第二話「今後の付き合い」
正直、眠れなかった。
俺の名は、クルート・ブラディード。
弱体化魔法を持つ凡人にして、元復讐者。
勇者パーティーのメンバーとして旅を続けていた。しかし、俺はどう足掻いても凡人だった。
この先の旅にはついていけない。そう判断されて、追放された。
のだが。
呆気なく復讐を幼馴染に阻止され、また勇者パーティーに戻ってきました。
戻ってきたくはなかった。
だって、復讐心により強くなったけど、結局のところ特別な勇者パーティーには敵わないとわかったのだから。
この先は、本当に特別な者達でなければ進めないだろう。
強くなったからこそ理解できることだ。
なのに、ファナはまた勇者パーティーに戻ってこいと言う。いや、ファナだけじゃない。
復讐を阻止された後、勇者清果と賢者リオも俺に謝罪をして、パーティーに戻ってきてほしいと言ってきた。
わからない。
どうして凡人の俺に戻ってきてほしいのか。ただの雑用係として? それとも肉壁として? いや、あのメンバーだったら肉壁はいらないか。
「わからないなぁ……」
一睡もできなかった眠気眼で俺は天井をひたすら見詰め、考えているとドアをノックする音が響く。
この気配は。
「こらー、朝よー。早く起きなさい」
やはりファナだ。
誰が起きるもんか。あ、いや起きてるけど。ここは寝てるふりをして無視しよう。
「入るわね」
「は?」
まさか、ドアを殴り飛ばす気か?
ベッドから起き上がり、身構えていると。
「やっぱり起きてたわね」
普通に鍵を開けて、入ってきた。
「おま、どうやって」
「合鍵」
まさか宿主から合鍵を? 俺が無視しても、本当に寝ていても入っていけるようにしていたのか。
まあ、ドアを壊さなかっただけまだマシだけど。
「言っておくが、俺は戻らないぞ。昨日も言ったよな?」
「ええ、言ったわね。けど、それを了承した覚えはないわ」
「俺だって、お前らの提案を了承した覚えはない! そもそも、なんでまた俺をメンバーに加えるんだよ! もっと強い奴を加えればいいだろ!」
今後、俺なんか豆粒と思えるほど強い奴と出会うはずだ。
それに弱体化魔法だって、ファナ達のように効かない敵がうじゃうじゃ出てくる。
「確かにそうね。けど、あなたはこのままパーティーに加わってもらうわ」
「だから、なんで!?」
「私達には責任がある。あなたを苦しめて、闇に染めてしまった。だからこそ、私達が浄化してみせるわ!」
……確かに、スジは通ってる。
それに、昨日の二人の態度。
あれは、心の底から謝罪だった。こいつらは、本気で俺のことを改心させようとしているみたいだな。
「俺は、そう簡単には改心しねぇぞ」
「ということは、旅を続けるのね?」
「……ああ」
「うん、よし」
たく、笑顔だけは本当に聖女みたいだよな。
暴力女だけど。
「ん? 今、失礼なこと考えてなかった?」
「か、考えてねぇよ」
相変わらず勘のいい奴だ。
・・・
「あっ」
宿屋の食堂にあり、多くの宿泊者達が朝食を食べていた。
数あるテーブルの一角。
そこには、勇者清果と賢者リオが座っていた。
「おはよう、クルート」
いつもと同じ、ように見えるけどどこかぎこちない挨拶をした清果。
こんな清果は初めてみる。いつもだったら、年上の俺を弟扱い。隣に座らせたり、寝癖を直そうとしたり。けど、今の清果は頑張っていつもの関係に戻そうと必死になっている女の子に見える。
「……ああ」
おはよう、ではなくああと短く答え、清果とは別の席に座る。
「あ、あのクルートさん」
次はリオが話しかけてきた。
パーティーの中では、一番年上。種族はエルフのため何百もの差がある。
翡翠色の長い髪の毛、青い瞳。極限まで自分の肌を隠すような服装。だが、それでも並外れた色気のある体つきは隠しきれていない。
控えめの性格で、追放される前も一番会話回数が少ないメンバーだ。
「……」
前の俺だったら、リオから話しかけてくることなんてなかったため積極的に話していたけど。
「あう……」
「こら」
「いてっ!」
リオのことを無視すると、頭に衝撃。
ファナだ。
「どこに座ってるの」
「どこに座ろうが、俺の勝手だろ」
「いいえ。パーティーに戻ってきたからには、同じテーブルで食べる。そういう決まりだったでしょ?」
勇者パーティーに加わった時に、清果が決めたルール。
メンバー同士の仲をより良いものにするためにというものだった。
「わかったなら、こっちにくる」
「あ、こらっ! 離せ!!」
断固として同じ席にいかない意思を見せる俺だが、ファナが服を引っ張り強制的に移動させる。
俺が座ったのは、清果の隣。
そして、ファナはリオの隣且つ俺の正面の席に座った。すでに朝食はテーブルに並んでいる。
少し冷めている。俺が来るのを待っていたみたいだ。
「はい、それじゃあ揃ったところでいただきます」
「いただきます」
「い、いただきます」
三人が食前の言葉を言う中、俺は無言のままフォークを手に取りこんがりと焼かれたソーセージを刺そうとする。
が、それをファナによって止められた。
「いただきます、は?」
「言わない」
「いただきます、は?」
「い、言わない」
言葉を交わす毎に、俺の腕を握る力は強くなり、笑顔は威圧へと変わっていく。
「ふぁ、ファナ! そこまで強制しなくても」
清果が止めに入るが、ファナは止まらなかった。
「いいえ、清果。感謝は大事よ。それは食べ物に対しても。食べる前に、食べ終わった後に。食材へ、料理人への感謝をね」
「確かに、そう、だけど。ほら、クルート痛がってるから」
そう言う清果だが、俺の顔を見ていない。
おそらく、俺を追放する時に痛め付けたことを引きずっているからだろう。
対して、ファナはなんでいつも通りなんだ。俺へ罪悪感があるんじゃないのか? それともあれは口だけだっていうのか?
「いただきます、は?」
「……いただきます」
このままでは骨が砕けてしまう。俺は、仕方なく折れた。
「よろしい」
うわ、めっちゃ手痕がついてる。どんだけ強い力で掴んでたんだよ。この聖女は。
「クルート。これ」
食事をしていると、清果が手製の棒つき飴を渡してくる。
「すぐに、とは言わない。でも……でもね。またその仲良く」
涙。
これまで一度だって涙なんて見せたことがなかった清果が泣いていた。
まったく、いつもと違うとここまで違和感があるとは。
「泣くなよ。俺が虐めてるみたいじゃんか」
そう言って、飴を受けとる。はあ、簡単に改心しないとか宣言しておきながら、甘いな俺は。
「ありがとう」
「あ、あの! クルートさん! 私からはこれを!」
すると、続くようにリオまでもが俺に物を渡してくる。
渡されたのは、リオが作っている回復薬だった。それも、普通に買えば簡単には手が出せない代物だ。
「物で釣ろうっていうのか? お前達」
「あ、いや違います! 私はその」
「……冗談だよ」
「あう……クルートさん、意地悪です……」
はいはい、意地悪で結構。