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ピアノのある終着駅  作者: 東空 塔
第一章 羽越喜一(うえつ・きいち)
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ニュース番組の容疑者写真はいつも極悪人

「あのケイスケさんが? そんなバカな!」

 僕は胸の内で叫んでいたのか、声に出していたのかはわからない。巨大なテレビ画面に映し出されたケイスケさんの顔は──警察で事務的に撮影されたものだろうが──まるで犯人であることを示唆するように悪意をもって作成された画像のように思われた。

 テレビのニュースではあまり詳細について語られていなかったので、僕はネットカフェに入り、事件について調べてみた。まとめると、このようになる。


      †


 ニュースが報じていたように、○月△日、関東勧業銀行川渡支店の小池哲夫副支店長が歩道橋から転落し死亡した。転落当時、現場付近をホームレスの男性がうろついていたという複数の目撃証言があり、警察では事件との関わりが強いとみて、そのホームレスの行方を追っていたらしい。

 その捜査の過程で、川渡市に住むホームレスで小池哲夫に怨恨を抱いていると思われる人物が浮上した。それが児玉啓介、すなわちケイスケさんだった。

 ケイスケさんの息子である児玉義男氏はかつて関東勧業銀行目黒支店に勤めていて、その時の支店長が小池哲夫だった。ある日、大口取引先に集金に出かけた義男が帰らず、集金袋ごと行方不明となった。

 それで持ち逃げ事件として義男に疑惑が向けられたが、後日歩道橋から飛び降り通行中のダンプカーに跳ねられ即死した。足元に遺書があったことから、罪責感から自殺と断定されたが、持ち出された現金の行方は不明のままである。義男の母親・美和子は息子の後を追って自殺。

 ケイスケさんは探偵を雇って独自に調査した。すると、支店長の小池氏が金に困って横領し、義男に濡れ衣を着せていたらしいことが判明した。ケイスケさんは小池を訴えようとしたが結局不起訴となり、小池は川渡支店に降格人事で異動となった。その頃からケイスケさんは行方をくらましたという。


      †


 ケイスケさんが人を殺めたというのはどうも合点がいかない。たしかにケイスケさんは奇妙奇天烈摩訶不思議ではあるが、腹に一物ある人物とは思えなかった。もちろん小池のせいでご家族が亡くなったことは無念でならなかっただろう。しかしそれで復讐の念に駆られて殺人を犯すような人ではないと思う、いや、そう思いたかった。居ても立っても居られなくなった僕は、独自に調査することを決意した。


 ……とはいえ、どこから手をつけたら良いものやら。とりあえず、本人に会って話を聞くのが良いと思ったので、ケイスケさんが留置されている川渡警察署へ行った。受付で整理券を取り、順番を待つ。窓口では三人の警官が受付業務を担当していたが、その中で一番取りつく島のなさそうな婦人警官に当たってしまった。

「……ご用件は?」

「あ、あの、児玉啓介さんがこちらで留置されていると聞きまして、面会したいんですけど……」

「アポイントメントはありますか?」

「いえ、ありません」

「では、予約手続きをしていただいた後、後日改めてお越しいただきます。……もう一度、面会希望する相手の名前をおっしゃって下さい」

「児玉啓介……さんです」

 婦人警官はキーボードをカタカタと打って何やら検索した。そして、ただでさえ無愛想な顔をさらに曇らせていった。

「申し訳ありません。児玉啓介さんはまだ逮捕直後でして、現段階での面会は出来ない規則となっております」

「そうなんですか? そうしたら、いつから面会出来るのですか?」

「拘留後、予約を入れていただきますと面会出来ます。もしくは弁護士を立てて代理で面会することが可能です」

 警察署を出た僕は、いきなり出鼻を挫かれたような挫折感を味わった。人助けなんて、そうやすやすと出来るものではないと思い知らされた。

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