第11話『竜の宴会』
「グルルァァァッ!!」
竜の咆哮vsリザードマンの咆哮。
ドッと群れでやってくるトカゲやドレイクなどをリザードマン達がザッパザッパと切り裂く。
カオスドラゴンの息吹。
それを避け、地面に落ちたカオスドラゴンの尾を掴み、ぶん投げるランドル。
カオスドラゴンは頭から湿地の泥にぶつかった。
「グルル…。この湿地なら、我々よりも強い種族は居ない。初めて来ただけの貴君らに…これ以上、好き勝手させては族長の名が泣く…!!」
カオスドラゴンはそれに応えるように吠える。
尻尾を地面に振るい、湿地の水を濁流のように使う。
それをランドルは跳んで避け、空から薙刀を振るい…。
「『流竜斬』ッ!!」
天空から縦薙ぎの一閃を自身の体重を使ってカオスドラゴンの頭から入れる。
カオスドラゴンは痛みに声をあげて、暴れる。
「ぐ、ぬぉぉぉ…ッ!!」
そのまま体重を使って耐えるランドル。
そして、カオスドラゴンの頭に刃を入れていく。
腹まで入った時、ランドルの足は地につき、戦いは決した。
真っ二つに避けたカオスドラゴンがその場に落ち、砂となって消えた。
「グルル…。我々の勝利だァァァァッ!!」
…腕を上げ、勝利を喜ぶリザードマン達。
それを祝福するかのように鳥達は歌い、月は上がっていった。
※※※
どうも!!
魔王マモンドとの戦いに勝ったアイリスです!!
今日は牙竜の里で宴会らしいです。
…て言ってもお酒飲めないんだけどね。
「グルル…。アイリス殿…いえ、アイリス様には世話になった。今宵は楽しんでいってください…。」
「あぁ。ありがとう。」
…てか、久々に和服っていう和服を見たな。竜人族は和服みたいなのを着ていたわけだが…。
俺も着させてもらった。
朱色の着物だ。帯は黄色い。
「…ど、どうですか…。アイリス様。」
若草色の着物を着たリーファさん。
…うん、着慣れてない感じがいいね。内股でモジモジしてる感じが可愛い…。
「う、五月蝿いですッ!!」
「ガフッ!!」
…ぶん殴られました。
せやったね…。リーファさんには俺の考えは筒抜けですね。
隅っこでワナワナ震えているリーファさんも小動物みたいで可愛いです。
「死ねッ!!」
「ゴフッ…!!」
「グルル…。アイリス様、酒の席が出来ました。」
ありがとう…!!ランドル…!!
3回目の照れ隠しはマジで洒落にならないことしてくるからなぁ…。
「グルル…。此方へ…。」
リューキューの大広間的な場所(と言っても木で作られた大きな部屋ってだけ)に竜人族とリザードマンが座っている。
花の女の子は俺の隣に座っている。えらく懐かれたものだ。
「グルル…。アイリス様は呑みますかな?」
「いや、俺たちは呑めないんだよ。」
…恥ずかしながら。
身体が弱いのか、はたまた、元々弱かったのか…。最近、飲んでいなかったのでよくわからない。
それに、リーファさんは飲ませちゃダメだし…。
「グルル…。わかった。では、何か飲み物を用意させましょう。そこの者も。それで良いな?」
花の女の子は俺の隣でうなづいた。
ランドルは柔和な笑みを浮かべ、近くのリザードマンに用意させた。
「…さて、本題だが。」
「グルル…。あぁ。我々、リザードマンは今後、アイリス様の兵隊として、尽力することを誓おう。」
…うん。
リザードマンの後ろ盾があることは嬉しい。
…じゃなくて。
「…そっちもそうだが、リザードマンと竜人族の関係を改めてもらう。」
…リザードマン達が騒めく。
ま、そうなるよな。リザードマンは強さが絶対。そのカースト制の最下位である竜人族と仲良くするなど…。
「グルル…。落ち着けェいッ!!」
ランドルが一喝する。
その声にリザードマン達、竜人族達は黙り込み、ランドルの声に耳を傾けていた。
「グルル…。アイリス様の前だ。我々の名に泥を塗るような行為はするな。…して、リザードマンと竜人族の件ですが…。はっきりと言います。難しいでしょう。」
「…そうか。」
「過去の因縁、というのもあります。…故に少しずつ改善するよう尽力しますが…。」
「それでいいよ。10を0に戻すってのは難しいことだから。」
「グルル…。ありがとうございます…。」
…その声に全員が頭を下げてくる。
なんか、むず痒いな…。そんなご大層なこと言ってないんだが…。
「グルル…。お気に召しましたかな。お食事は全て、この湿地ならではの物です。」
「あぁ。」
…これなら漁業関係のことはリザードマン達に任せればよさそうだ。
所狭しと魚介系が並べられている。どれも上物。脂が乗っててプリッとしている。
「う〜ん…おいひいです!!」
…リーファさんもだいぶ気に入っているみたいだ。酒を飲ませなければ、こんなにもちゃんとしてるのか…。
あのギャップもギャップで…。
花の女の子も笑顔でご飯を食べている。
周りではどんちゃん騒ぎ。綺麗な竜人のお姉さん達がほろ酔いで手を叩きながら、リザードマン達の踊りにノっている。
…そう言えば、花の女の子…と言っているが、この子の名前を聞いていないな…。
「なぁ、ランドル。…この子、名前、なんて言うんだ?」
「…グルル…。その娘ですか…?その娘は…名前など持っておりませぬ…。」
「…は?」
「…竜人族はよっぽど重鎮でしか、名前をつけられぬ場合が多いのです…。番号で言われたり…親と一括りにされたり…。なので、その娘もついておらず、更には両親は共に犬死に…。竜としての役割を重んじておらぬ…ただの人でした。」
…竜としての役割?
まぁ、いいや。じゃあ、名前がないってことかぁ…。
「…なぁ、名前って俺がつけてもいいのか?」
「グルル…!?アイリス様が…?」
「あぁ。この子がここに居るのも半ば俺のせいみたいなところもあるし、それに…なんか可哀想だし…。」
…なんでそんな驚いてるかは知らないけど、結構懐いてくれてるし…。
「グルル…。しかし…名前をつける…と言うことは禁忌に近い行為です…。種族名の他に固有名を持つ者はそれほど強くなりますし、更には名付け親とその者は切っても切れない関係…。言わば、鎖で繋がれている状態。名付けられた者が死ねば、名付け親は弱くなりますし、名付け親が死ねば、名付けられた者も死ぬことになります。」
…え?
NNをつけるのか?みたいな軽い感じのを想像してたんだけど…。
そう、ゲームみたいな。そんな重い話になってるの?…え、怖っ…。
「…つけて…くださるのですか…?」
…隣の少女が消え入りそうな声で俺に話しかけてくる。
いやいやいやッ!!
花の女の子はそれでいいのッ!?
死ぬんだよッ!?俺なんかのためにッ!!
「…魔王になろうとしているお方がこんなことで狼狽えてどうするのですか。…その子を自分の為に殺すぐらいの技量が無いと傲慢の席は狙えませんよ?」
…んなこと言われてもなぁ。
リーファさんよ。
「私は構いませんッ!!アイリス様ッ!!どうか…私にお名前を…!!どんなお名前でも構いません…!!お願いします…!!」
…少女の目がうるうるとして、俺の手を両手で包む。
…精神32歳社畜男性にはそりゃ、ちときちぃよ…お嬢ちゃんよぉ…。
「わかった!!わかったからッ!!」
あれだよ?
俺、アニメとか漫画とかで言うところの目ぇぐるぐる状態よ?混乱してるよ?
…しかし、名前か。
こんなにワクワクしてる顔の少女の期待を裏切るわけにはいかないからなぁ…。なんか、程よく可愛い名前…。
「…ルカ…なんてどうだ?」
「ルカ?…ルカ…!!素晴らしい名前をありがとうございます!!」
ぶんぶん振らないで、御手手千切れるからァァァッ!!
「…ルカちゃんですか。えらく、それっぽい名前…ですが、ダサいですね。」
リーファさんがそう呟いた。
まぁ、いいだろ?
…こんなに喜んでくれてるんだから。
「…グルル…。では、ルカはアイリス様の元で働かせてください。その方が、娘も良いでしょうから。」
「…わかった。」
俺のせいで永久的に呪ってしまったようなものだ。こんな少女にえらいことをしてしまったな…。
「これからよろしくお願いしますっ!!アイリス様っ!!」
「あぁ。」
…まぁ、笑顔だからいっか。
ルカ…白髪のポニーテールをしていて、碧色の目をしている赤の着物に黄色い帯をしており、腰には小刀を刺している。リザードマン同様、肩甲骨からは小さいながらも羽が生えている。