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23両目 再開発計画発→バトルものファンタジー行き

 それから数日。村は完全に消え去っていた。

 残ってる建物は、教会とゲオルグ夫妻の家。掘削機と鉄鉱石運び隊のお城。それから俺の馬小屋だけだ。


「やっとここまで来たか……」


 もう一度、ガランとした村を見渡す。手こずらされたが、昏き魔女の尖塔とかいう残念な雑居ビルもなんとか撤去することが出来た。今思い返しても、実に頭の痛くなる戦いだったぜ……。


『ふざけるな! ここは我が棲家! 我が居城! なんぴとたりとも神聖なこの塔を破壊することまかりならぬわ!』


 などと意味不明な妄言を喚き散らしながら、イカれた銀髪が立て篭もりやがったのだ。

 しかも、ちょっとでも近付くと窓から雨霰と氷柱が飛んでくる始末。力のある駄々っ子とか性質が悪すぎるだろ。


 とまぁそんな感じだったので、こちらも強硬手段に出ざるを得なかった。離れたとこから塔を撤去(クリア)してやったのだ。


「なぁ……。貴様には血も涙もないのか……?」


 そして現在。塔跡地にて膝を抱える銀髪さんだ。綺麗な体育座りである。背中に哀愁が漂っていた。


「もともと俺が作ってやったもんだろ。いいからその土地、俺に売れよ」


「イヤだ。貴様の頼みなど何ひとつ聞いてやらん」


 なんて嫌な女なのだろう。無理やりにでもダンディー領主に返品したい。


「早くどけって。新しい塔を作ってやるから」


「いらん。私はアレが良かったのだ。あの塔が……あの塔じゃなければ……ぐぅぅ……っ!!」


 泣くなよ面倒くせぇ。


 ホントどうしてやろうかと悩んでいるところに、向こうから筋骨隆々の男たちがやって来た。彼らは俺を見つけると、笑顔で手を振ってくる。


「おぉい旦那様よ! 鉄鉱石を全部掘り尽くしたみたいだぜ!」


「お、そうか。ご苦労さん」


 フル稼働で動いていた掘削機は、早くも全ての鉄鉱石を堀り終えたらしい。一日二本の列車では運び切ることが出来なかったので、掘り出した鉄鉱石は村の外れに作った資材置き場に積み上げておいてもらった。


「じゃあちょっと早いが仕事も終わりだ」


「そうなるか。美味しい仕事だったから残念だな」


「またいつか力を借りることもあるかもしれない。その時はよろしく頼むよ」


 そう言って多めに給料を渡してやると、男たちは跳ね上がらんばかりに喜びを爆発させていた。彼らは今夜出発する便で、鉄鉱石と共にルドアートへ帰ることにするそうだ。

 ならば彼らが住んでいたマッスルキャッスルも、掘削機共々さっそく撤去しよう。これで俺の馬小屋を撤去すれば、村に残る建物は教会とゲオルグ家だけになる。


 もう始めてしまっていいかな?


 バサッと村の地図を広げる。そして念のため、建造コマンドで建設出来るもの一覧を確認した。


 うん。問題ない。

 予定より建造コマンドがレベルアップしてるから、思ってたよりも良い感じに出来そうだ。


 ――これからやるのは、この村の再開発である。

 区画を整理し、新しい建物を建て、町を作り上げるのだ。


 もちろんただの町じゃないぞ? それじゃあ住み心地が良くなったとしても、衰退する未来は変えられないのだから。


 ではどうするのか?

 そう難しい話ではない。ただそこにあるだけで、たくさんの人が訪れ、お金を落としていってくれる町。それを作ればいい。


 そう。

 つまり俺が目指しているのは、観光都市なのだ。


 そのために、村人たちには全員出て行ってもらった。ここまで徹底する必要があったのか? と思うかもしれないが、俺は必要だったと思っている。


 当初はこの村に温泉が湧くなんて知らなかったので、この村を一大レジャー施設にする予定だった。色取り取りの噴水、山を利用したスキー場、ゴルフ場。遺憾ながら、玩具の列車も走らせまくる。ようするに、日常と違う空間を演出して客を呼びたかったわけだ。

 なら徹底的にやる必要がある。中途半端では日常がチラついてしまうから。夢の国理論だ。


「なにニヤついてるんだ?」


 地図の前で都市構想を練っていると、後ろからティアモーテが覗き込んできた。塔レスショックからは立ち直ったらしい。

 てか、ニヤついてたのか俺……。でも仕方ないだろ? だって計画してる時が一番ワクワクするじゃん?


 銀髪に邪魔されたくないので、背後は無視して地図に建物を書き込んでいく。

 ここに雑貨屋。ここは土産屋さんかなぁ……。


「ほう。この村を一新するつもりなのか。……おい。だったらここはこうじゃないか?」


 小癪にも口出ししてくるティアモーテ。しかも悔しいことに、認めたくないことに、口惜しいことに……なかなかセンスがありやがるのだ。


「貴様はバランス良く配置しようとし過ぎだ。面白みが感じられん」


「うるせぇよ。だったらこれは……」


「それはこっちだろう? 景観を考えるのならば、こう配置した方が……」


 そんな言い合いをしながら、地図がどんどん埋まっていく。途中でヤツの隠し切れない暗黒面が村を良からぬ方向へ導きかけたが、それを阻止しながらの再開発計画だ。あとは、これを現実に作り上げるだけである。


「よしっ。んじゃさっそく建造しまく――」


 るか。と言いかけたところで、ティアモーテに肩を掴まれた。


「なんだよ。まさか再開発構想の著作権でも申し立てるつもりか? 格好良い塔を建ててやるからそれで我慢しとけ」


 軽口を叩きながら振り返ると、思いがけず真剣な赤い瞳。ティアモーテは銀髪の隙間から目を細め、山の方を睨みつけていた。


「……どうしたんだよ」


「分からんか? 貴様、わけの分からん魔法は得意な癖に、そういうところは鈍感なのだな」


 周囲の視線に鈍感なお前に言われるとか、すげぇ釈然としないんですが?

 とは思うものの、あまり冗談を言える雰囲気ではなかった。なんていうか、ティアモーテがかつてないほどまともに見える。真剣な顔をしてると、ゾッとするほど美人さんだ。


「……気を抜くな。何か来るぞ」


「何かってなん…………なんっ!?」


 ティアモーテの言う通り、本当に何か来た。何かとしか表現出来ないほど、俺の知ってる生物とは違う何かが。


 山の方からバギバギと木々を薙ぎ倒し、ヤツは姿を現した。


 体長は四メートルくらいか? 頭部は熊。けど蜘蛛を思わせる真っ黒な眼が四つも付いてた。それがぎょろぎょろと蠢く様は気色悪いの一言。夢に出そう。


 身体はネズミ色の体毛に覆われていて、見るからに丈夫そうだ。体毛の下では肥大しまくった筋肉が歪に盛り上がっている。四足歩行で手足は短いが、その分瞬発力はありそう。逃げようとしても、確実に周りが囲まれてしまうタイプ。最悪だ。


 てか、町作りゲームをやってたはずなのに突然バトルファンタジーとか止めろよ。なんだよあの見るからに危険生物は。


「ちっ。よりによってクマンマとは……」


「知り合いか?」


「野性の熊が魔物化するとクマンマになる。この間埋めたヤツかもしれんな」


 遭難したラファマエルを探しに行った時にエンカウントしたアイツか。じゃあどっちかって言うと俺の知り合いだ。

 てか、熊ってあんな風に進化すんの? どうなってんだこの世界。ダーウィンに喧嘩売ってる?


 くそ。こんなことなら天使様の言葉は聞かなかったことにして、サクッと止めを刺すべきだった。神様の教えは碌なことがない。


「私が相手をする。貴様は逃げろ」


 思いがけないティアモーテさんの御言葉。凄いイケメン台詞。格好良い。


「気持ちは嬉しいけど、アレを女の子に押し付けて逃げるってのは格好悪すぎるだろ。戦うんなら俺も――」


「いいから逃げろ! 貴様が死んだら誰が借金を返すんだ!」


 ……あれ? 全然イケメン台詞じゃなくない?

 あんなグロやばそうな生物を前に借金返済計画の心配とかどんだけだよ……。


「私の任務は貴様がちゃんと借金を返すかの監視だ。死なれると任務が遂行できん」


「そっすか……。仕事熱心なことで。けどな――」


 ゆっくりと近付きつつあるクマンマに手をかざし、俺はコマンドを発動する。


地面陥没(ジオダウン)!」


 途端、ボコッと出来上がる大穴。視界からグロ生物が消えて少し気分が良くなった。次いで、すかさず地面隆起(ジオアップ)。今回はきっちり生き埋めにする。


「これでも神様名乗ってんだよ。自分だけスタコラサッサってわけにゃいかねぇんだ」


 さらに埋め立てた地面の上。俺は建造で掘削機を建設した。埋めたクマンマを、上からガリガリ削り殺してやろうって寸法だ。


「硬い地面も掘り起こす掘削機さんだ。丈夫そうに見えたアイツでも、これでなんとかなるだろう?」


 俺はそう思ったんだが、しかし隣のティアモーテは一切気を緩ませていなかった。


「クマンマの屈強さを侮るな。天才である私の魔法をもってしても、クマンマの体毛は容易に貫けん」


「え……? そうなの?」


「アレを貫くには鋭く丈夫な武器が必要だ。ただの剣程度では届かんだろうな……」


 そんなこと言われたら、ちょっと不安な神様だ。

 てかそれなら今のうちに逃げた方が良くない?


 そう言い掛けて


 ――グルオォォォォォォッッッ!!!


 掘削機ごと地面が爆発。クマンマが穴の中から這い出てきてしまった。あまりにも早いご帰還である。


「なんか方法ないのか? さっき「私が相手をする!」とか言ってたじゃん」


「一人なら牽制しつつ逃げられるかも、というだけの話だ。く……っ! だからさっさと逃げろと言った!」


 やべぇなこれ……。

 マジでどうしよう……。



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