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21両目 天使様の疑念発→神様の名推理行き

 そこからの動きは、俺の予想より早かった。

 以前資源の埋まっている土地を買い取った時の様子が、村人たちに広まっていたからだろう。


 最初に訪ねて来たのは、掘削機の目の前に家を構える奥さん。今の環境では何ヶ月どころか数日も耐えられないから、土地を買い取って欲しい。そのお金で引っ越すから、とやって来たのである。


 だが神様。難しい顔で静かに首を振る。


「か、買い取って頂けないのですか!? 隣のミュクさんからは、半金貨四十枚で買ってもらったと聞いているのですけど!?」


「それはあの土地の下に資源があったからだよ。それにさ……実を言うと、あんまり手元にないんだ」


 俺が莫大な借金を背負っているという話は、瞬く間に村内を駆け巡っている。俺が難色を示すのは、なんら不自然ではないのだ。

 すると奥さんは泣きそうな顔で考え込み、それから顔をあげた。


「で、でしたら、土地の代金は捨て値で構いません! 安い土地でしたら何とか買えるだけの蓄えもありますから。そ、その代わりと言ってはなんですが、新しい家を……」


「家か。それなら構わないぞ」


 家を建てるだけなら無料。神様の能力万歳である。

 ちなみに建造コマンドはあれからもレベルアップを続けており、住居以外にも武器屋、道具屋、宿屋などなど。用途に応じて、色んな建物が建てられるようになっていた。


 奥さんから希望を聞いた俺は、半金貨二枚で奥さんの土地を買い取り、その代わり新しい土地に立派な建物を建ててやる。


 するとそれを皮切りに、次から次へと村人たちが押し寄せてきた。その全てに対応し、俺はどんどん土地を買い漁っていくのだ。土地を売りたいという列は一度途切れかけたものの、夜になると倍増。あの轟音が鳴り響いては、眠ることすら出来ないという現実を突きつけられたのだろう。


 結局この日に買い取った土地の総額は、半金貨で七十枚ほど。たったそれだけで、村の土地の三分の一が転がり込んできたのである。


「て、鉄太郎さん? 何かお考えがあるんですよね……?」


 ホクホク顔で夕食を食べていると、目の前にはオロオロと落ち着きのない天使様だ。きっと彼女の元にも苦情に似た相談が多数寄せられたのだろう。顔には疲労が滲み出ていた。

 一方で、我関せずなのがティアモーテである。彼女はもくもくと口に料理を運び、褐色の喉をコクリコクリと鳴らしていた。


「神様気取りの詐欺師も背に腹は変えられんということだろ? メッキが剥がれただけのことだ」


「ティアモーテさんっ! 鉄太郎さんは、そんな神様じゃ……」


 ラファマエルは、今にも泣き出しそうな顔で俺と銀髪を交互に見てくる。俺が「実はこういう考えがあるんだ!」なんて言い出すのを期待してるのかもしれない。


 でも残念ながら、今の時点で俺にネタばらしするつもりはなかった。


 だって俺が説明したことをラファマエルが村人たちに説明してしまうと、村人たちの間で不公平が生まれるから。場合によっては、まだ村に残ってる者が頑なに土地を売ってくれなくなるかもしれない。今後のことを考えると、それは避けたい事態なのだ。


 それに、当然だけど全てが上手く行くとは限らない。俺の見通しなんて、学生相応。多分に希望的観測が含まれている。

 失敗した場合のことは……まぁ、考えてなくはないが、本当に最悪の選択肢だ。出来ることなら避けたい未来である。


 ということで、天使様は蚊帳の外にいてもらうという方針に変更はない。不確定な希望をラファマエルに撒き散らされるわけにはいかないのだから。

 こんな博打染みた計画に、清廉な天使様を巻き込むわけにはいかない。例えそれで、俺が天使様に愛想を尽かされることになったとしても。



 ……。



 次の日も、転居を決めた村人が朝からやって来ていた。

 昨日と同じように応対し、さらに村の整地も開始する。鉄鉱石運び隊に特別手当を支払い、空き家となった民家を解体し始めたのだ。建物が取り除かれたら今度は俺の出番。レール敷設&レール撤去を繰り返し、土地を綺麗な更地にしていく。


 どんどんと寂しくなっていく村の景色。ついこの間ここが大宴会で賑わってたなんて考えられないほど、村の景観はガランとしてきていた。

 村の住人が減るに比例して、転居を申し出る住人も加速していく。ついには翌日、最後になると予想していた男までもがやって来たのだ。しかも妹を連れて。


「……くそっ」


 俺の顔を見るなり、苦々しそうに唇を噛むルクソン。そこに、俺を「家族」と呼んでくれた親しみは欠片も感じられない。さらにその後ろにはパトリエッタの姿もあるが、どういうわけか彼女は顔を青褪めさせていた。


「て、鉄太郎様……っ! 兄が……ルクソン兄さんが、嘘ばかり言うんです……っ!」


「ん? なんの話だ?」


 あれ? 土地を売りたいって話しじゃないの?

 まさか用件が兄妹喧嘩の仲裁だとは思わず、首を傾げる神様である。

 俺の腕にしがみ付いたパトリエッタは、ルクソンを指差しながら震えた声で続けた。


「父の金庫には、資産になるものなんて入ってないって……っ。だから神様と共謀して村人たちに村の存続を諦めさせても、町に移住するだけのお金が用意できないって……っ!」


「嘘なんかじゃねぇよ! お前は都合の良いとこしか聞いてなかったんだろうがな、俺はその後親父に聞いたんだ。宝ってなんだ? ってな! 親父は言ってたぞ。俺の宝はこの村だって!」


「じゃ、じゃあ金庫には何が入ってるって言うのよ!」


 ちょっとちょっと。二人だけで話を進めないでくんない? 神様が寂しい想いをしてるぞ?

 てか、パトリエッタと俺が共謀? ……あぁ、なるほど。そういうことか。


 つまりルクソンはこう思ってる。俺がこんな方法で村人たちを追い出しているのは、村人を町に移住させたいというパトリエッタの方針に俺が賛同したからだ、と。

 パトリエッタも同じだ。だから彼女は、追い出された村人たちを町に移住させるための資金を慌てて掻き集めようとしている。


 当てにしたのは、やはり故村長の金庫か。さっきの話しを聞くに、その金庫を兄に開けさせようと直談判したんじゃないだろうか? そこで、ルクソンも鍵を持っていないこと、金庫の中身がパトリエッタの考えているようなものじゃないことを告げられたのだろう。


 ふむ。状況は分かった。

 事実とは異なるが、ここはその勘違いを利用させてもらおう。ついでに、金庫の鍵とやらも探し出してみるか。実のところ、俺には鍵の行方に見当が付いている。


「金庫の中身が期待外れだと確かに困るな。ってことで、中身を確かめてみるか」


 兄妹が、同時に眼を見開いた。


「て、鉄太郎様? 鍵の在り処をご存知なのですか?」


「推測通りならな。とりあえず馬小屋から出るぞ」


 二人とともに馬小屋から出た俺は、すぐさま馬小屋に手をかざした。ただし手の平を向けたのは、ラファマエルが使っている最初に建てた馬小屋の方だ。


撤去(クリア)


 さらさらと砂のように崩れて消え去る馬小屋。その跡地に向けて、さらに手をかざす。


「おい? どういうことだ?」


「まぁ見てろ。地面陥没(ジオダウン)


 続けて地面に穴を開けると、中に埋まっていたモノが白日の下に晒された。

 腐乱した、動物の死骸である。


「こりゃ……豚か?」


 ルクソンは動物の死骸程度見慣れているのか、じっくりと観察してそれが豚の死骸だと言い当てた。パトリエッタは見慣れていなかったようで目を背けていたが、ルクソンの言葉に恐る恐ると視線を死骸に向ける。


「しかし、なんだって豚の死骸なんかが埋まってんだ? 見たところ、死んでから二週間くらいってとこだと思うが」


 それには答えず、穴の中に降りた俺は豚の死骸を調べ始める。

 ドロドロに肉が溶けている状態は、見ていて気持ちの良いものじゃない。正直吐きそう。もうちょい綺麗に白骨化してたら平気だったのに。


 けどやり始めたことだ。これで兄妹の確執がなくなるかもしれないと思えば、この程度の汚れ仕事なんて、たいしたことじゃない。


「……あった。これか? 金庫の鍵ってのは」


 ちょうど豚の胃袋があったあたり。土の上に、少し胃酸で腐食した鍵がコロンと転がっていた。

 それを拾い上げて二人に見せると、パトリエッタが食い入るように鍵を見詰めてくる。


「そ、それです! 確かに見覚えがあります! 父が胸にぶら下げていたものに違いありません! け、けど、何故?」


「そうだぜ神様よぉ。なんでこんなとこに豚の死骸と一緒に埋まってんだ? んで、なんでアンタはそれを知ってたんだ?」


 二人の視線を受けながら、俺はこの結論に至った経緯を思い返すことにした。


 一番最初に疑問を感じたのは、俺がコマンドのレベルアップ法則に気付いた頃だ。

 能力を使い、人々に感謝されるとレベルアップするという法則。であれば、何故二つ目に作った俺用の馬小屋はグレードアップしていたのか。


 法則通りなら、最初の馬小屋を建てたことで誰かが感謝したことになる。けど村人たちは驚きこそすれ、それに感謝した素振りはなかった。むしろ「なんで馬小屋?」と疑問ばかりだったはずだ。

 唯一感謝する可能性があったのはラファマエルだが、彼女も同様。「馬小屋の御子を真似たんですね」なんて検討外れなことを言ってた気がする。

 それにラファマエルに関しては、天使だからなのか法則が当てはまらない。山で遭難した彼女を助けた時、俺の能力は何一つとしてレベルアップしていなかったのだ。単純に感謝の足りない天使様だという線もなくはないが……。


 とまぁそういう状況だったわけだけど、現実として二番目の馬小屋はグレードアップしていた。となれば、誰かが感謝したことに間違いはない。


 なら、誰が? 何故? という疑問が残る。


 ここからは完全な推測だが、ヒントはいくつかあった。鍵が無くなった日。つまり、暴風雨の日の出来事について得られた証言たちだ。


 ビッグマザーな奥さんは、悲鳴のようなものを聞いたと言っていたし、木を化物と誤認するほど視界が悪かったと言っていた。

 家畜を飼ってるオジサンは、何でも食べちゃう豚のハナコが脱走したと言っていた。

 そして元々この土地の持ち主ベクドットさんは、暴風雨の日に腰を痛めたと言っていた。思い返せば、爺さんもハナコの行方を気にしていたように思う。


 つまりこういうことなんじゃないかな?

 暴風雨の日。畑を見に家を出た村長は、転倒するか何かして運悪く命を落としてしまった。

 そこに、脱走した豚のハナコがやって来る。ハナコは倒れている村長に近付き、胸に下げられていた鍵を飲み込んでしまったのだ。


 丁度その場面に、今度はベクドットさんが出くわした。恐らく彼も、畑の様子を見に出て来ていたのだろう。だが視界が悪かったため、ベクドットさんは誰かが猪に襲われていると勘違いしてしまった。そして襲われている人を助けるため、豚を殺したのだ。凶器はなんだろう? 彼の家にあった木刀かな?


 だが殺したあとで、それが猪ではなく豚だと気付いてしまった。しかも、飼い主がとても可愛がっている豚のハナコだと。


 ベクドットさんは、これは大変なことになったと思った。ただでさえ、目の前には村長が倒れて息を引き取っているのだ。自分が豚のハナコを殺したなんて知られたら、村長殺人の容疑もかかるかもしれない。


 慌てたベクドットさんは、自分の土地に豚の死骸を埋めて隠すことにした。ビッグマザーが飛びかねない暴風雨の中での作業だ。腰を痛めたのはその時に違いない。


 けれど、死骸を埋めて隠しても安心は出来なかった。死骸が腐臭を放つかもしれないし、誰かに掘り起こされるかもしれないのだから。

 そんな時だ。奇跡が起こったのは。

 村に舞い降りた神様が、なんと豚の死骸の上に馬小屋を建設してくれたのである。


 これで掘り起こされる心配はなくなった。神様が、自分の犯した過ちを隠してくださったのだ。

 そうしてベクドットさんが感謝した結果、俺の能力がレベルアップした。


 ――というわけである。


 もちろん証拠はない。事実と異なる部分も多々あるだろう。

 けれど鍵は確かにそこにあった。それが全てじゃないだろうか。


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