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第一話「復讐、そして鉄拳制裁」

「けっけっけ! 呑気に宿屋で眠っているあいつらにまずは、極限まで弱体化魔法をかけて、それから縄で縛り上げ、肉体的にも精神的にもボロボロにしてやる!!」


 月明かりが綺麗な夜。

 俺は、勇者パーティーが泊まっている宿へと向かっている。

 強化された弱体化魔法を食らわしてやる!


 この数日で、俺は更に力を高められた。

 自分でも恐ろしいほどに、今までが嘘だったかのように強くなっていくのを感じた。

 今までだったら、一人では倒せないであろう魔物達をひたすら弱体化させ、経験を積んだ。

 

 あいつらが旅立つのは、明日。

 その前に、復讐してやる。

 今から楽しみだ。

 まずは、相手の筋力と速度を落とし、へろへろになった三人を縛り上げる!

 その後は、あのいやらしい体を順番に味わってやる! 

 

 今思えば、俺はハーレムだった。

 良い具合に成長している女子に囲まれるのは、思春期真っ盛りな男にとってはかなりの毒だった。

 俺がどれだけ我慢したか……が! もう我慢する必要はない。


「今から楽しみだぜ……じゅるり」

「そんなやましい考えの幼馴染を」

「え?」


 気配。

 復讐心に燃えていたからなのか。俺の背後に近づいていた人物に気づかなかった。

 やばい! 咄嗟に振り返る。

 だが、時すでに遅し。


「止めるために! 鉄拳制裁!!!」

「へぼぉ!?」


 右頬に衝撃。

 地面を何回も跳ね、立派な樹木に叩きつけられる。

 いてぇ……背中も、右頬も、というかなにもかもがいてぇ! やばい、背骨が。


「まったくもう。やっぱり復讐しようとしていたのね」

「ファナ……聖女なんだから、いい加減物理攻撃は、やめ、ないか?」


 もはや満身創痍な俺は、俺を殴り飛ばした張本人。

 幼馴染のファナを睨む。

 俺の幼馴染のファナは、俺と違って聖女として勇者パーティーに加わった。

 その力は、まさに圧巻。聖なる力で、パーティーを守り、怪我を癒し、その人の良さから聖女の中の聖女と豪語されている。


 だが、俺が知っているファナは違う。

 昔から、森を山を駆け巡り、俺を無理やり連れだしては、ひどい目に遭わせて……魔物とかも普通に殴ったり蹴ったりして……。

 こいつが聖女なんて言われた時は、もう笑いそうになって。後で、人気のないところに呼び出されて、壁ドンされたっけ。


「止めないわ。間違った道に進もうとしている幼馴染を止めるために、私はこの拳を握る」

「わー、男前。だが! ファナ! 昔の俺だと思うなよ! 今の俺は進化した! 今までの弱体化魔法など比べ物にならないぐらいになぁ!!」


 今までは、こいつの子分みたいな感じだったが、今の俺ならば、へなへなにして、泣いて詫びさせるぐらいわけない。

 さあ、思い知るが良いファナ。

 今まで、さんざん俺を振り回し分のつけを!


「まずは、全身の筋力を!! 【筋力低下】!!」


 進化した弱体化魔法にて、ファナの筋力を削ぐ。

 これで、こいつの鉄拳など怖くもない。


「……何かしたかしら?」

「あ、あれ?」


 嘘だろ。けろっとしてる。

 いや、効いているはずだ。

 効いていないふりをしているだけに違いない。


「その強がりもいつまで続くかなぁ!!」


 体は痛むが、まずは弱体化したファナを撃退し、残るパーティーメンバーを!

 俺は駆ける。若干ふらついたが、まっすぐに。


「さっきのお返しだぁ!!」


 拳を振り上げる。

 俺は女だって、殴って見せる!


「だから効いてないって言ってるじゃない」

「ぐべっ!?」


 見事なカウンター。

 俺の拳は届くことなく、俺はまたファナに殴り飛ばした。なんて腰の入った拳なんだ……。


「な、んで?」

「私は聖女よ? 呪いの類いは効かないわ」

「そう、でした……」


 ファナ。お前はここでも俺の壁となるのか。くそ! いや、待てよ。そうなると勇者にも効かないんじゃないか? あいつもファナと似たような耐性を持っているって言ってたし。

 じゃあ、俺……パワーアップしても復讐できない? え? 


「さあ、クルート。覚悟は良いかしら?」


 ごきごきと聖女とは思えない迫力で、己の拳を鳴らしながら近づいてくるファナ。

 こいつには勝てない。

 そう思った瞬間から、俺の燃えたぎっていた復讐の炎がなんかこう鎮火してしまっている。おいおい、こういうパターンって復讐が成功するもんだろ? なんで、簡単に復讐が阻止されてんの?


「ま、待ってくれ! 俺は悪くないだろ? 元はといえば、お前達が俺のことを無慈悲に追放したのが悪いんだろ!?」

「……良いわ。真実を話すから、よーく聞きなさい」

「真実?」


 俺は聞いた。俺を追放した真実を。

 本来は、追放というよりも、もう少し優しい言葉でパーティーから外れてくれるように言うはずだったらしい。

 だが、俺がどれだけ努力していたのかを知っているからこそ、優しい言葉をかけにくかった。

 もし、優しい言葉をかければ強くなろうと無茶な努力をする。それでは、俺がいずれ壊れてしまう。


 だからこそ、心苦しいが追放という形で俺のことをパーティーから外れてもらおうとしたらしい。

 じゃあ、もしかして清果が飴を噛み砕いたのは、やりたくないことを無理にやっていて苦しんでいたのを我慢してたから?

 ……いや、そんなわけがない。


「う、嘘つくなよ! んなことを信じろってのか!?」

「簡単に信じろとは言わないわ。だけど、これまでのあなたは本当に自分を壊しかねなかった。だからこそ、強引にでもパーティーから外れてもらおうとしたのよ。けど、どっちもあなたのためにならなかったみたいね……」


 確かに、優しい言葉をかけられたら、余計に俺は皆のため今まで以上に努力をしただろう。

 だから、もしファナの話が本当なら……俺は。


「さて、話はここまで。あなたは、どうやっても無茶をするとわかった以上、私は覚悟を決めたわ」

「か、覚悟? いったいなんの」

「今後、あなたのことは私がきっちりと監視をします。また馬鹿なことをしないようにね」

「は、はあ!? ふざけるな! 誰がお前なんかに! というか、本当の理由がわかった以上、俺だって覚悟を決めた! パーティーを抜ける!!」


 こうして、パワーアップをしてもこいつらについていくのは無理だってことがわかったからな……悔しいが、俺はどう足掻いても凡人だったってことなんだ。


「だめよ」

「なんで!?」

「今のあなたを一人にするのは危険すぎるわ。だから、このまま旅を続けるの。大丈夫。あなたのことは、私が護ってあげるわ」


 その笑顔は、まさに聖女。

 正直見惚れた。

 だが、俺は我に返り、全力で拒否する。


「それは勘弁してくれ! そもそもお前のような暴力女と離れられるんだ。今思えば、せいせいす」


 ドゴッ!


「へ?」


 物凄い轟音が耳元で響く。

 視線を右に向けると……立派な樹木に穴が空いているではないか。そして、開けたのは聖女ファナの拳。


「い・い・わ・ね?」


 追撃の聖女スマイル(威圧)で、俺は首を縦に振ったのだった。

 かくして、復讐者になったが、聖女である幼馴染から容易に阻止された俺は、結局勇者パーティーに参加したまま旅を続けることになったのだった……。

恋愛要素は、次回から!

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