第五話 入隊の条件
裕也は今の状況が完全に把握できなかった。相手と自分の利害が一致していない。なのに連れていくのか?どうして?
裕也が考える暇もなく拘束具が外される。
「さて、今から君に必要なのは名前と情報、そしてある程度の装備だな」
裕也は服を渡される。全体の色は白を基調とし赤と黒のラインで彩っている。彼らが来ていた服と同じだ。
裕也は着替えながら質問する。
「情報はそうだが名前もか?」
「あぁそうだ。君の名前はこちらの人間にとって聞いたことのない名前だから一々違和感を持たれる。これまでは南方の服を着ているから誤魔化せていたが、部隊に入ってからは無理だろう。君のフルネームはなんだったか‥」
「迅川裕也です」
「迅川裕也、そうだな‥では君の名前は今からジン・バーナードだ」
"ジン・バーナード"。心の中で名前を復唱することで、しっかり自分の偽名を刻み込む。
「はい。よろしくお願いします」
「では私たちの紹介しよう。私がオリビア、槍を持ったデカいのがギルベルト、そこの座っている老人がオーウェンだ」
呼ばれた二人がジンの方を向き一礼する。
ジンの一礼を見たオリビアが真剣な眼差しをしてこちらに話しかけてきた。
「あともう一つ‥その気持ち悪い敬語をやめてくれないか?使い慣れていないだろう」
「‥‥そうだな」
ジンはあまりにも辛辣な言葉に苦笑いした。
「一通り自己紹介が終わった所だが、我々はすぐに次の任務に就かなければならない。ギルベルト、オーウェン、出発の準備をしろ」
ギルベルトは軽く返事をオーウェンは静かに頷き、2人は洞窟の外に出ていった。
「さて君がこのまま我々についてきても案山子ほど役に立たないだろう。そこで君の大好きな情報をくれてやる。君が倒せるといった魔王軍についてと我々の仕事についてだ」
きた、魔王軍のことだ。ジン自身なんも情報なしにハッタリで倒せるといったが実際どんな組織なのか気になっていた。
「魔王軍とは300年前北にできた組織だ。彼らは罪のない人々を殺戮している。そこでナタリア帝国とリ・ケーグル聖王国、そして我々の所属するガルシア王国が合徒軍をつくり魔王軍に対抗した。これが三頭同盟だ。」
「つまり魔王軍とは300年も戦争状態なのか?」
「そうだ。特にここ20年は魔王軍の攻撃は苛烈になっている。魔王軍の4人の幹部と名乗る者たちが各地を荒らし回っている。
一番厄介なのは魔王の存在だ。魔王の能力は君の予想通り"能力を奪う能力"だ。奴はその能力で各地の転生者の能力を奪っている」
「なるほど。それで俺たちはどんな仕事を任せれているんだ?」
「我々は軍の非合法の掃除屋だ。仕事は魔王軍本体の戦闘ではなく、各地に散らばる敵の諜報員や敵に奪われる可能性のある能力を始末することだ。言わば薄汚れた裏稼業だな」
「じゃあ今回の場合は俺とあの男の始末が任務だったのか?」
「いいや違う。お前はたまたま見つけたおまけに過ぎない。目的はこのブレスレットだ」
オリビアはイザベラが首にかけていたブレスレットを剣の先で持ち上げ、腫れ物のように扱う。
「我々が聞いていたことは魔獣を操るブレスレットを持つ者がいるという情報だ」
オリビアはブレスレットを剣先で空中に浮かせて、そのまま叩き割った。
「いいのか?そのブレスレット壊して」
「問題ない。言っただろう?不確かな能力はいらないと。このブレスレットは元々転生者のものだったのだろう。どんな呪いが込められているか分からないものを持ちたくないからな」
「姐さん準備が出来ました」
洞窟の外から威勢のいい声が聞こえる。
「さあ我々も行こうか」
これまでの会話を見るにオリビアはどこまでも現実主義だ。なのに何故自分を隊に入れたのか、ジンはついぞ聞くことが出来なかった。
ジンとオリビアは、ギルベルトが用意した馬車に乗り込んだ
中には既にギルベルトとオーウェンが座っていた。
「出発してくれ」
オリビアの声に業者は頷き、馬車を出発させる。
揺れる馬車の中でジンは今更ながら緊張で顔が強張った。自分はこれから自分と同じ転生者の命を奪うのだと。覚悟を決めなければ‥
「そう緊張するな。転生者殺しの依頼は稀だ」
オーウェンが思考を読んだ様に返事してくる。
先程もオーウェンは俺の思考をよんでいた。まさか彼の言っていた能力とは"思考を読む能力"か?
オーウェンはこちらに向かって微笑してくるいる。
正解か?どっちだ?
「さて探り合いは終わりだ。2人とも。新人が入った所で改めて任務の内容を説明する。
今回の任務はデントストーン村に新型の鎧を纏ったモンスターが発見された。付近の住民によるとそのモンスターが現れてから謎の病が流行しているらしい。
我々はこの鎧が転生者の遺品だと予想している。そこで我々の任務はこの鎧が魔王軍のものになる前に破壊することだ」
さすがに殺しの依頼ではなかったか‥ジンは思わずホッとする。
「一ついいか?姐さん」
「何だ?ギルベルト」
「新入りについてだ。正直俺はこいつの事を信用してない。そこでだ。こいつにもしも暴走して使い物にならなくなったら始末してもいいか?」
「もとよりそのつもりだ。ギルベルト」
自分の有用性を示さなければ殺されてしまうな‥
人の命を奪うだのどうだと悩んでいたが、まず自分の命を守らなければならない。
揺れる馬車の中でジンは決心を新たにした。