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第四話 転生者たちの業

裕也が目を開けるとそこはまだ暗闇だった。肌に感じる布の感触から目隠しをされているのだろう。おまけに手足も動かそうとしても動かない。


自分は拘束されている。なぜだ?

裕也の思考を遮るように女性の声が聞こえてくる。


「やっと起きたか、調子はどうだ?」


「最悪だ。助けてもらったのにまた命の危機なんて‥これじゃあさっきの喜びを返して欲しいくらいだ」


「呼び答えに問題はなし。精神汚染される類の能力ではないな」


無視かよ。裕也は心の中で悪態をつきながら続ける。


「問題ないようならこれ外してくれないか?今日一日いろいろあったんだ。こんな芋虫みたいにされてちゃ休憩もできない」


「休憩?必要ないさ。今から君は始末されるんだから」


またか‥しかしどうも最近は運が悪いらしい。一日に2回も殺害宣言をされるなんて。



「最後になんで殺されるのか教えてくれないか?転生者ってのはどうしてこう嫌われているんだ?その理由を冥土の土産にして来世では間違えを犯さないように過ごしたいんだ」


「理由?私たちは君たちがこれまで何をしたかなんて全く興味ないんだ。厄介なのはその呪いだ」


「呪い?おいおい俺は誰にも怨まれてる覚えはないぜ」


「呪いはもっているだろう。お前らが喜んで貰ってきた"能力"だ」



能力が呪い?この妙に現実じみた世界では超能力なんてものはないのか?だとしたら彼女らがやっているのは魔女狩りだ。彼女らからしたら我々は忌むべき魔女なのだ。言い訳しようがない。だって自分には神から貰った能力があり、おそらくそれを見られたからだ。


‥いや待てよ。イザベルは俺の能力を見て転生者と決めつけていなかった。俺が転生者とバレたのは"豚肉を食べたから"だ。つまり超能力的なものは存在する。大切なのは"神から貰った"ってことなのか?


「能力を貰った事がなぜ悪い?そこに楽できる道があるなら楽するのが人間だろう?それだけで殺されるなんて心外だ」


「だから君たちのこれまでには"興味がない"と言っているだろう?やはりお前らの言う神はなにも能力のデメリットを言わずにこちらの世界に送ってきているんだな」


「デメリット?なんのことだ?」


「そもそも能力がただで手に入るわけないだろう。豚肉を食べたからって人間の体は豚にはならない。人間ってのは意外と精密にできているんだ。そこに無理やりこれまで持ってなかった機能や能力なんてつけてみろ。なにかしらの不具合がおきるだろう」


「つまり不具合が起きる前に潰しておこうってことか?具体的に教えてくれよ。これから自分がどうなるのかが気になるからな」


「そうだな‥例えば魔法の才能を願ったとしよう。魔法ってのは代々受け継がれて人間の体に馴染んできた。この世界で魔法が使えるのはそうゆう家系に生まれてきた者しか使えない。なのに急に何の魔法耐性もない人間が魔法を使うと、数回使う間に体が内から焼け切れて死ぬ。焼死体を見たことあるか?あれは表から炙られているが魔力の暴走による死に方はもっと酷い。逃げることのできない苦痛に苛まれながら骨の髄まで焼けるのだからな」



考えてみれば当たり前だ。毒蛇が自らの毒で死なないのと同じように、こちらの世界の住人も魔法耐性を代を越えながら少しづつ進化させたのだ。



「待ってくれ。魔法を貰った転生者をギルドで見た。彼はどうなった?」


「彼は既にギルドの人間が始末しているだろう。魔法系の能力者は厄介だ。いつ爆発するか分からないからな」


「じゃあ魔法以外の能力ならいいのか?」


「私は君にわかりやすいように魔法の場合をいったんだ。薄々感づいていると思うが私たちは君を長い間尾行していた。もちろんギルドにいた彼も見ている。転生者の能力は違えど末路は同じだ。はた迷惑に自爆するか、私たちのようなものに殺されるか、奪われるのかだ」


裕也は話を頭の中でまとめた。自分が生き残るためにはどうするべきか。だが、まだ状況が足りない。この状況を乗り切る為のピースが。



裕也と女が話していると、2人分の足音が聞こえてくる。崖の上にいた青年と老人のものだろうか。


「駄目だ。姐さん。ギルドの人間はもう死んでいた。しかも奴さんご丁寧に顔や体を変えて転生してきたんだろう、もう"奪われて"いやがった。これじゃまた魔王軍が強化される」


「ご苦労、ギルベルト。魔王軍との関わりを疑われていた盗賊団から討伐したが、こんなに敵の手が早いとは」


裕也の中でピースがカチッと合わさった。自分が生き残るための方法が思いついた。



「なぁあんたら、俺を仲間に入れてくれないか?」


「こいつがもう一人の転生者か?随分面白いことを言うじゃあないか。姉さん、さっさと始末しちましょうぜ。」

青年の提案に女性が頷く。

「そのつもりだ。不確かな能力など糞ほど役に立たないからな」


「まぁ待ってくださいよ。私が能力を使えば魔王軍とやらを倒せますよ」


「ほぉ、興味深いな」


「いいんですか?姐さん」


「ではその理由を話しましょう。そもそも貴方たちは私を殺す必要がない。何故かって?それは貴方たちの話を聞いて分かりました。ギルドにいた彼は"奪われた"と言っていましたよね。でも彼は既にギルド職員に始末されているはず。じゃあ何が奪われたのか‥それは"転生が貰った能力"だ。

問題なのは我々がどういう人間なのかじゃあなくて魔王軍に能力を奪われることなんでしょう?だから確実に魔王軍の戦力を増強させないように転生を殺している。違いますか?」


「続けろ」


「だが、これじゃ貴方達は敵の戦力の増大を防いだだけで戦力を削れてない。でももし転生者が貴方たちの味方をしたら‥それは強大な力になる。私の能力は万能触媒。あらゆる反応を促進する能力。能力のは貴方たちも見たでしょう。見た上で利用出来そうな能力だからこんな風に殺さずに置いているんだ。」


「それで?」


「加えて俺は転生者だ。だから誰よりも転生を見分ける事ができる。もし俺が貴方たちの味方になれば能力を奪われることもなく、なおかつこちらの戦力増加にもなる。どうだ?今までの考察は合っていますか?合っているならこの頭脳も評価できるでしょう?」


「正解だ。なかなかの切れ者のようだな。だが、いつ爆発するか分からない人間を側に置いておけないな」


「俺が完全に能力を制御しているって言ったらどうだ?」


女が感心したのか声をあげる。彼女らの言動から今まで転生者狩りはイタチゴッコだったのだろう。ならば戦力はいくら合っても足りない。そこに優秀でリスクなしに使える新たな戦力があれば喉から手が出るほど欲しいだろう。



「俺は能力をよく理解している。俺の能力の弱点は体温だ。俺の能力を使うと本来反応で起こる筈だった熱エネルギーを代わりに俺が引き受けてしまう。でもこいつは余り問題はない。熱エネルギーが少ないように反応させていけばいいんだからな。つまり俺はあんたが評価する頭脳と魔法に似た事ができるんだ。どうだ?使い物になるだろう?」


女が黙り込む。どうやら悩んでいるようだ。このまま押し切れば‥



「待て、オリビア。少年、お主もう一つ能力を隠しもっているな?言い訳は無駄だ。もう分かっている」


先程まで黙っていた老人が喋る。老人の呼びかけに裕也は思わず身震いする。いつ気づいた?ボロは出していないはず。


「どうしてかと思っているな?儂も能力者だ。なんの能力かは教えんがな」


まずい。もう一つの能力は‥


「まだ使った事がないんだな?どんな能力だ。言え」


万事休すか‥裕也は観念してもう一つの能力を言う


「もう一つの能力は"解析眼"。見た物の構造を見抜く能力だ。だがこの能力は常時発動している訳じゃないから‥」


「使わなければいいと言いたいのか?こちらとしたら始末した方が確実なのだが‥」


老人の追及は厳しく、逃れようがない。ここまで上手く話を運んだがダメか‥

唐突に老人の言葉を遮るように女が喋る


「待て、オーウェン。こいつは私たちの部隊“ハンニバル”に参加させる。こいつは隊長命令だ。

今から後始末をおこない次の任務に向かう」


女の発言に裕也自身も驚く。なぜだ?問題は解決していないはず。

裕也が考える暇もなくつけられていた目隠しが剥がされ、目の前に赤髪の凛とした美しい女性が写る。



「もちろんお前もだ。裕也」



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