表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

9両目 掘削発→重大な欠陥行き

 早朝。

 ラファマエルは、まだ日も昇らないうちから山へと向かう準備を始めたようだ。

 寝る場所は分けてあるけど、遮音性なんて欠片もない馬小屋生活。隣の馬小屋から「ふふふ……。今日の獲物は誰でしょうね」なんて楽しげな天使様の声が漏れ聞こえてくる。これはいけない。


「おいラファマエル! 起きてるのか?」


 実に風通しの良い馬小屋だけど、一応はプライベート空間。気を使って外から声を掛けると、すでに弓と槍を装備した天使様が姿を現された。

 元々着ていたキトーンは純白だったはずなのに、今は白い部分を探す方が難しいほど返り血と泥に塗れている。景色に溶け込むためだろう。顔や髪も、朝からせっせと泥で汚したようだ。

 そのお姿は、控え目に言ってプレデター。


「おはようございます鉄太郎さん」


「おはよう……じゃなくて、何してんだ?」


「食糧調達の準備ですけど、何かおかしいでしょうか?」


 頭じゃね?


「昨夜の鹿がまだ余ってるだろ? 今日はゆっくり休んでいいんじゃないか?」


「確かにまだ余ってますけど、あれは塩漬けにして保存するつもりですから。明日獲物を仕留められるとは限らないんです。やれる時にやらないと」


 なんだろう。言ってることは凄く正しいんだけど、同意したくない何かがそこにはある。


「でもほら。慣れない狩猟で疲れてるだろう? あまり根を詰めても――」


「この程度問題ありません。それに鉄太郎さんと違って私には何の力もありませんから。……せめて鉄太郎さんのお役に立たなければ――ここにいる意味がないんです」


 キリッといった感じで天使様は決然としてるけど、そんなに張り切られるのは逆に困る。なんか俺までちゃんとしなきゃいけなくなるじゃないか。お前はちょっとポンコツくらいでいいんだよ。


「なぁラファマエルよ」


「はい?」


「今のお前の姿を見て、村人たちはどう思うだろうな?」


「えっと……格好良い?」


「臭そう、だ」


 さすがにショックを受けたのか、ラファマエルの動きがビキッと固まった。うん。俺も言いすぎたかなと思ってる。でもそのくらい言わないと、今の彼女には伝わらない。


「お前は俺のサポート役だし、その為に頑張ってくれてるのは分かってる。けれどな? その前に、お前は天使なんだ」


「……」


「天使ってのは神の使いで、美しく清らかなもの。だからこそ人々はその姿を信仰するし、祈りを捧げるんだ。なのに今のお前はどうだ? そんな姿の天使を拝めるか? 邪教だってもうちょい身なりを整えてるぞ?」


 頑なだったラファマエルの瞳から、じょじょに力が抜けていくのが分かった。もう一押しだ。


「食糧の調達を頼んだのは俺なんだから何を今更と思うかもしれないけど、お前にはもっと天使然としていて欲しい。そうすることで村の人々は俺にも協力的になってくれるだろうし、結果的にこの村を繁栄する助けになるんだから」


 そう言って優しく肩に手を置いたところで、ついにラファマエルが折れた。目がうるうると潤み、鼻頭がちょっと赤くなってる。今にも泣き出しそうだ。

 きっと今頃、彼女はこう思ってる。「その通りだ。わたしは天使として鉄太郎さんをサポートしなきゃならないんだから、もっと天使らしくあらねば!」とな。


 チョロい。

 チョロすぎて、知らぬ間に海外から白い粉を運ばされてないか心配になるレベルだ。


「すいません鉄太郎さん……。なんだかちょっと良く分からなくなってました……」


「お、おぅ。分かってくれればいいんだよ」


 酷く落ち込ませてしまったみたいだけど、もう大丈夫だろう。がっくりと肩を落としたラファマエルは、部屋の隅で膝を抱え始めていた。関わると面倒臭そうなオーラが出てるので、懸命な俺は放置することにする。


「今日は休みだ。これ、神様命令な。その間に服を洗って身奇麗にしておけよ?」


「わかりました……」


 とりあえずこれで良し。食糧の心配をしなくていいように、俺も早く計画を実行に移そう。



 ……。



 村の西側。昨日目星を付けておいた地点までやって来た俺は、大地に向かって手をかざす。


地形把握(ジオチェック)


 途端、脳内に地下の様子が浮かんだ。昨日さんざん子供と遊んでレベルアップしといたからな。今は地下三十メートルくらいまで見えている。地下水もばっちり見える深さだ。

 しかしお目当ては地下水じゃない。


「確かこの辺りだったと……あったあった」


 地下深くに突然現れた白い塊。地下資源だ。

 実際に白い物なのかは分からないけど、ゲームの中だと資材は全て白い塊として表示されていたから、これもそれに準拠しているのだろう。


 昨日レベルアップした地形把握(ジオチェック)で村の下に資源が埋まっているのを発見した俺は、すぐにこれを掘り起こすことに決めたのだ。土地も昨日のうちに買い取ってある。

 他にも何箇所か資源が埋まっている場所はあったけど、その上に住居が建っていたからな。選択肢はここしかなかったのだ。まぁ半金貨十枚は痛い出費だったけど、これから稼げる金に比べれば微々たるものだろう。


建造(ビルド)


 地下資源の真上で建造コマンドを発動。建てるのは、ボーリングマシンのような掘削機だ。

 これも昨日のうちに建造可能にしておいた。どれだけ建造レベルを上げれば建てられるようになるのか不安だったけど、実際は物置小屋の次がこれだった。まぁ『い~列車でやろう』では、序盤必須とも言えるくらい重要な建造物だからな。そこまで高レベルを要求されるものじゃなかったのだろう。


「っても、見た目がちょっとボロいんだよなぁ。大丈夫なのかこれ」


 ゲーム内で建てられる掘削工場は、それなりにちゃんとしたものだった。けれど目の前にある掘削機は木製だ。雰囲気だけなら、投石器を思わせるフォルム。三国志とかに出てきそう。

 不安に思いながら作動させてみると、ギシギシと軋みながら木製のギアが回転を始めた。その動力で、中心にあるドリルがガリガリと地面を削りながら突き立てられていく。


「おぉ……。いけそうだな。凄いうるさいけど」


 ギシギシ、ガリガリ、ギギギギギ。自然と共存どころか自然と一体化していたこの村では、およそ初めて聞く音だろう。ほんの五分ほどの間に、わらわらと野次馬が集まってきていた。

 その中にルクソンの姿を認め、俺は彼を手招きする。


「おいおい……。こりゃあなんだい神様? なんかとんでもねぇってことは分かるけどよぉ」


「これは地下に埋まってるお宝を掘り出すためのものだよ。あ、お宝と言っても、村長の金庫に入ってるようなものとは違うけどな?」


 エロ本がわんさか掘り出されたら困ってしまう。いや、それはそれで需要があるか?


「なんだか良く分かんねぇけど凄ぇんだな神様ってのは」


「驚くよりも感謝してくれ。なんせこれで掘り出された資源を売れば、一気に村は潤うはずだからな」


「そ、そうなのか!?」


「あぁ。けど俺一人じゃ持ち運ぶのも厳しい。悪いが男手を集めてくれないか?」


「任せろ!」


 これが村の希望に成り得ると信じてくれたのだろう。ルクソンは喜びを爆発させたように駆け出し、人手を集めに行ってくれた。

 その間に、俺は線路を敷設して列車を配置しておく。同時に駅も建設し、停車時間を無限に設定。資源を積み込み終わるまで動き出されたら困るからな。


 そうこうしているうちにルクソンが戻って来た。後ろには、男衆が十名ほど。この村で力仕事を任せられる全戦力だ。


「よし! じゃあ、さっそく掘り出した資源を貨車に積み込んでくれ!」


 俺の掛け声に「おうっ!」と威勢の良い声を返し、男たちがわっせわっせと資源を積み込み始めた。

 ちなみに、敷設した線路はもう玩具じゃない。軌間一メートルほどの立派な線路だ。当然配置した列車も相応のもので、先頭の動力車は旧型の蒸気機関車である。まぁ蒸気機関車と言っても動力は神様力なので、石炭はいらない。炭水車も付随してるけど、使うことはないだろう。

 貨車は石炭車のような形のものだ。鉄の箱に車輪を付けただけのシンプルな構造となっている。積載量はどのくらいだろう? 大きさから考えて十トンくらいはいけそうだけど、今の動力車ではそこまで引っ張れない可能性がある。半分くらい積み込んだら出発した方が良いかもしれない。



 ……。



 作業開始から二時間くらい経っただろうか?

 ほどほどのところで作業の終了を告げると、汗だくになった男たちから歓声が上がった。


「みんなご苦労だったな。あとはこれを売ってくるから楽しみに待っていてくれ」


「あぁ! 給金はたっぷり弾んでくれよ?」


「もちろんだ」


 上機嫌で答えてから、俺は周辺地図(マップビュー)コマンドを唱える。すると脳内に、神様アースが表示された。

 レベルアップで一番劇的に変わったのは、実はこのコマンドだ。見える範囲が、なんと上下左右に動かせるようになったのだ。つまり、マップの端から端までを見ることが可能になったということである。


 俺はまず、村の全景を俯瞰した。


 北は山だ。トンネルを掘れば線路を繋げられるだろうけど、トンネルを作るにはレベルが足りない。それに、頑張ってトンネルを開通したところで、連なる山々の向こうは荒れ地だけだ。なんの意味もない。


 東は広大な森が広がっていて、そこを抜けると平原だった。何も見当たらないが、さらに東へと視点を移動させると漁村があり、その先は海だった。


 南はどうなっているのか? 一度視点を村に戻してから、ずーっと南へ移動させてみる。しばらく荒野が続いていたが、その先には大きな町があった。けれど高い壁で囲われているし、検問みたいなこともしてる。なんか物騒なのでお近づきになりたくない。


 最後に西だが、こちらは草原だった。そしてほどなく町も見える。南にあった町よりは小さいが、この村とは比べるべくもない都会だ。


 ……あれ?


 …………あれれ?


「ど、どうしたんだ神様? 売りに行くんじゃないのか?」


 そうだよ。

 なんの為に資源を掘ったのか。当然売りに行くためだよ。


 けどさ……。


 ないんだよ……。


 絶対に必要なもの……。


 い~列車でやろうの肝と言えるシステム……。


「マップ端がないじゃねぇかっ!!」


 これ大問題だから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ