父の主張「肉まんちゃうで、豚まんやで!」
大阪行きの話をすれば多少なりとも両親(……のうち、少なくとも一人)から反対されると思っていたが、父も母もすんなり許してくれた。それどころか、お土産のリクエスト付きでおこづかいまでくれた。
「でも、赤福と生八つ橋って、どちらも大阪みやげじゃないよね?」
「心配せんでええ。新大阪か梅田のみやげモン屋にちゃんと売ってる。……そぉやな、あと551蓬莱の豚まんも買うてきてもらおか」
そんな調子で、私は晴れて大阪に送り出されることになった。もっとも、旅の目的を知ったら父は許さなかったかもしれない。舞子や留美の方も、すんなり親から許可をもらえたらしい。
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創立記念日の前夜、私たちは港堤駅に集まった。ここから大阪へ直行する夜行バスが発車するのだ。私たちは長時間のバス移動をできるだけ快適にするため、コンビニで大量の菓子類や雑誌などを買いこんだ。すっかり修学旅行気分だ。ところが、そのはかない思いはバス添乗員のアナウンスで脆くも崩れた。
「おやすみになるお客様の妨げにならぬよう、できるだけ静かにお過ごしください。音や光の出るもののご使用はお控え下さい」
私たち三人のテンションはみるみる低下し、せっかく横並びの席を確保したのに大阪まで一言も話さなかった。カーテンの閉められた暗い車内で、私はひとり考えごとをしていた。明日、自分のルーツに出会い、そしてタカシさんが本当に兄かどうかわかってしまう。そう思うとなかなか寝付けない。
「結奈、ついたわよ」
舞子に揺さぶられ、重いまぶたを開くと、窓の外に都会の景色。大阪梅田のビル群だ。バスを降りると、JR大阪駅の近未来的な建物が目に入る。舞子はスマホで茨木市役所までの行き方をチェックしている。
「茨木市役所って、JR茨木駅と阪急茨木市駅のちょうど真ん中にあるみたいね。どっちで行く?」
「えええ、もう行くの? 市役所が開くまで二時間もあるよ? 先に梅田でお茶しようよ」
留美の提案で、まずカフェに立ち寄ることにした。スマホで検索したものの、ネットで紹介されているようなおしゃれなカフェはだいたい10時以降しか開いていなかった。結局、どこの町にもあるようなファーストフード店で少し早い朝ごはん。何となくまったりとした時間を過ごして、……結局、料金の安い阪急電車で茨木市に向かった。
茨木市役所の建物は川渡市役所と比べると、それなりに古びた感じだった。でも、内装はきれいで居心地が良い。まだ開所してまもない時間ということもあって、待ち時間はさほどではなかった。
窓口にいたのは、川渡市役所とは対照的に、やたらと人なつっこいおばちゃんだった。
「川渡市ってどこなん? あ〜あ、港堤県ね〜、えらい遠くから来はってんね〜」
おばちゃんは私の学生証を見ながら、一人で得心していう。うっかり話に乗ると長くなりそうなので、私は用件を切り出す。
「あの、私たち一家の除籍証明書が欲しいんですけど……」
「ん? なんで? もしかして結婚しはんの? えらいなあ、あんた。最近は四十になっても結婚せえへん子増えたってきくけど、あたし、結婚は早い方がええと思うんよ。何でか言うたら……」
「あ、あのー、少し急いでいただけますか?」
私がいらだっているのを察したのか、おばちゃんは慌てて作業を始めた。後は川渡市役所で証明書を受けた時と同じように、プリントアウトしてハンコをポン。それをおばちゃんはにこやかに差し出す。
「ほな、お幸せにね〜」
おばちゃんはまだ私が結婚するものと思っているらしい。現役高校生の結婚なんてかなりレアケースだと思うけど、どうしたらそんな発想になれるのだろう。
ともかく、私たち三人は恐る恐る証明書の内容を見てみる。
……あった!
父の名前と当時の本籍地の下に、【除籍】と書かれた欄。そこには元妻と思しき〝岩井順子〟の名前があった。そして、その【子】の名前は……
「……!」
私たちはその名前を見て、ハッと息を飲んだ。




