表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピアノのある終着駅  作者: 東空 塔
第二章 百瀬結奈(ももせ・ゆな)
21/76

父の主張「肉まんちゃうで、豚まんやで!」

 大阪行きの話をすれば多少なりとも両親(……のうち、少なくとも一人)から反対されると思っていたが、父も母もすんなり許してくれた。それどころか、お土産のリクエスト付きでおこづかいまでくれた。

「でも、赤福と生八つ橋って、どちらも大阪みやげじゃないよね?」

「心配せんでええ。新大阪か梅田のみやげモン屋にちゃんと売ってる。……そぉやな、あと551蓬莱の豚まんも買うてきてもらおか」

 そんな調子で、私は晴れて大阪に送り出されることになった。もっとも、旅の目的を知ったら父は許さなかったかもしれない。舞子や留美の方も、すんなり親から許可をもらえたらしい。


      †


 創立記念日の前夜、私たちは港堤駅に集まった。ここから大阪へ直行する夜行バスが発車するのだ。私たちは長時間のバス移動をできるだけ快適にするため、コンビニで大量の菓子類や雑誌などを買いこんだ。すっかり修学旅行気分だ。ところが、そのはかない思いはバス添乗員のアナウンスで脆くも崩れた。

「おやすみになるお客様の妨げにならぬよう、できるだけ静かにお過ごしください。音や光の出るもののご使用はお控え下さい」

 私たち三人のテンションはみるみる低下し、せっかく横並びの席を確保したのに大阪まで一言も話さなかった。カーテンの閉められた暗い車内で、私はひとり考えごとをしていた。明日、自分のルーツに出会い、そしてタカシさんが本当に兄かどうかわかってしまう。そう思うとなかなか寝付けない。


「結奈、ついたわよ」

 舞子に揺さぶられ、重いまぶたを開くと、窓の外に都会の景色。大阪梅田のビル群だ。バスを降りると、JR大阪駅の近未来的な建物が目に入る。舞子はスマホで茨木市役所までの行き方をチェックしている。

「茨木市役所って、JR茨木駅と阪急茨木市駅のちょうど真ん中にあるみたいね。どっちで行く?」

「えええ、もう行くの? 市役所が開くまで二時間もあるよ? 先に梅田でお茶しようよ」

 留美の提案で、まずカフェに立ち寄ることにした。スマホで検索したものの、ネットで紹介されているようなおしゃれなカフェはだいたい10時以降しか開いていなかった。結局、どこの町にもあるようなファーストフード店で少し早い朝ごはん。何となくまったりとした時間を過ごして、……結局、料金の安い阪急電車で茨木市に向かった。


 茨木市役所の建物は川渡市役所と比べると、それなりに古びた感じだった。でも、内装はきれいで居心地が良い。まだ開所してまもない時間ということもあって、待ち時間はさほどではなかった。

 窓口にいたのは、川渡市役所とは対照的に、やたらと人なつっこいおばちゃんだった。

「川渡市ってどこなん? あ〜あ、港堤県ね〜、えらい遠くから来はってんね〜」

 おばちゃんは私の学生証を見ながら、一人で得心していう。うっかり話に乗ると長くなりそうなので、私は用件を切り出す。

「あの、私たち一家の除籍証明書が欲しいんですけど……」

「ん? なんで? もしかして結婚しはんの? えらいなあ、あんた。最近は四十になっても結婚せえへん子増えたってきくけど、あたし、結婚は早い方がええと思うんよ。何でか言うたら……」

「あ、あのー、少し急いでいただけますか?」

 私がいらだっているのを察したのか、おばちゃんは慌てて作業を始めた。後は川渡市役所で証明書を受けた時と同じように、プリントアウトしてハンコをポン。それをおばちゃんはにこやかに差し出す。

「ほな、お幸せにね〜」

 おばちゃんはまだ私が結婚するものと思っているらしい。現役高校生の結婚なんてかなりレアケースだと思うけど、どうしたらそんな発想になれるのだろう。


 ともかく、私たち三人は恐る恐る証明書の内容を見てみる。


 ……あった!


 父の名前と当時の本籍地の下に、【除籍】と書かれた欄。そこには元妻と思しき〝岩井順子〟の名前があった。そして、その【子】の名前は……


「……!」


 私たちはその名前を見て、ハッと息を飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ