第三話「お姉ちゃんにおまかせ」
「それじゃあ、行こっか」
「ええ。ほら、行くわよクルート」
「へいへい」
町に滞在した期間は三日。
その間に、長旅で減った食材などを補充し、万端な状態で俺達は旅立つ。
ちなみにどこにも大きなカバンはないが、当然だ。
物の大半は、清果の空間魔法で別次元に入っている。
なので、荷物持ちは必要ない。
まあ、俺は自分のものを自分で持っているけど。
「返事は。はい!」
「はい!」
くそ。
どうして、こいつの言うことを聞いてしまうんだ。昔の癖? こいつには子分みたいに扱われていたからな……あぁ、もう! イライラする!
「あっ」
町を出てしばらく。
馬車が魔物に襲われているのを発見した。
丁度いい。
このイライラを、魔物どもにぶつけてやるわぁ!!
「大変! 今すぐ助けに」
「突撃じゃあ!!!」
「え? く、クルート!?」
誰よりも早く俺は駆け抜ける。
魔物の種類は『ソードワーウルフ』という刃の生成する人狼。
奴らに触れれば鉄でも切り裂かれる。
生半可な武器や防具では役に立たない。だからこそ、まずは。
「【速度低下】! 【耐久低下】!!」
速度と、耐久を弱体化させる。
その後は。
「ひゃはははは!! 細切れじゃあ!! ひゃはははは!!!」
鬱憤を晴らすように、魔物達を切り裂いていく。
「ひ、ひいっ!?」
助けた人達が怖がっているようだが、関係ねぇ。
「魔物ども! お前達は俺の鬱憤晴らしに付き合ってもら」
「止めなさい!!!」
「ぐああ!?」
最後の一体を細切れにしようとした刹那。
ファナの横殴りが入る。
派手に吹き飛んだ俺は、そのまま『ソードワーウルフ』へと激突。
聖なる力が加わっていたからなのか。
最後の一体は消滅した。
「それじゃあ、野盗みたいよ。私達は勇者パーティー。誤解されるから止めなさい」
「だ、だからって……聖なる力で殴ること、ねぇ……だろう、が」
というか、なんかめちゃくちゃいてぇ。
なんでだ? 昨日普通に殴られた時よりもいてぇじゃねぇか。
やべ、足腰が……意識が……。
………。
…………あ、れ? なんか、甘い香りが。それになんか移動してる?
「あっ、目が覚めたみたい。大丈夫? クルート」
「清、果?」
目が覚めると、目の前には清果の横顔が見えた。
どうやら、俺は気絶していたみたいで、清果が背負ってくれていたようだ。
うわ、恥ずかしい。年下の、それも女の子に背負われてるなんて。
「一応、回復しておいたけど。大丈夫? どこか痛いところはない?」
「ああ、どこも痛くねぇよ」
「そっか。よかったぁ……」
いつも通り、とは言わないが、少しはマシになってるな。
「本当に心配したわ。まさか一撃で気絶しちゃうなんて」
「普通は、あんな攻撃を食らったら気絶するか、最悪死んでるからな。暴力聖女」
「あれは、仕方なかったのよ。いくら言葉で注意しても、全然聞かなかったあなたが悪いわ」
本当に言葉で止めようとしていたんだろうな。それすら怪しいと思えてしまう。
「そ、それにしてもクルートさん。本当にお強くなられたんですね」
と、リオが褒めてくれるが、俺は深いため息を漏らす。
「つっても、お前達には敵わないけどな」
確かに俺は強くなった。
しかし、それは凡人がちょっと強くなっただけ。まあ、前の俺だったらさっきの『ソードワーウルフ』をあんなにあっさり倒せてなかっただろうな。
「でも、強くなってるよ。すごいよ、クルート」
「……自分で歩く」
今の俺には清果の笑顔は毒だ。
自分で歩けることはわかっている。だから、清果から離れようとするが。
「ダメ」
「なんで」
がっちりと自分の背中に押し付けて離そうとしない。
「またあんなことをしようとするかもだから。お姉ちゃんとして、そういうことをするのを止めるの」
「だから、俺のほうが年上だって何度言ったら」
「そんなの関係ない。あなたは、子供っぽくって危なっかしいことをする。だからあたしが姉になって止めるの。それに、責任もあるから。だから、なんでも頼って」
……あーあ。
あの時、飴を受け取らなければこんなことには。いや、ファナに鉄拳制裁された時からか?
俺は中途半端になってしまった。
(このメンバーには、俺みたいな奴は色んな意味で敵わないんだろうな……)
逃げられないと悟った俺は、ポケットから今朝貰った棒つき飴を取り出し、口に含む。
「もうちょっとだけだぞ」
それを聞いた清果は、今朝よりも眩しい笑顔を作る。
「うん。お姉ちゃんにお任せ!」
年下の姉、ね。
「というか、俺を背負ってて、戦いは大丈夫なのか?」
「大丈夫に決まってるじゃん! あたしは、勇者なんだから!」
……本当、敵わないな。