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第五話「俺だけの暴力聖女」

「もう大丈夫ですよ。さあ、傷口を見せてください」

「は、はい。ありがとうございます、聖女様……!」


 誰だあいつ。

 旅の途中に出会った冒険者パーティーが魔物に襲われ、大怪我を負っていた。

 回復役はおらず、回復薬も尽きていた。


 そこへ偶然現れた勇者一行。

 普通の回復じゃ、間に合わない傷を聖女であるファナはあっという間に回復してしまう。

 傷を負った冒険者へと微笑みかけるその姿はまさに聖女。

 他のメンバーも思わず感謝のお祈りをしてしまうほど。


「では、お気を付けて」

「はい! ありがとうございます! 聖女様!!」

「勇者一行の旅に神の祝福あれ!!」

「このご恩は一生忘れません!!」


 冒険者達と別れた俺達は、また前へ進む。

 そんな中で、俺は最後尾からファナを見詰めている。


 あいつは、どうして聖女なんだろう。

 俺からすれば、ただの暴力女だ。

 昔から、男勝りな行動ばかりで、俺を毎日のように振り回していた。


 だが、それでもあいつは村一番の美少女として成長した。

 そして、勇者パーティーに聖女として迎えられ、数えきれないほどの難病を持つ者達を救った。


 そんな中で、俺にはあれをするな、これをやれ。

 朝は絶対起こしに来るし、なにかと俺の世話を焼こうとする。

 本来なら誰もが羨ましがる展開だが、俺は昔からファナを知っているので、恐怖心が先に出てきて素直に喜べない。


 だからなんだろうな。

 ファナにだけ逆らえないのは。

 

「こら、前を向いて歩かないと転ぶわよ」


 と、俺の隣に移動してきたファナ。

 こうして、並んでみるとこいつって結構小柄なんだな。

 俺と頭二つ分ぐらい違うんじゃないか?

 昔は、俺が少し小さかったけど。こんな小柄で、あんな細腕のどこからあれだけの威力を誇る拳を打ち出せるのか。


「なによ」

「いや、お前って小さいなって」

「あんたが大きくなり過ぎただけよ」


 そう言って、そっぽを向く。

 あぁ、本人は気にしているのか。


「大丈夫だよ、ファナ。あたしだって、そこまで大きくないし」

「清果の世界だと、私ぐらいの女の子はどうなの?」


 俺達の方を向きながら器用に歩きながら、そうだねぇっと呟く。


「ファナって十八歳だったよね?」

「ええ」

「十八歳だと……平均、ううん。異世界人って外国人ってことになるのかな? だったら、小さいのかな?」


 確かに、村にいた同年代の子と比べると、ファナは小さいほうだ。

 よく遊び、よく食べ、よく寝ていたのにも関わらず。

 

「小さいと不便だよな。十八歳なのに子供と間違えられて」


 これは皮肉ではない。

 実際、色んなところで実年齢よりも幼く見えているようで、子供扱いされることが多かった。

 

「ファナの身長は、確か百四十だったっけ?」

「百四十五よ」


 ちなみに俺の身長は百七十八だ。ファナとは三十も差がある。

 こいつは、それに加えて顔も幼い。

 これで大人びた口調をしているんだから、違和感が凄すぎる。まるで、背伸びをした子供だな。


「……待て。なぜ拳を握る」


 殺気を感じとった俺は、無言で拳を握り締めているファナへと問い掛ける。

 決して視線を合わせず、いつでも逃げれるように準備をして。


「さっきから失礼なことを考えてるわよね?」

「まさか」


 平常心だ俺。

 顔や態度に出さなければ、勘違いだと思ってくれるはずだ。


「俺は、可愛いって思ってるだけだよ」


 そして、更に誤魔化すために相手を褒めまくる。

 

「だから、拳を下げてくれ。聖女には暴力は似合わないぜ?」


 追撃のイケヴォイスからの自然に拳へと手を添える。


「ほら、こんなにも小さくて綺麗な手をしているだから。な?」


 どうだ! 中々の名演技だろ。

 言っておくがいつまでもお前にやられる俺じゃないんだぜ? 今の俺は闇の力を手に入れたんだ! いや手に入れてないけど。

 ともかく! 一皮向けた俺のイケメン力に酔いな!


「……」

「お、おぉ。クルートがなんかイケメンっぽくなっちゃった!」

「て、手を握るなんていけません! エッチです!」


 いや、リオさん。あんた、ついさっき手を繋ぐよりもエッチなことしましたからね?

 とはいえ、他の二人も、俺のイケメン力にやられたようだな。これにはファナも言葉が出ないようだ。


「そ。ありがと」


 どうやら乗りきったようだ。

 ぱっと、俺の手を払い、先に進んでいく。


「もしかして、照れてるのかな?」

「あいつが照れるなんて想像できないな」

「そんなことは……ファナさんも女の子なんですから」

 

 まあ確かにな。あまりにも暴力が過ぎるから忘れることがあるが、あいつも立派な乙女。

 でなければ、聖女なんてできない。


「ちょっと、歩くのが遅いわよ」

「いでで!? べ、別に普通だろうが!? てか、腕が折れる!? 折れるから!? 離しやがれ! このぼうりょ」

「ん?」

「……」

 

 くそぉ、結局力で俺を従わせるのか。

 殴られないだけマシだが……将来結婚することがあっても、こいつとだけは御免だぜ。

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