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3両目 馬小屋発→不安な明日行き

「鉄太郎さん。本当にそんなことが可能なのですか?」


 手頃な空き地の前で地面に手をかざしている俺に向かって、ラファマエルは懐疑的な視線を向けてきていた。


「たぶん」


 確信はない。

 けれど俺に与えられた神の力があのゲームと同じことが出来る能力だと言うなら、出来てくれないと困るのだ。だってそれは、今後の村復興計画に必要な力なんだから。


「じゃあやるぞ?」


 かざした手に集中し、薄く目を瞑る。いや、かざす必要があるのか知らないけど、なんとなく見た目がよろしいじゃん? これで失敗したらすげぇダサいけど。黒歴史確定だ。


建設(ビルド)


 途端、ブワッと風が吹いた。かと思うと地面が光輝き、そこからにょきにょきっと建物が生えてくる。

 成功だ。どうやら本当にゲームと同じ力が使えるらしい。自分でも疑っていただけに、そっと胸を撫で下ろす。なんだけど……


「おぉっ! 神の奇跡じゃ! しかし、何故に馬小屋なのですかな?」


 俺が聞きたい。 



 ……。



 馬小屋の窓から月を眺めてはアンニュイに溜息を吐き出す俺。とてもセンチメンタル。

 あの後も村人たちに囲まれ、質問責めをされまくった。さらにはいがみ合うルクソンとパトリエッタの二人に、綱引きの綱よろしく引っ張り合われてしまったのだ。肉体的にも精神的にもボロボロである。ゆっくり休みたい。


 なのに天使様は、空気をお読みになってくれないらしい。


「わたしには分かってますから! 鉄太郎さんは、元の世界の神様になぞらえたんですよね?」


「はぁ?」


「知ってますよ? 鉄太郎さんのいた世界では、馬小屋で神様が産まれたんでしょう?」


「あぁ……うん……。そうだね」


 こっちは馬小屋なんかを建ててしまって傷心中だというのに、ラファマエルは勝手に勘違いして盛り上がっている。なんかもう面倒くさい。無視しよう。そんなことより、俺には考えなきゃならないことがあるんだから。


 鉄道経営シミュレーションゲーム『い~列車でやろう』と同じことが出来るというのは本当だった。

 あのゲームは鉄道経営シミュレーションだが、実際には鉄道グループの経営シミュレーションゲームだ。だから線路の敷設や車両開発、配置以外にも、ビルやテナントの建設が出来る。駅周辺を発展させて、電車の利用客を増やすためだ。

 それに準拠しているのであれば、当然俺にも建設が可能だと思って能力を使ってみた結果、確かにそれは使うことが出来た。


 出来はしたのだが、しかし……。


「なんで馬小屋やねん……」


 意味が分からない。


「なぁラファマエル」


「はいっ! どうしました? お悩み事ですか鉄太郎さん?」


「この能力って、『い~列車でやろう』の何作目がベースになってんの?」


『い~列車でやろう』は鉄道ゲームなんだから、当然時代背景も歴史に鉄道が登場して以降のものになる。それにコアなファンはゲーム内で実際の路線を再現しようとしたりするから、基本的には近代がベースだ。そこに馬小屋需要なんてない。そして俺の知る限り、馬小屋を作れるバージョンもなかったはずだ。建造コマンドで建てられるものは、一番手軽なものでも小さな雑居ビルとかだったと思うんだけどな……。


「えぇっと……。ちょっと意味が分からないです!」


「あ、うん、そっか。なんかそんな気はしてた。じゃあ神様に聞いてみてくれ」


「はいっ! 鉄太郎さん。鉄太郎さんの能力は何作目がベースになってるんですか?」


「……俺に聞いてどうすんだよ」


「だって鉄太郎さんが神様じゃないですか」


 馬鹿にされてるのだろうか? 馬鹿にされてるよな? その無駄な乳肉もぎとるぞ?


「そうじゃなくて。俺を神様にしたあのチビッ子に聞いてくれって言ってんの」


「えぇっと……ごめんなさい。それは無理です」


「は? なんで?」


 ちょっと喰い気味に訊ねると、ラファマエルは少しだけ悲しげに自分の頭上を指差した。釣られて俺もそこに視線を向けると、違和感がある。

 ……あれ? 蛍光灯どこいった?


「わたし、天使の中でも最下級ですから……。天界にいないと、すぐに天使力が枯渇しちゃうんです」


「輪っかが無くなったのは、天使力とやらが無くなったから?」


「はい」


「んで、天使力がないと神様とも連絡がとれない?」


「はい」


「お前なんでここにいんの?」


「人々を導くためですっ!」


 知ってたけど再確認。本格的に駄天使だ。

 ってかコイツ、俺をサポートするために着いて来たんじゃないのか?


「……じゃあ、今のラファマエルには何が出来るんだ?」


「神様の教えを広め、みなさんの心を救済することが出来ます!」


 よし決めた。もうコイツは放っておこう。


 なにやら熱弁しだしたラファマエルに背を向け、俺は思考の海に潜る。馬小屋は狭いので、非常に背中がうるさい。けれど無視だ。


 まず考えなきゃならないのは、俺の能力がどういうものなのかってこと。

『い~列車でやろう』と同じことが出来るってのは分かったけれど、明らかに俺の知るものと差異があるからな。明日にでも一つ一つのコマンドを試してみて、確認する必要があるだろう。


 次に、それを使ってどうやって村を栄えさせるかだ。

 最初の予定では、適当にテーマパークでも作って客を集めるつもりだった。最も簡単に村を発展させる方法の一つだ。

 けれどその野望は初手で崩れ去ってしまった。馬小屋なんぞを無数に並べたところで、人口が増えるとは思えない。馬ばっかり増えやがる。

 電車を走らせれば物珍しさで人を呼ぶことが出来るかもしれないけど、建設コマンドの体たらくっぷりを見るに、電車開発コマンドにも罠がありそうな予感がヒシヒシとしている。何ができるのかを見極めてから、改めて予定を立てたほうが良いかもしれない。


 それから、衣食住についても考える必要がある。

 衣については、しばらくこのままでいい。非常にラフな格好だけど、それでもメイドインジャパン。村人たちが着ている物を見る限り、この辺で手に入る衣服より遥かに上等なものだろう。さすがユニシロ。異世界でなら超高級店に匹敵する。


 住は変えたいところだけど、「住む所は自分で建てる」と言って馬小屋を作った手前、今更「こんなはずでは……」なんて言えない。どう考えても格好悪すぎるだろ。神様的に考えて。なので非常に遺憾ながら、住居もしばらくはこのままということにしておこう。


 しかし食。これは考えなければいけない。というか、割と急務だ。

 この身は神様らしいが、霞を食って生きているわけではない。現在進行形で腹が減っている。今日はもう遅いから我慢するけど、明日になったら何か食べざるを得ない。さもなければ、俺は暴食の悪神にジョブチェンジしてしまう。


「ってことでラファマエル。明日はまず食糧の確保だ……ラファマエル?」


 静かに考えごとが出来たと思ったら、俺が一生懸命頭を働かせているというのにラファマエルは寝てしまったらしい。床に藁を敷き、彼女はすやすやと寝息を立てていた。微笑を浮かべたまま、眠れる馬小屋の天使だ。額に『駄』と書いてやりたい。


 だが悔しいことに、寝顔はとてつもなく美人だ。紛う事無く天使だ。しかも巨乳。彼女は自分を最下級天使と言っていたが、胸だけ見ればエリート戦士。キトーンの合わせ目から零れ落ちそうになってるソレは、ハルマゲドンを起こしかねない一品だ。

 しかし、思えばアレが諸悪の根源。あんなものを見せられたから、俺は神様になることを二つ返事で了承してしまった。ぐぬぬ……っ。なんて憎々しい肉だろうか。弄んでやりたい……っ。


 っていかんいかん。何を考えているんだ俺は。また惑わされるところだった。


 けれど、この狭い馬小屋で一夜を共にして、果たして俺は理性を保てるだろうか?

 無理だ。俺の脳内煩悩コンピューターが、コンマ1秒で回避不可能という結論を弾き出している。


「だいたい無防備すぎんだろ。神様になったとはいえ、俺は健康優良児だぞ?」


 幸せそうな寝顔を恨みがましく睨んでから立ち上がり、俺は外へ出ることにした。そうして空き地に手をかざし、馬小屋の隣にもう一つ馬小屋を建設する。


建設(ビルド)


 男女七歳にして席を同じゅうせず、ってな。寝る場所くらいは分けておかなきゃいけない。

 そんな純情なのかヘタレなのか分からない思いから、もう一棟馬小屋を建てたわけなのだが……


「ん? なんか最初のよりでかくね?」


 完成した馬小屋は、明らかに最初の物より広くなっていた。馬二頭分だ。最初からこれなら余計な手間もいらなかったのに。


「ひょっとして使えば使うほど能力が成長するのか……? これも明日試してみなきゃ」


 だとしたら、馬小屋以外の建造物もすぐに作れるようになるかもしれない。少し希望が沸いてきた。その為なら、この村が馬小屋で埋まってしまっても構わない所存。


 そこまで考えて欠伸が出た。どうやら俺もおネムらしい。


「なんでこんなことになったんだろうなぁ……」


 不慮の事故で死んだと思ったら神様に出会い、そればかりか自分も神様になることに。かと思えば異世界に飛ばされて、大嫌いな鉄道関係の能力で村を繁栄させろときたもんだ。正直、展開の早さに頭が追いついていない。


「明日起きたら全部夢でしたってなんねぇかなぁ……」


 たぶんならないんだろうなぁ。そんな無情な現実を感じながら夜空を見上げると、現代日本では見られなくなった美しい星空が広がっていた。それを見上げながら大きく溜息を吐き出し、新築の馬小屋に入る新米神様なのだった。


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