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第七話「嫉妬の悪霊」

「まさかこんな小さな村に、勇者様がお越しになられるとは思いませんでした。なにもない村ですが、どうかゆっくりしていってください」

「ありがとうございます。それで、お聞きしたいことがあるんですが」


 到着したのは、本当に小さな村だった。

 総人口二十人。

 周囲が木々に囲まれており、戦える者は二人。その一人は、六十代で、最近目が悪くなってきているらしい。


「この村に伝わる伝説、ですね」

「はい。ここに以前訪れた冒険者達からお聞きしたんですけど」

「伝説と言っても、いいものではありません。実は、ここから東方へ進んだところに小さな泉があるのですが、そこに悪霊が住み着いており、立ち寄った若い男女を呪い殺すという話なのですが」


 確かに、伝説というにはかなり普通というかよくありそうな話だ。

 村長の話では、今から二百年ほど前の話で、一度この村に住んでいた若い男女が退屈しのぎにと怖いもの知らずな行動をとったらしい。


 そして、その男女はいまだに戻ってきていない。

 これは五年前の話。

 男女が帰ってこないのを心配して、その泉に向かったが、特に変わりはなく、男女の姿もなかった。

 

「勇者様達の前に訪れた冒険者さん達も、率先して確認に赴いたのですが、やはり特に変わりのない泉があるばかりで」

「やはり、若い男女じゃない、からでしょうか?」


 その可能性は大だろうな。

 それにしても若い男女の前にだけ現れる悪霊ね……まさかと思うけど、ただの嫉妬で襲っているんじゃないだろうな?


「なるほど。わかりました。そういうことでしたら、今度は私達が確認に行きます」

「よ、よろしいのですか? 聖女様」

「はい。お任せください」


 さすが聖女様。困っている人達は見逃せないということか。

 ……嫌な予感がする。

 

「というわけで、クルート?」

「いやだ」

「今から、私と一緒に泉に行くわよ」


 ほら、やっぱりな! というか、このメンバーで若い男は俺だけだしな。

 関わりをもった瞬間から予知できた展開だよ! ちくしょうが!


「大丈夫! 何かあったら、あたし達が護るから!」

「私も、微力ながら!!」

「……わかったよ。やればいいんだろ」

「うん。素直でよろしい」

「けど、やるならファナ以外。清果かリオが」


 ぎゅっ!!

 

「くあっ!?」


 俺の右手に物凄い圧力!?


「ど、どうかされましたか?」

「いえ、なんでもありませんよ」


 何がなんでもありませんだ。人の手を、骨が砕けんばかりの腕力で握りやがって。



・・・



「心配ないわ。聖女である私が居る限り、悪霊の好きにはさせないから」

「すみません。偽装カップルは泉に着く直前でいいんじゃないでしょうか?」

「あら? こんな美少女と手を繋げるのよ? 何が不満なの?」


 目的地へと向かう俺は、ファナと手を繋ぎ合っていた。

 俺達の予想では、泉に住み着いている悪霊は、若い男女に嫉妬をしている。

 なので、恋人のような行動をとることで誘き寄せる作戦だ。


「俺だって、普通なら嬉しいさ。けど、お前とはなぁ」

「照れているのね。可愛いところがあるじゃない」

「照れてません。怖がってるんです」


 本来なら、聖女様と作戦とはいえ手を繋ぎ、恋人のようになれるとなれば世界中の男どもは歓喜の雄叫びを上げるだろう。

 俺だって、なにも知らなかったらそうだった。

 けど、前も言ったが、昔から俺はファナのことを知っているし、こいつの怖さを嫌というほど味わっている。

 なので、恐怖のほうが先にきてしまって、素直に喜べない。


「いいなぁ。あたしもクルートと手を繋ぎたいなぁ」

「よし。お姉ちゃん、手をつな」

「ダメよ」

「いでぇ!?」


 逃げられない。

 こいつ……何をそこまでこだわっているんだ? 確かに悪霊ならば聖女の出番だが。

 勇者である清果だって、聖なる力を持っているんだ。だったら、清果に代わったって良いだろうに。


「わっ! わっ! リオ! 今、クルートがお姉ちゃんって! ねえ!!」

「そ、そうですね。あの、清果さん。嬉しいのはわかりましたから、もう少し静かに。あの」


 そういえば、お姉ちゃんって言ったの初めてだったな。ファナから逃げるために言ったのに、嬉しそうだ。

 うん、素直に可愛い。


「……えい」

「いでっ!? ちょ、何すんだよ!?」


 急に、ファナが握る力を強めた。おい、今ごりって。骨大丈夫だよな?


「そろそろ到着するわ。気を引き締めなさいってことよ」

「普通に、言葉で伝えてくれませんかね?」


 ファナに言う通り、小さな泉が見えてきた。

 ここからは、俺とファナだけで泉へ向かう。

 清果とリオは、気づかれないように距離を置いて様子見だ。


「行くわよ、ダーリン」

「へいへい」


 そして、俺達はより一層くっつき合い、泉へと向かった。

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