合った仲だ。この者は初めて会った妾を下賤な愚人どもから、必死で守ろうとした。…なんと…勇ましい横顔っ…!!これは…妾にとって運命のお方に違いない!!…そういうわけで、妾はこの者を伴侶にしたく…。」
「…どういうことですか。」
…もはや、何も言わないよ。
だって、この子、何も聞いてくださらないんだもの。そんな目で見なくて良いじゃない…。
「…なるほど。百歩譲って、両者、アイリス様の味方…と言うことならば、此処は引きます。そこのグリムも心読しましたが、嘘は言ってないようですからね。とりあえず、ステータスオープン。」
…そうだね。
変な力を持ってなければ良いんだけれど…。
グリム LV 99
種族:死神
HP200000/200000
MP150000/150000
スキル
『即死魔法』LV5 『炎魔法』LV8 『全属性耐性』LV2
『執行者』LV1
…なにこの、小学生が考えた最強のステータスみたいな…。こんなバランスブレイカー、序盤で出して良いのかよ…。
…執行者ってなんだろ。
スキル『執行者』
個体名〈グリム〉専用のスキル。ステータスを飛躍的に上げ、更には魔法火力を1段階上げる。しかし、主人の名でのみ発動でき、文字通り、執行者として敵を蹂躙し、倒した数に応じてステータスの上がり幅が決まる。
…パワー型ってこと?
とにかく、戦闘要員が欠けていた俺たちのチームにはいいスパイスになってくれる…かも?
「…さて、エルフの里とどう友好関係を気づくか。」
「アイリスが望むなら、妾がエルフを統率してみせようぞ。我が嫁たるアイリスの頼みだ…妾はどんな手でもしてやろう。で!!式場はどこにするっ?」
「…。」
…緊張感がない…。
さて、式場…じゃなくて、エルフの里は森の奥。神聖を好み、穢れを嫌う格式高い厳格な種族と聞いている。このメーデルを持ってしても俺の仲間になってくれるかはわからない。
…何故なら、メーデルは2度、人間に捕まっているから。
この性格だ。
さぞかし、チョロい方法で捕まったといえよう。そんな奴を王族ではあろうと厳格な種族が入れるだろうか。
答えはどちらとも言えない。
物は試しという言葉もあるし…明日、直接、向かってみるか。他の魔王たち…特にマモンドの動向は気になる。あれは粘着質なタイプだ。
「…そうですね。魔物の王…魔王たち。その中のマモンドは特に危険な男です。牙竜の里の一件、マカの森を狙っている以上、あのようなことがまた起こりうるでしょうね。」
「…そのマモンドとやら。妾も母上から聞いている。強欲の魔王。何がなんでも欲しいものを手に入れる…それに手段は選ばない。危険な思想を持っている…とな。」
…そういえば、メーデルはやけに魔王に対して詳しいな。いや、メーデルのお母さんが詳しいのか…。マモンドにルシフェル…特に後者は聞いておいて損はない。
「…魔王について…か。妾の知る限りで良ければいいぞ。結婚を約束しておるのだ。隠し事は無い方が夫婦円満に近づくだろう。」
…リーファさんのジト目と…柱の影にいるルカちゃんの純粋な目が心にくるよ…。
メーデルは一人トリップしてるし…。
「…よし。話してやろうぞ。…まず、魔王とは聖教会に対抗するため、神々『偶像者』が作り出した7つの席を死守する者…らしい。」
「偶像者?」
「…そこは妾もよくわからん。兎に角、その偶像者とやらが作り出した席には知恵を持つ魔物。悪魔、ヴァンパイア、ドラゴン、オーガ、ドワーフ、淫魔、ダークエルフの7人が最初にその椅子に座った。それが、現在の魔王たちだ。」
…サンタナはおそらく悪魔。そして、マモンドがオーガか。ルシフェル…は、なんだ?
ウィザードロード…とか言ってたが…。
「ルシフェルはダークエルフだ。エルフは神聖な種族ゆえ、神直属の膨大な魔力を用いる。最も、奴の場合、魔王道具の力もあったが…。」
「…魔王道具?」
「…あぁ。だが、妾も深くまでは知らぬ。伝承だけで良ければ伝えるが…?」
「頼むっ。」
「ふふっ。さすが、妾の惚れた女だ。…さて、魔王道具とは、言わば魔王たちの力を高める『生きている』道具。『一つは獄の炎より生まれた。一つは深海の淵より目覚めた。一つは草木の繁栄を願い、息をした。一つは雷鳴の中、天より現れた。一つは鳥たちに囲まれ、眠りについた。一つはその吐息で緑を枯らした。…そして、一つは全ての頂き。数多くの命をつくり、世界すら作り出した。』」
…わけがわからないよ…。
「伝承とはそういうものだ。だが、母上なら何か知っているだろうな。」
「とりあえず、お風呂、入っちゃってください。沸かしてありますので。」
「うん。」
…リーファさん。ご飯以外は有能だからな。
さて、行きますかっと。
「もちろん、妾と共に入るよな?」
「…は?」
「妾と主はもはや、夫婦であるだろう?夫婦は一緒に湯に浸かるものだ。というか、妾が入りたい!!…良いか?」
…上目遣いにうるうるは反則でしょ…。
ルカちゃんもおんなじことするけど、女の子のこれは反則だよね…。
「わかった、わかったから。…行くよ。」
「あぁ!!」
…さて、これからどうするかな。