第1話『転生して、美女になる』
…転生ものの寄せ集めみたいにならないよう頑張ります。ギャグかける人って凄いと思うわ。
今日も…仕事か。
学生たちが春休み、新学期などと勤しむ中、俺たち、社畜のリーマンには、そんなものない。いつものように灰色の棺桶の中でカタカタとパソコンを動かし、豚みたいな体をした部長のご機嫌を取るだけ…。
電車の時間など期待しない。終電を逃すなんて日常茶飯事だ。今日も時計の針のめざとい音を無視して、ひたすらにパソコンの画面と睨めっこする。…どうせ、家族なんか居ないんだ。深夜1時までやってたって、別に褒められるわけじゃないし、早死にするならそれも良い。…特に今日は不吉だ。朝から頭の上に鳥のフンをかけられるわ、車に傷つけられるわで…もうクッタクタだ。馬鹿馬鹿しい。
…あぁ。急にすまないな。段々と目がぼやけてきあがった。ここ、数日、帰るなんてことは一度もしていない。家なんてあるだけ無駄だ。小さい頃は親父やらお袋やらが働いてて、一人で家でゲームして…。
「…ふざけんなよ。」
事務椅子から立ち上がり、ふらふらの足でたどり着いた会社の壁をぶん殴る。…何が改革だ。ふざけるな。一度もモテたこともないし、女すらお袋と同級生ぐらいしか見たことねえんだぞ…!!
…一度でいいから上等な女、抱きたかった。おでこから汗が垂れる。身体が、動かねえ…。あ、俺、死ぬんだ。直感的にそう感じた。変な咳と共に血がカーペットの床に吐き出される。目がぼやけて…何色かなんて…わからねえ…。今日で徹夜一週間め…これが人間の…限界…か。
『おーい、何カッコつけてるんですか〜?』
…誰の…声だ…?
俺は確かに死んだ。なんか、変なこと言った気がするけど、確かに死んだはずだ。最期に…豚課長の奴を呪いながら死んだはずだ。
『うーん。確かに死にましたけどぉ〜、とりあえず、起きてくださ〜い?』
「…ん、んんっ…ん〜?」
目を開け、のっそりと立ち上がる。…何処だここ。◯リー・ポッ◯ーのダ◯◯ル◯ア先生と会う、真っ白な駅みたいなところだ。…じゃあ、俺が◯ンブ◯ド◯先生か。…死んでんじゃねえか。
『だーかーらー、死んでんですって。馬鹿なんですか?』
「はぁッ!?誰が馬鹿だ、この野郎。初対面に向かって、失礼じゃないですか…?」
…誰?この人。
青?緑?色の長い髪の超美人。しかも、ボンキュッボンのモデルスタイル!!…女に縁がなかった俺ですら、わかる。こりゃ、上玉だ。
『…あの。それ、本人の前で思わない方が良いですよ?』
…美人さんがジト目でこっちを見てきた。…てか、声、出てた?
『いえ、私、心、読めますから。』
「…は?」
…心が…読める…だと…!?
いやいやいや!?ナチュラルに言うなよ!?そんなもの、ピンク髪のロリッ娘か、同じくピンク髪の頭に飴ちゃんが刺さってる◯谷◯史の声の眼鏡しか出来ないチート級能力よッ!?そーんなもん、ぽんぽん使えてたまるもんですかって…。
『ええ。だから、それ。使えます。私、女神なので。』
「…え?」
…メガミ?カップラーメン…のわけないか。
『…何処をどう見て、そう思えるんですか…?』
頂きました。女神様のジト目。
ってか、女神か…。どう見ても化粧のケバい、服を強化してくれる方の女神じゃないし、かと言って、同じ緑髪でも◯テナ様じゃないし…。
「うん。大体、わかった。」
『…わかってないですよね…。貴方…。』
わかるよー。女神様がとんでもない美人さんってことは。…それに俺が死んでるってことはね。
「てことは、あれでしょ?間違えて殺したから、別の世界で生き帰らせるよー的なやつでしょ?」
『…なんか認めるのは不服ですが、その通りです。後、2、3日生きるはずの貴方の命を間違って、切り刻んでしまいました。…書類みたいなものですね。それで、なんか可哀想になったので違う場所で生き返らせてあげよう…みたいな。』
…へぇ…。
間違えて切り刻むってことあるんだな。
『あります。』
そんなドヤ顔で言われても。てか、顔近いのよ。俺と女神様、ちょっとでも動けばキスできるよ?…したことないけど。
『ダメですよ?私、まだしたくないので。』
そんな笑顔で言わなくても良いじゃないか…。
『…それに。何処見てるんです?女神にセクハラなんて、良い度胸ですね。』
…女神様の腕が俺の胸ぐらに伸びてくる。いや、そんな立派なもの、見るなと言われた方が……なんでもありません。(メッチャ睨まれた…女神様、怖っ!!)
『じゃ、適当に手続きしときますので、あ、あと…どんな姿でも文句言わないでくださいね?』
「…なんか含みあるけど、わかりましたよ。」
『じゃ、いってらっしゃーい。』
…パカッと下から音が聞こえた。俺は一縷の望みを持って、下を見た。真っ白な空間に色が見えた。…地球は青かったとはよく言ったものだ。…逝ってきます。
「落とし穴ってふざけんなァァァァッ!!」
…俺は見事に落ちましたとさ。あの時の女神様と言ったら、膝を曲げて、上品な笑顔で手を振ってやがった。…畜生、不覚にも可愛いと思ってしまったじゃねえか。…あんな女、抱きたいなぁ…。
「…んんっ…ん?」
はい、どうも。俺です。会社で死んで女神に落とされた哀れな転生者です。てな訳で、お決まりの台詞、いっきまーす。
「…此処は…何処だ…?」
…今度は懐かしい木の感触。…これ、机か?それに椅子に…。後ろにはでっかいベッドがある。白いレースカーテンのついた天蓋ベッド…間違ってても知らん。ほんとに何処だ。ここ。
「…あー。ん?」
…なんか、声、高くね。とりあえず、顔をペタペタ触ってみる。髭もないし…指も細いし…それに、なんか髪も長い気がする。てか、真紅?ってのが、違いかもしれない。そんな色の髪。
…で、もう一つ。さっきのさっきで言えることではないかもしれないが、俺の胸ぐらに…なんか、ついてるんだよなぁ…。
「…まさか。」
…ええい。ままよ。
俺は自分の胸のあたりを触る。…ふにゅんってなりましたよ?感触はプリンに近いな。…桃源郷とは此処にあったのか…。文字通りの…ボンキュッボン。あぁ。間違いねえや。この部屋、鏡無かったっけ…?
「…あ、あった。」
壁につけてあったベッドの横に火傷に使う用の鏡台があった。…姿見じゃないのがあれだが…。
「…うん。女だわ。」
そこに映し出されたのは、赤髪ロングのどちらかというとクール系の印象を受ける美人だった。それにピンクのネグリジェワンピース…か。意外と可愛い系かも?
くるくる〜と回ってみたり?ニコッと笑ってみたり…。うん、可愛いわ。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花…的なあれですね。これはおじさんの心臓、鷲掴みですわ。
「むふふ…」
「何気色悪い声出してるんですか?」
…やべ。見られてたか。
俺は取り繕うかのように後ろを見る。…そこに立っていたのはメイドさんだった。間違いない。短髪の緑髪のメイドさん。…あぁ。時を止めたり、毒舌担当だったりするあれか。
「どっちでもないですよ。転生者さん。」
「そうだよなぁ…。そんな都合よく…ん?転生者さん?」
…何故、俺が転生者だって知ってるんだ?しかも、ナチュラルに心を読むそのスキル…まさか。
「…女神様?」
「はいっ!!女神です!!」
…元気っ子っぽくはにかんだと思ったら、顔を真っ赤にして後ろを向く女神様。…なんだが、変わった感覚だ。本当にあの余裕ぶってた女神様なのか?
「…す、すみません。いかんせん、身体に精神が引っ張られまして…。」
「あ、はい。」
…だが、何故、女神様がこんなとこに…?
「それがですね?聞いてくださいよッ!!ウチの上…神様に貴方が死んだのはお前の責任だから、行く末を見届けてこいって。それで飛ばされたんですよ?どう思います?」
「どう思いますって…。」
…神様も神様でブラックなんだなぁ…としか。
「それで…。」
「もう良い。わかったから、わかったから。」
このままだと色々と不味い気がする。
「…また今度聞いてくださいよ?」
少々不機嫌そうな顔をして、そっぽを向く女神様。確かに前よりは子どもっぽさが目立つ気がするが…。不思議なものだ。
「で、これからどうするんだ?」
「…そうですね。まぁ、それはおいおいってことで。今日からよろしくお願いします。ご主人様。」
「…お、おう…。」
ペコリっとお辞儀をする女神様。…メイドさんって良いよね…。なんか、すごい背徳感。
「…変態。」
「なんか、毒舌になった?女神様。」
プイッとそっぽをむかれた。ほんとに子どもっぽい感じがする。俺に娘ができてたらこんなもんだったのかな。…そう物思いに耽っていると…俺の腹からくぅ〜っと小さな音がする。…なんか、他人に聞かれてると思うと恥ずかしいな。
「…こほんっ。メイドさんならご飯作ってよ。」
「…どうなっても…文句言わないでくださいね。」
念を押されて、そのまま俺たちはキッチンへといった。
転生者:ブラック企業に勤めてて、疲労で亡くなる。女神によって異世界転生されるが、性別まで変換され、ボンキュッボンの赤髪美女になった。
女神様:転生者のリストを事故で破棄してしまい、その責任として、転生後の転生者の付き人として暮らすことができる。スキル『精神魔法』を得意とし、心読が使える。上司の神様のことをジジイと読んだり、意外と毒舌である。