第六話「実力の差」
周囲から見れば、勇者パーティーは普通の女の子を護衛している冒険者パーティーに見えていることが多い。
なにせ、肝心の勇者である清果の格好が完全に戦いに行くようなものではないからだ。
王都で召喚された清果は、勇者としてあらゆる知識と戦闘訓練を積んできた。
そして、賢者リオを共として旅立つ時に勇者に相応しい防具を進呈されたようなのだが……動きにくそうだからいらないと受け取りを拒否。
防具なし。
着ているのは、元の世界に居た頃の服。魔物の攻撃を食らえばただではすまない。
最初は多くの者達が心配した。しかし、清果はそんな心配など不要とばかりに皆を驚かせるような戦いを繰り広げる。
聖剣、聖槍、聖弓、聖槌とあらゆる聖なる武器を操り、これまで一度たりとも攻撃を受けずに勝利している。
まさに無双にして無敵。
それを示して見せた。
「ひゃっはっはっは! こいつらが勇者ご一考様か? 随分と可愛い勇者様だなぁおい!」
そんな勇者達の前に、三十人を超える盗賊集団が現れた。
「ありゃりゃ。囲まれちゃったね」
「本当に、こういう輩は減らないわね。今が、どんな状況なのか理解していないのかしら」
「理解しているからだろ。魔王軍の侵攻に乗じて悪さをしているんだろうさ」
とはいえ、こいつらも馬鹿だな。
清果のことを知っているのにも関わらず、奇襲をせずに正々堂々と姿を現すとは。
「それで、何のようなのかな?」
余裕の態度の清果である。
「決まってるだろうが! てめぇ達から身ぐるみを全て剥がし、その後は売り飛ばすか、俺達の奴隷にしてやるんだよ!!」
こいつら本気で言っているのか。
いったいどこからあんな自信がくるのか。まあ、少し前の俺も復讐心を燃え上がらせて、無謀にも勇者一行を倒そうとしていたけど。
「まったくもう。しょうがない人達だなぁ。よーし、ここはあたしが一人で相手をしてあげるよ」
「ほう? さすが勇者様だ。この人数を相手に一人で挑むとは」
まあ実際一人でどうにかなりそうだし。
「それじゃあ、さっそく」
刹那。
何もない空間へと手を突っ込み、白銀の弓を取り出す。
聖なる弓。
その名を【聖弓アルガリア】という。
「遠距離攻撃だ! てめぇら、射たれる前に」
「遅いよ」
矢はない。
清果はそのまま弓を天高く構え、弦を引く。放たれるのは、光の矢。
天高く放たれたそれは、周囲に拡散する。
まるで流星群のように。
「ぎゃああ!?」
「に、逃げろお!?」
「あ、それ追尾するから逃げられないよ?」
「なにぃ!?」
可愛い顔をして無慈悲な攻撃。
ただ非殺傷魔法なので、死ぬことはない。ただえげつない衝撃が襲うので気絶はするし、吹き飛んだ先に障害物があれば傷は負う。
「相変わらずえげつないな」
「そうかな?」
「そうだよ」
仲間想いで、子供好き。
だが、その大きすぎる力を仲間のために遠慮なく敵に放つ。これはまだ優しいほうだ。
清果の全力は俺もまだ見れていない。
「それでは縛りますね」
盗賊達との戦闘は呆気なく終わり、気絶した盗賊達をリオが魔法で縛り上げる。
その後、空間魔法で王都の収容所へと放り込む。
「その罪を悔い改めることね」
「ばいばーい」
旅をしてから、こんな調子だ。
最初は、勇者の力に感動していたが、それが時期に己の無力さを知ることになった。
「こーら、なに暗い顔してるの?」
「いて!」
考え事をしていると、ファナに小突かれる。
いや、小突かれたってレベルじゃねぇぞ。
相変わらず加減を知らない奴だ。
「ちゃんと離れないようにね。不安なら手繋ごうか?」
清果はまた姉ぶろうとする。
「ここから少し行けば、小さな村があるはずです」
リオが言っているのは、先ほど助けた冒険者達が教えてくれたことだ。俺達は今、そこへ向かっているのだ。
なにやらその村には、奇妙な伝説が残っているようで、リオはそれに興味津々である。
「どんな伝説なんだろうねぇ」
「さあな。俺は興味ない」
俺の故郷にもいくつか伝説っぽいものがあったけど、ほとんど眉唾で大したものじゃなかったからなぁ。
期待せず行くとしますか。