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第16話『違う』

「貴様はあのッ!!帝都デュランダルを滅ぼした傲慢の魔王の一団…!!凶災『グリムリーパー』ッ!!」


「…現在はグリムという名を頂き、この次期傲慢の魔王、虹の魔女『アイリス』様に使える身でございます。過去など…あなた方の命ほどのちっぽけな価値しかございませぬよ。」


「チッ!!だが、いくら伝説の一団でも攻撃しか出来ない脳筋ッ!!これほどの銃弾の雨、貴様一人で受け切れるわけないだろッ!!やれぇッ!!」


男の声に銃口は火を吹く。

ありったけの金属の弾丸がグリムに降り注ぐ。俺は守護魔法でメーデルを守りながらそれを見ていた。


「ハッハッハッ!!馬鹿めッ!!この俺を怒らせるからこんなことになるのだッ!!ハッハッハッ!!」


「…おや。なにか、面白いことでも起こったのですか?」


銃弾の雨が止む。


煙が止み、そこにあったのは…無数の黒い手。


そして、その中心でニヤリと笑う死神(グリム)


「なっ!?…何故だッ!!確実に…入っていただろッ!?」


「影魔法『悪魔の手(グレムリン・ハンド)』。拘束も守護もお手の物…でございます。さて…。」


ボキボキボキッ!!


悪魔の手が周りの従者の首をへし折る。


…ううわ。

ルカちゃんがいたら卒倒もんだな…これ。


「なんだと…!?俺の…従者どもが…!!」


「…ふむ。この程度ですか。晩餐の前の前菜にすらなりませんね。」


指パッチンで死体が地面に沈んでいく。


さっきのやつで回収しているようだ。…なんか、とんでもないやつを仲間にしてしまった…。


さて、さっきの伯爵は尻餅をついて、ビビっている。それを見てニヤリと笑うグリム。うん。怖い。


「や、やめろッ!!俺の父上を誰だと心得るッ!!俺の父上は帝都デュランダル戦で勇敢に戦った騎士の一人だぞッ!!貴様など、簡単に倒せるのだぞッ!?」


「…その騎士団の末席の老害が私を倒すのですか。それは些か甘美な響きですねぇ…。血沸き肉踊る戦い。私はそれが…好きなのに…。こんな人の形をした肉どもを痛ぶる趣味は無いのです。対等に戦ってこそ、遊戯(戦い)は名を持つのです。」


「な、何を言っているんだッ!!」


「…失敬。自分語りに花咲かせすぎました。…このままではアイリス様がお腹を空かせてしまいます。貴方もお仲間と同じところへ連れて行ってあげましょう。」


「くっ!!」


伯爵は近くに落ちていた銃を取り、その銃口をグリムに向ける。


グリムはそれを見て呆れたような悲しそうな表情になった。


「…どこまで過ちを犯せばいいのやら。貴方のお父上のお仲間は凄かった。」


「何を言っているんだッ!!それ以上、近づけば殺すぞッ!!」


…ただ淡々と言葉を紡ぎながら、進んでいくグリム。


伯爵は徐々に後退りしながら、銃の引き金に指を添えた。


「我々、死神にとって人の魂などただの食事でしかありません。ですが、私はそうは思っておりません。人の魂はまさに龍の眼ッ!!人の一生を語る上で開眼と共に画竜点睛を欠くというものッ!!それは最後の仕上げなのですッ!!…嗚呼、輝かしい最期の瞳…。せめて…無駄な足掻きはやめ、大人しく散っていただけませんか?…キール伯爵殿?」


「やめろッ…!!来るなぁぁぁッ!!」


バンッ!!


銃声が広い奴隷市場に響き渡る。


距離はおよそ拳一個分…だったにもかかわらず、グリムは無傷だった。


「…私、悲しゅうございます。貴方のようなお方を…この手で殺めてしまうこと。」


「ひっ…ヒィィィッ!!」


銃を置いて敗走する伯爵。


その伯爵を舌なめずりをしてみるグリム。


…目にも止まらぬ速さで、伯爵の前にワープする。


「なっ!?」


「…何処へ逃げるのですか?私はまだ貴方様に用がございます。まだ貴方様の瞳に何が映るのか…私めは見届けておりませぬゆえ。」


グリムの右手の爪が伸びていく。一つ一つが刀のように鋭く…伸びていく。


男はもう恐怖で泣いてしまっている。情けないなぁ…とも思うが、俺もこの状況はそう思う。


「…悪魔の爪(グレムリン・ネイル)


「ひっ!?」


「…さて。そろそろその減らず口、最期にさせて頂きましょう。」


人差し指の爪で伯爵の顎をクイッとするグリム。


…そして、ズブズブと首に爪を貫通させる。…考えただけで痛い。ちなみにメーデルは目を背けている。意外と可愛いとこ、あるじゃん。


「…終わりです。」


…そして、グリムは爪で伯爵の首を刎ねた。


「終わりましたよ。アイリス様。」


「お、おう…。」


中々に無慈悲な男だ。

血のついた顔で穏やかな笑みを浮かべている。周りはまるで何もなかったかのように騒ぎ始めた。


「…何故だ…。何故、人が死んだのに…此処のものたちは何も思わぬのだッ!!」


…メーデルが怯えた顔でそう言った。

グリムはなおも穏やかに微笑む。


「あぁ…。此処ではたとえ、どんな身分のどの人間が死んでも無かったことにされるのです。それが闇の奴隷市場の全貌。騎士団には通達されていませんが、都の上層はよく利用していますよ。例えば、マーメイドの肉や、鬼の角…エルフの髪とかね。」


「…下賤だ…!!反吐が出る…!!妾は人が死ぬのを見るのはもう沢山だッ!!」


…メーデルは涙を浮かべ、グリムを怖がっている。俺も正直言ってこの男の全貌がわからない。だが、敵に回してはいけないのは確かだ。サンタナとは別の意味で怖い。


「…グリム。」


「なんでしょうか。我が主人。」


「…今回はありがとう。だが、今後は俺に危害を加える人間や魔物以外、殺さないと約束してくれるか。」


…グリムの笑みが少し寂しげになるが、すぐに穏やかな笑みへと戻った。


「…委細承知致しました。今世の魔王様は殺しはお嫌いとのこと。このグリム、今後一切の無断な殺しはやらないことをお約束致しましょう。」


…本当かなぁ…。


「…良いのか?」


隣にいたメーデルがか細い声で聞いてきた。


「何が?」


「…魔王とは邪智暴虐の限りを尽くし、殺生を生業とし、恐怖で領地を支配する者…ではないのか?そんなことをして、悪人どもが成り上がるぞ…?」


「…別にいいよ。そんなの、興味ないし。」


…どちらかと言うと俺もビビリだから無駄な殺しはしたくない。スプラッタとか見たら寝れないぐらいだし…。うちは3人ともそういうの無理だからなぁ…。


部屋の掃除をしてたら、箱に入った生首が出てきて、速攻で外へ放り投げて、その夜にみんなで一つの布団で仲良く寝るという珍事件が発生したからね。…なんだったんだろ…あれ。


「…妾は何を気にしていたのか…。」


「…ん?」


「…わかった。妾が貴様らをエルフの里に招待する。我が伴侶も紹介したいしな。」


「…は?」


…はんりょ?

伴侶…って…どゆこと?

どう言う話でそう言ったことになったんですか?


俺が聞き直すとメーデルは驚いた顔で聞いてきた。


「ち、違うのか?母上からは優しくされた相手が貴女の伴侶だと夜な夜な聞かされていたが…。」


「…え、何その話。」


…彼女の貞操概念の間違いは母上からか…。てか、それじゃあ危ない人に連れてかれるのも納得だな。


「あのなぁ…。」


「あっ、異性ではないことは重々承知だぞ?そんなことは気にしない。というか、逆に他の男よりアイリスの方が妾は良いっ!!」


「えと…。」


「なりませぬッ!!」


…おお…。グリム…!!助けてくれるのか…!!


「我が高貴なる主人アイリス様が誰かのものになるなど…断じて許しませんッ!!なるのなら、我が手中に収め、その美貌と魂の輝きを我が物に…!!」


…あっ。こっちも危ない人だった…。


「何を言うッ!!妾はアイリスにアイリスのものだと言われたぞッ!!これはもう…所謂、殿方のぷ、プロポーズというものだろッ!!妾はもう…アイリス以外のものになるつもりはないッ!!」


「なっ!?…負けたッ…!!」


…なにこれ。

メーデルが胸を張って誇らしくしている上、グリムが膝をついて落胆している。

…もう一度言う…なにこれ。


「アイリス様…末永くお幸せに…。」


「いや、違うって。」


「何が違うというっ!!妾はもうアイリスにしか靡かぬ!!例え、お主が他のモノを好きになっても妾はお主以外に恋心は抱かぬぞっ!!」


「…。」


…言葉が思いつかない。

いつのまにか腕を抱いてるし…。

グリムも落胆した様子で着いてきてるし…。グリムには元気出すようにあとで言っておくか…。


…なんか面倒なことになってきたなぁ…。

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