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ピアノのある終着駅  作者: 東空 塔
第五章 草野哲平(くさの・てっぺい)
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疲れ果てた僕、あの人の幻を

 それから毎晩、僕はhallelujah-naoさんとメッセージを交わすようになった。毎回10分足らずの会話であったが、僕は少しずつ彼女について知った。ちなみに今わかっていることといえば……


・女性であること

・教会附属の保育園で働いていること

・ツムツムにハマっていること

・コーヒー党で、ブラック派

・お酒は飲めない

・スイーツは何でも好き

・ディズニーランドには年数回訪れる

・歌うことが好き


 こうして並べてみると、マリアさまのイメージには合致するものの、確証と呼べるものはまだ掴んでいない。にもかかわらず、僕の心の中ではhallelujah-naoさんとマリアさまは、渾然一体となって人格を形成していた。そして……

 彼女のことを考えているだけで僕は幸せな気持ちになった。離婚問題、仕事上のトラブル、わけのわからない組織との遭遇……そんな気の滅入る状況の中で、彼女の存在だけが僕のオアシスだった。

 ……って、まさか恋?

 いやいや、40過ぎのオッサンが、うら若き乙女に恋なんて……でも、顔を思い浮かべただけでオートマチックに起こる胸の高鳴りは何なのだろう。


 ……などとまるで思春期の少年のようなことを考えていると、当のhallelujah-naoさんからメッセージが届いたので、おもわず居住まいを正した。

[そういえば草野さん、無宗教とおっしゃっていましたけども、このグループにいるということは、教会へ来たことがあるのですか?]

 ある。だけど僕はどう答えようか迷った。あまり詳しく話すと、深い内容に触れなくてはならない。

[はい、ちょっといろいろあって悩んでいるときに、一度だけ教会にお邪魔しました]

[そうでしたか、教会に来てお悩みは解決しましたか?]

 うーん、つっこんでくるなあ。もうこうなったら洗いざらい話してしまうと思い、妻が出ていってからのことを全て書きこんだ。しばらくして返事がきた。

[そんなに辛い経験をされていたなんて、気安くお聞きしてしまってすみません]

[いえいえ、聞いてもらえて、少し気が楽になりました。……あと、もしよろしければ、女性としてのご意見もお聞かせ願えませんか?]

[意見ですか……私は結婚していませんし、奥さまの状況をよく知らないので何とも言えませんが……]

[それはそうですよね。すみません、変なことを聞いて]

[でも……何となくですけど、奥さまは何か気づいて欲しいことがあるのではないか、という気がします]

[妻が僕に気づいて欲しいこと、ですか]

 少し考えてみた。思い当たることがない。

[実は私、以前に少しだけ男の人とお付き合いしたことがあるんです]

[そうだったんですか]

 昔、彼女に彼氏がいたことは、少しショックだった。そんな僕の思いをよそに、彼女は入力を進める。

[でもある時、私の軽はずみな言葉に彼が傷ついてしまったんです。私はそれが本意でないことに気づいてほしくて、なぜか攻撃的な態度に出てしまいました。もがけばもがくほど溝が深まってしまって、結局別れてしまったんです]

[それはさぞ辛かったでしょうね]

 よくある話だ……と言うのは失礼だと思ってやめた。彼女の述懐は続く。

[もちろん私が悪かったんですけど、……もしあの時彼が誤解を解いてくれたら、なんて都合のいいこと、今てつなべさんのお話を聞いて思ったんです]

[ありがとう。それを聞いて希望が持てるような気がしました]

 実際のところ、希望が持てたかどうかは微妙である。しかし、彼女とのLINEでの対話は、打ちひしがれ冷え切った僕の心を優しく温めてくれた。

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