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ピアノのある終着駅  作者: 東空 塔
第三章 田村カイ(たむら・かい)
29/76

こんな歌が素敵なわけねえだろ

「はい……?」

 女はキョトンと首をかしげる。

 スペックは……ライトグレージュのフレアスカートと同系色のパンプス。そしてふわっとした白のブラウス。肌の露出率は……だいたい15%くらい。決してエロくはないが、そこそこ女らしさはキープ。要するに……


 普通。


 それがオレが見た、彼女の第一印象だ。あえていうなら、「私みたいな女、どこにでもいます」みたいなアピール。

 それより気に食わないのは、「私はかわいそうなあなたを受け入れてあげる」的な上から目線の偽善者スマイル。

「悪いけど、気が散るからあっち行っててくれる? どうせあんたオレのこと、ふてぶてしいフリして本当は愛情に飢えたかわいそうなヤツとか思ってんだろ?」

「……すてきな歌ですね。なんていう歌ですか?」

 質問に質問で返すフレアちゃん。

「こんな歌あるわけないだろ。今オレがデタラメに歌ったんだから」

「デタラメでこんな歌が作れるなんてすごいですよ、天才だと思います」

 しらじらしい口先の賞賛に、オレはなんかムカついてきた。

「あのさ、最初にオレがいったこと、聞いてる? じゃまだからあっちに行ってって……」

「あ、すみません。お金払っていませんでした」

 フレアちゃんは500円玉をピアノの上に置いた。

「なあ、そういうことじゃなくて……」

「これで聴いていてもいいですよね?」

 フレアちゃんはその上半身をピアノの上に預けて聴く気まんまんのポーズ。この時オレの体内の危険信号が作動した。これ以上相手をしていたら、かき乱されてもみくちゃにされてしまう。オレはピアノの鍵盤蓋をバタンとしめ、立ち上がった。

「今日はもうやめた。あんたも帰りなよ」

 フレアちゃんはまたもやキョトンと立ち尽くしていたが、オレはシカトしてその場を去った。


 先ほど、内村麗二の偽善的な国民スマイルを映し出していた街頭ビジョンは、打って変わって〝FBI捜査官一家殺害事件〟という物騒なニュースを取り扱っていた。変質者がいきなり家に乱入してマシンガンをぶっ放したそうだが……、オレが日本に生まれたことは神のはからいかもしれない。もしここが銃社会だったら、今頃オレもマシンガンをぶっ放していることだろう。


 ……などとくだらない考えごとをしながら帰り道を歩いていると、ふと背後に違和感を感じた。振り向くと誰もいない。ゾクっしたが、努めて冷静になって考える。こういう場合、どんなことが考えられるか。


 1.ゴミ箱を蹴り続けたことで、当地の地縛霊に呪われた


 2.何者かに尾行されている


 3.気のせい


 まあ、1.は論外として、普段なら3.という結論に達しよう。だが、今日は警察にも捕まっているし、変な女に会うし、妙なことが続く。一応釈放されてはいるが、警察がオレをマークしていることは充分考えられる。すると、2.である可能性が高い。

 オレは背後に心のアンテナを張り、敏感に気配を感じ取ろうとした。すると、やはり〝気配〟は一定の距離を保ってオレについてくる。

 上等だ、受けて立ってやる。

 オレはスマホで尾行の巻き方を調べ検索した。すると、「シャレっ気のないスーツにスニーカーの人物がいたら、警察官の可能性が高い」とある。オレは振り返って確認する。すると、スーツを着てスニーカーを履いている人物は意外にたくさんいた。さらに、「尾行をまく基本は、歩く速度を頻繁に変え、相手のペースが乱れたら一気にダッシュ」とある。

 もし相手が警察官なら勝ち目はないかもしれないが、その通りにやってみた。ゆっくりと早歩きを繰り返し、適当に〝気配〟を翻弄ほんろうしたところで一気にダッシュ。すると〝気配〟との距離は徐々に広がり、やがて背後に何の気配も感じなくなった。

 ざまあみろ。

 自宅に帰ってしばらくの間、オレは勝ち誇っていたが、やがてオレは、毒蛇の跋扈ばっこする藪を、知らず知らず突いてしまった気がして不安になってきた。

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