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ピアノのある終着駅  作者: 東空 塔
第五章 草野哲平(くさの・てっぺい)
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青年実業家って、女性には魅力的なのかな

 ガサッという聞き慣れない音で目が覚めた。時計を見ると午前4時。おそらく新聞受けに投函された音だ。以前新聞を取っていたことがあるのでわかる。しかし、今は新聞を取っていない。

 オートロックマンションではあったが、新聞配達夫のやってくる時間帯は入口のロックが解除される仕組みになっている。それに便乗して何者かが直接ドアに投函したのだろうか。ともかく、玄関に向かって歩いてみる。予想通り、新聞受けには郵便物らしきものが投函されていた。白くて大きい封筒には切手が貼られてなく、宛名も送り主の名前も記されていなかった。

 その白い封筒を手に取った時、ふとあるイメージが頭の中に浮かんだ。それは、あの組織の車の中で見た、キツツキのマークだった。そして、それをどこで見たのか思い出した。


 僕は封筒を開けずに机の上に置き、パソコンを立ち上げた。そして動画サイトを開き、履歴を辿る。これだ、間違いない。それは、都市伝説を扱ったバラエティー番組だった。

 動画では都市伝説テラーとして有名な芸人が、タケモト機関という秘密結社について語っていた。

──みなさん、この鳥の絵を見たことがあるでしょうか(そこには例のキツツキの紋章が映し出されていた)、これはタケモト機関という秘密結社のシンボルマークなのです。この鳥は竹の害虫であるカミキリムシの天敵、アカゲラをデザインしたものです。つまりタケモト機関とは、害虫から大切なものを守る存在として結成された組織なのです。

 19世紀末、多くの日本人がアメリカ大陸に渡りました。しかし彼らは、当地でのマジョリティであった白人種から不当な差別を受け、苦汁を味わうことになります。そこで日系移民の人権を守ろうとして発足したのが、タケモト機関でした──

 そしてその後、タケモト機関の影響力が大きくなり、戦後のあの事件この事件の背後で糸を引いていたのがタケモト機関であること、また白人至上主義の秘密結社LONとは水と油の敵対関係にあることなどを都市伝説テラーの芸人は芝居がかった調子で力説した。さらに世界征服論や陰謀論まで語り、「信じるか信じないかは、あなた次第」と締めくくった。


 僕は身震いした。最初にこの動画を見た時はバカバカしいと思っていた。だが、実際にこうして世界征服だの陰謀だのとささやかれる組織と関わってしまったのだ。そしてそんな得体の知れない組織に……事もあろうに僕は浮気調査などお願いしてしまった。

 とりあえず動画を停止させて、僕は白い封筒を開いてみた。中には数枚の写真と、便箋が入っていた。そこには達筆な文字でこう書いてあった。

「先日車の中でお会いした者です。約束通り奥様の調査をさせていただきました。その結果、この写真の男性とたびたび会っている姿を目撃しましたが、直接的な不倫関係の事実は確認できませんでした。仮に恋愛関係だったとしても、まだ深いところまでは達していないものと思われます。ちなみにこの男性は、フリオインタラクティブ社の創業者であり社長の降尾傑ふりお すぐるです」

 数枚あった写真は、どれも妻と降尾傑が喫茶店やレストラン等で向かい合って話している姿を写し出していた。しかし、手紙にあったように、不倫の証拠とはならぬものばかりだ。

 ちなみにフリオインタラクティブ社とは、最近急成長遂げている地元のIT系スタートアップ企業だ。僕も雑誌やネットの記事などで、その会社の名前を何度か耳にしていた。しかし、まさかその社長と僕がこんな形で対峙するなんて……ともかく、僕は降尾傑と直接会ってみようと思った。

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