第十五話「どうして」
「はあ……はあ……だめだ、さすがにもう足が動かん!」
休息のために町へ来たのに、どうしてこんなに疲れなくちゃならないんだ。
これも、あの幼馴染のせいだ。
どうして、あんなにしつこく追いかけてくるんだ。
人生二度の逃走を遂げた俺は、もう無理だと道端に倒れこむ。
もう足が棒だ。
これでまたファナが出てきても逃げられない。
俺はそれほど疲労している。
ど、どこか休める場所を……。
「あれ? クルート。どうしたの? こんな道端で」
そこへ救いの姉が登場。
道端で倒れる俺を清果が発見してくれた。
「せ、清果。ちょっと」
「なるほど。またファナに追いかけられてたんだね。よし、あそこに丁度いいベンチがあるから、休もっか」
俺が言葉にするよりも早く清果は、どうして俺がこうなったのかを察し、俺をお姫様だっこする。
非常に恥ずかしい。
大の男が、女子にお姫様だっこされるなんて。
「やだ、あれ見て」
「わー」
くぅ……やっぱり注目されてる。
しかし、俺は思うように動けない。それに、清果はなぜか周囲の視線などお構いなしにベンチへ運んでいく。
「はい。それじゃあ、そこでなにか飲み物買ってくるね。なにがいい?」
そして、俺をベンチに落としてから近くにある露店を指差し、注文を聞いてくる。
「な、なんでも、いい」
俺は、まず呼吸を整えるのに専念したいため、適当に答える。
清果は、わかった! と眩しい笑顔を俺に向けてから露店へ走り出す。
「あー、清果が幼馴染だったらなぁ」
正直、どうでもいいことだが、ファナよりは絶対マシだと思ってしまう。
「すみませーん!」
それにしても、なんで清果は性格が歪んだ俺なんかにここまで優しくしてくれるんだろう。
世話好きだってことはわかるけど。
「あ、これおいしそう」
「お? お嬢ちゃん。お目が高い! こいつはこの町限定でね」
「限定! うぅ、その言葉には不思議な魔力がある……」
あの頃は、きついこともあったけど、楽しいこともあった。
特に、清果は俺に優しくしてくれた。
あんなことがなければ、今ごろどんな関係になっていたんだろうか。
「なんて、なに考えてんだ俺は」
「どうかした?」
「……なんでもねぇよ」
少し呼吸が整ったところで、清果が露店で飲み物と何やら白い棒状のものを買ってきていた。
「はい、これ」
「なんだこれ」
どうやら、中央に穴が空いているようで、そこに黄色いなにかが詰まっていた。
「この町限定の食べ物だって。パン粉と卵を混ぜて、棒状にして、炭火でこんがり焼いたもの。中に詰まってるのは、ピリ辛のソースだって。作り方を聞いたんだけど、秘伝だ! とかで教えてもらえなかったよ」
「そうか」
あんまり興味はない。
……まあでもおいしいかもな。外はパリッと、中はふわっと。それにピリ辛のソースがよく合う。
「んー! か、からりゃっ……!」
そこまで辛いか? あー、そういえば。
「お前は、辛いの苦手だったな。なんで買ってきたんだ? 別に俺の分だけで良かっただろ」
一口食べただけで、一緒に買ってきた飲み物をぐいっと流し込む清果に俺は言葉を投げる。
清果は、甘党で、辛いものが苦手なのだ。
「だ、だって一緒に食べたかったから」
「……」
こいつはどこまで。
「か、からっ!」
「よこせ」
「あっ」
無理して食べている清果から、俺は食べ物を取り上げる。
そして、そのまま俺のと一緒に食べ。
「んぐっ……! んぐっ……!」
飲み物で一気に流し込む。
「ごちそうさん」
「行くの?」
「ああ。また後でな。それと、無理に俺に付き合う必要はねぇから。自分を大事にしろよ」
さて、後はファナに見つからないようにどうやって過ごすか。
『優しいじゃねぇか。え?』
この野郎。静かだと思っていたら……。
「そんなんじゃねぇよ」
『素直じゃねぇな』
素直じゃなくて結構。




