第13話『赤色の宝石』
「う、うーん…。」
…帰ってきてから、眠りにつくまで約10秒。
身体中がギシギシする…そうなんどもソファで寝てはいけないな。
昨日はステータスやらスキルやら…実践やらで頭がパンクしかけた。てか、俺TUEEEじゃなかったんだね。なんか、ホッとしたわ。
俺、レベル上げとか好きなタイプだし。
うん?なんか、良い匂いがするな。
食堂からか…。
「あっ。アイリス様、おはよう…御座います…。」
「うん。ルカちゃん。おはよう。」
…おお。メイド服も可愛いじゃん。
厨房に立ってたら案の定、ルカちゃんでした。いや、リーファさんだったら、叩き出してたし…。
朝弱い系女神様のリーファさんはこの時間起きてないからね。
「ルカちゃん、料理するの?」
「えっ…お、お口に合うかは…わかりませんが…ひ、一人で…今まで居たので…。作る人も…おらず…自分で作って食べてました…。」
「あっ…そう。」
…気まずっ…。
やってしまったぁぁ…。思えば、ここに来てリーファさん以外は男としか喋ったこと無い…。
無論、現世でも女のおの字も無かったわけだし…。デリカシーも無ければ、どう話を振って良いかもわからん!!
「…できました…。」
「おっ。どれどれ?」
…おお、ジャパニーズ朝ごはんって感じだね。
焼き鮭、味噌汁、それとご飯と沢庵。
…そういえば昨日から漬けてたっけ。てか、米なんてあったんだなぁ…。
「いただきます。」
…焼き鮭なんていつぶりだろう…。
箸で切って、ご飯の上に乗せて食べる。
「うまっ!!」
「ほんとですか!?…よかったぁぁぁ…。」
パァァみたいな効果音が出そうな笑顔。
こっちまで綻んでしまう。可愛いは正義だね。なんか、応援したくなるような子だ。
「…おはよーございまーす…。あれ?もう朝ごはん食べてるんですか?」
「うん。お先にいただいてるよ。」
…これでご飯当番も決まったね。
ルカちゃん、お嫁に欲しいわぁぁ…。
「えっ…。なんですか…?ロリコンですか…?」
「ロリ…なんですか?」
…余計な知識を植えないで良いよ。リーファさん。
ルカちゃんも興味津々な顔でこっち見ないの。小首傾げて…。
「…違うからね。」
「ルカちゃん、この人に近づいちゃダメですよ?危ないですから。」
…もはや、リーファさんのジト目は恒例行事だよね。ルカちゃんの肩掴んで、そんな必死に言わなくても…。
「…えと…何かは…わかりませんが…アイリス様は良い人です!!」
…。
「アイリス様…言わなくても分かります…。」
「あぁ。」
「「良い子すぎる…。」」
「えっ!?何故、お二人は泣かれているんですか!?」
気にしないでぇぇ…!!
「ルカちゃんはそのままおっきくなってくださいねぇぇ…!!」
「えと…はいっ!!」
あぁ…。
ルカちゃん、ホントいい子。
ご飯も作れるし、一家に一台ルカちゃんだわ。
でも、ルカちゃんってなかなかアレが欲しいとか、これが欲しいって言い出さないんだよな。
お買い物と視察がてら、いつもの人のいる街『アルマス』にいるけれど、何が欲しいとも…何かが欲しいって目もしない。
…そこそこ、面白そうなものがいっぱいあるとこなんだがな…。
この歳ぐらいなら、そんなことを言ってもおかしくない。先入観…て言っちゃえばおしまいだけど…花を売って生計を立ててた子だ。
お金には過敏なのかもしれない。
「…ルカちゃん。本当に何も要らないの?服とか…。」
「…私が何かを欲しがるのは…烏滸がましいです…。アイリス様達と…一緒に居られるだけで…満足ですから。」
…守りたい、その笑顔…。
とまぁ、こんな感じではぐらかされる始末。リーファさんに心読してもらってもおんなじことを言われた。
…ルカちゃん。
物欲が無くて、手がかからないのは良いとは思われるが…こっちとしては少し心配だ。
「アイリス様…要らないと言っている以上、あまりしつこいのは如何かと。」
「…でもなぁ…。」
「…では、何か買い与えては如何ですか?いくら、要らないと言っていても、アイリス様からの贈り物なら、貰ってくれる…のでは?」
…なるほど。
でも、何をあげれば良いのか…。
「ん?」
…赤い髪留めか。
宝石の周りを薔薇のような金の縁取りがされている。より赤色が引き立っている感じがする。あの歳の子が持つには少し高すぎる気も…しなくも無いが…。
「…リーファさん?」
「…わかりました。…すこし、切り詰めてみます。」
…すみません…。
「…あっ。アイリス様。」
公園に待たせてあったルカちゃん。
シャドウバットが周りに巡回して、不届なやつは知らせるようにしておいたので、安心安全…っと。
「待った?」
「いえ…。で、お買い物はおすみになった…のですか?」
俺が来るや否や、俺の腕をキュッと握るルカちゃん。口角が自然と綻ぶ。あ〜、桃源郷は此処だったかぁ〜!!
「いっ!?」
…リーファさんに足、踏まれた。
早く渡せってことだろう。俺は肩掛け鞄を開け、紙袋をルカちゃんに渡した。
ルカちゃんはポカンとして、小首を傾げている。
「開けてみて。」
「え?…わかり…ました。」
紙袋を丁寧に開けていくルカちゃん。
紙袋の中から、髪留めを取り出し、目を輝かせながら、見ている。…可愛いなぁ…。
なんか、小動物みたい。
はっと何かに気づき、ブンブンと首を横に振るルカちゃん。
「頂けませんっ!!こんな…高価なもの。」
律儀だなぁ…。
「良いんだよ。これからルカちゃんは俺の家で働いてもらうんだから。これくらい。」
「でも…!!」
仕方ないな。
俺はルカちゃんから髪留めを取り、つけてあげる。髪を掻き上げ、右耳の少し上あたり。邪魔にならないように…と。
「詳しいんですね。」
リーファさんが興味深そうに見た。
「昔、ファッション系の仕事をしててね。」
…まぁ、左遷されて営業系に飛ばされたんだけど。あのクソ親父。他人の不幸がそんなに嬉しいかっての。
「はい。できた。」
俺は鞄から白い手鏡を取り出す。
ルカちゃんは思わず、わぁぁ…と声を出し、うっとりとした様子でそれを見ていた。
リーファさんに目配せすると、リーファさんは上手いウインクで良かったねと俺に言ってきた。
「じゃ、帰ろっか。」
「え、は、はい!!」
ルカちゃんのこめかみ辺りできらりと光る赤色の宝石。…いくらかかったかは…秘密…ね?