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18両目 計画開始発→大宴会行き

 ここで、この世界における土地の扱いを復習しておこうと思う。


 基本的にこの国の土地は、全てこの国の王様のものらしい。土地の売買は民間レベルで行われているが、厳密に言うとアレは土地の所有権を売買しているのではなく、土地を管理する権利を売買しているのだそうだ。土地を無断使用したことでダンディー領主様とお話した時に、そんなことを聞かされた。


 けれど国土は広大だ。今度はどこの土地を誰が管理しているのかを把握して、その情報を管理する人が必要になってくる。本来なら王様が把握するべきなのだろうが、広すぎて無理なので仕方ない。

 そこで生み出されたのが貴族制度だ。貴族は、王様に土地の管理者を管理する役目を任され、領主になるのである。


 だが、それでもまだ広い。パソコンもなしに、とても管理しきれるものではない。

 なので最終的には町単位、村単位に管理者を置いて管理することになるのだが、それを町長や村長に任せた結果、不正が横行したという歴史があるらしい。

 土地ってのは本当に重要なものだからな。それを自由に出来る立場ってのは、それだけで凄まじい権力になる。


 そして町単位、村単位で絶大な権力を振るう者が現れることを、領主は良しとしない。そのため管理者を信頼出来る者に任せなければならなくなったわけだけど、これが難しい。金にも権力にも興味を示さない人間なんて、数えるほどしかいないんだから。


 んで、白羽の矢がたったのが教会ってわけだ。

 布教に熱心な彼らは全ての町村に教会を造っていたし、厳しい戒律があるので不正も働けないということで(もちろん中には不正を働き、厳罰に処された者もいる)、都合が良かったのだろう。


 以来、土地の管理はその地域の教会が行っているのである。土地を売買する時は売買する土地の場所と金額を記入し、買い手と売り手が署名した紙を教会に届けるといったシステムだ。


「良くご存知で。神様とは()くも勤勉なものなのですな」


 少し驚きながらも、司祭は分厚い紙の束を持って来てくれた。管理者名簿だ。俺はそれを受け取りながら、パラパラと捲ってみる。


 現在我が家が建っている場所にはベクドットという名前が書かれていた。だがそれは、上からバツ印で消してある。そしてその下にラファマエル様と書かれているのだ。

 これは、誰から誰に土地の管理権が移ったのかを示しているのだろう。ラファマエルの名前の横には、『半六銀五』という文字も書いてあった。


 他の場所もかなり細かく管理者が分かれており、空白地というのは見当たらない。ちなみに、ラファマエルが遭難した山にも管理者がいて、故村長の名前が書かれてあった。

 司祭の話では、ルクソンかパトリエッタのどちからがそれを相続することになるらしい。土地の管理権を持つ者が死んだ場合、その権利は親族に相続される。死者を弔うのは教会の仕事なので、そういった観点からも教会が土地の管理をするのは理に叶ってると言えよう。


「だいたいで良いんだけど、この教会が担当している土地の管理権を全て買おうと思ったら、いくらくらいになるんだ?」


「山も含めて、ですか? 管理権の値段は現管理者に委ねられておりますゆえ、なんとも……。ただ、最後に買われた時の価値でしたら分かるので、それを合計すれば参考程度には……」


 管理者が変わった時に、いくらで土地を売ったのかも記録してあるらしい。さっきラファマエルの名前の横に書いてあった数字がそれだった。これも、不正を防ぐために必要なことなのだとか。

 なので、合計金額を計算することは可能だった。まぁ、時間は掛かったけど。


「計算間違いがあるかもしれませんが、およそ半金貨二万五千枚ですな」


 ふむ。高い。俺の背負った借金ほどじゃないがな。

 買わなくていい土地もあるけど、この村と山をそっくり買おうと思ったら、半金貨二万枚くらいは必要になるだろう。


 普通なら。


 もちろん俺は、普通に買うつもりなんてない。金もない。だから仕方ない。


 値切る。

 全部まとめて、そうだなぁ…………半金貨千枚くらいかな?


 

 ……。


 

 それから俺は、何軒かのお宅を訪ねて回った。

 全て、地下に資源が埋まっている土地を持っているお宅だ。


 もちろんそんなことは言わず「なんとなく神聖な気が多いっぽいので、この土地を売ってくれませんか?」と交渉する。


「そうは言ってもねぇ……。ここを売っちまったら、ウチの家族が住む場所がなくなっちまうよ」


 当然ながら、応対に現れた家の奥さんに難色を示された。これが空地や使われなくなった畑なら良かったのだけど、最初に訪れた土地には住居が建っている。いきなり立ち退けと言われ、はい分かりましたとなる筈がない。


 なる筈がないからこそ、俺は最初にここを選んだんだけどな。


「なに、心配する必要はない」


 言いながら、俺は四十枚ほどの半金貨をジャラっと奥さんの前に提示して見せた。

 日本円で四十万円だが、この村は物価が安い。半金貨の価値も、ルドアートより高いのだ。旦那の半年分以上の稼ぎに相当する筈である。


 それに現在、この村の土地相場は以前と比べて下がりまくっている。今交渉している土地だって、取引き記録を調べたところ、以前は半金貨九十枚で取引きされた土地なのだ。

 けれど新しく居住する人が増えないのだから、買い手もつかない。半分以下の価格でも十分な値段なのである。


 それゆえに、奥さんの喉がゴクリと鳴った。

 口ではまだ「け、けどねぇ……」と否定しているものの、その目は半金貨の山に釘付け。これはもう、半分以上落ちている。あとは、ほんの少し背中を押してやるだけだ。


「この金で新しい土地を買えるだろう? 家は俺が建ててあげよう。もちろんサービスだ」


「家まで建ててくれるのかい?」


「あぁもちろん。よく見れば、この家も大分ガタがきてるみたいじゃないか。建て替えるのだって金は掛かるだろう?」


「そ、そうだねぇ……」


 結局奥さんは落ちた。契約書に奥さんの名前をゲットである。

 あとはこれを教会に持って行けば、この土地を半金貨四十枚で買い取ったという契約が成立するのだ。


 とまぁそれは後回しにして、俺はさっそく奥さんを村の外まで連れて行き、安い土地を斡旋してやった。村から距離が離れてしまうが、その代わり新しい土地は半金貨二十枚。新家屋は神様建設が無料で建てるので、手元に半金貨二十枚がまるっと残る計算だ。奥さんもホクホク顔である。


 そんな調子で、俺は更に二軒のお宅を買い取った。一軒目の奥さんが、何の不自由もないどころか余剰金まで出来てホクホクである話をしたら、実にスムーズに話が進んだ。最後に交渉した家は、引っ越すと畑まで遠くなってしまうから畑ごと買い取って欲しいと言われたが、もちろん快く買い取ってあげる。


 なので、総出費は半金貨二百枚。三軒買い取って二百枚だ。


 ん? 払い過ぎだって?

 そうだな。俺の目標は、この村全部を半金貨千枚で買い取ること。このままでは、到底千枚じゃ足りない。


 けどそれでいいのだ。

 何故なら、大盤振る舞いはここまでだから。


 

 ……。


 

 その夜は、村をあげての大宴会となった。

 ルドアートから戻ったパトリエッタが、大量の酒と食べ物を購入してきてくれたのだ。


「よろしいのですか神様!? こんなに良くしていただいても!」


 村の広場。村の奥さんたちが総出で食材を料理してくれて、それが所狭しと並べられている。

 それを見た村の人々は戸惑っているが、俺は笑顔で言ってやった。


「当然だ。昨日はうちの天使が迷惑を掛けてしまったし、そもそもこの村の土地から出た資源を売って得た金なんだ。みんなで分かち合おうじゃないか」


「いやっほぅっ! さっすが神様だぜぇ!」


 俺の言葉を聞き、あちこちで歓声があがる。手に手に酒を持ち、大宴会の始まりだ。

 村の人は、ほとんど全員出てきてるんじゃないだろうか? かつてない人口の密集具合に、周囲が熱気に包まれていた。

 篝火もたくさん焚かれ、昨夜を彷彿とさせる光景だが、昨日とは打って変わってみんな笑顔。軽いお祭り状態である。


 何故だか村人たちは一人ずつ俺のもとを訪れ、感謝ついでに酌をしようとしてきた。こちらでは十五歳からアルコールが解禁されるらしいが、日本生まれ日本育ちの俺としては、お酒は二十歳になってから。神様だからという理由でお断りしている。お神酒文化がなくて良かった。


 一方、異世界生まれ異世界育ちの銀髪さんは、俺より年下にも関わらずグビグビいっちゃってる。昨日は村人たちと一線を引いてるように見えたが、今はその線をひょいっと飛び越え、酒を酌み交わしながら高笑いしていた。


「ふ~はっはっは! 彗星のごとくルドアートに現れた天才魔術師っ! 銀氷の魔女とは私のことだっ! どうだっ! 驚いたかっ!」


 テンション高いっすね。手の指を思いっきり開きながら腕をクロスするそのポーズ、なんか意味があるんすか?


 俺には良く分からないが、子供たちには大人気。調子に乗ったティアモーテは、魔法で小さい雪だるまを作って見せびらかしていた。随分可愛らしい魔女である。


 そんな様子を見ながら肉団子をつまみ、俺はひっきりなしにやって来る村人と挨拶を交わしていた。

 今日の宴会は立食形式。食べ歩きしながら言葉を交わせるのは悪くないが、逃げ場がないという難点がある。神様ムーブも板についてきた新米神様ではあるけど、大勢に囲まれるのは……まぁなんだ。気疲れしてしまうのだ。


 一通り挨拶も終ったはずだし腹も膨れてきたので、もう抜け出したい。そんな風に思っていると、ちょうどラファマエルを発見した。彼女を矢面に立てれば、俺は帰ってもいいだろう。


 そのつもりで声を掛けたところ


「鉄太郎さん飲んでますかぁ? 飲んでないんですかぁ? ラファマエルは飲んでま~す!」


 ただの酔っ払いが出来上がっていた。この天使は、自分が天使であることを放棄したらしい。

 ってかラファマエル、今日は朝からドンよりしてたよな? 昨日の失態に凹んでたんじゃないのかよ。


「だって皆さん笑顔じゃないですか~! わたしはそれが嬉しいんですよぉ!?」


 グイグイ迫ってくんな。酒臭い。あと胸圧が凄い。


「鉄太郎さんは本当に素晴らしい神様ですっ! 人々の為に奇跡を使って、そして皆を笑顔にしてくれたっ! こんなに美味しい食べ物もたくさんっ! そんな鉄太郎さんにお仕えすることが出来て、わたしは幸せ者ですっ! 幸せ天使っ!」


 なんだろう。美味しい物をたくさん食べられて幸せって意味にしか聞こえない。


「それなのにわたしは天使なのに…………なんのお役にもたってなくないですかっ!?」


 そこに気付くとは、やはり駄天使。

 つうか、気付いたんなら飲むのを止めろ。お前の天使評価、留まる事を知らずに下降中だぞ?


「鉄太郎さんをサポートするのがわたしの仕事なのに……っ! やったことと言えば、お金を浪費して、キノコで毒殺しかけて、山で遭難したあげく露店風呂で洗濯しただけです……っ! これで鉄太郎さんのサポートになっているんでしょうか!?」


 何故聞く。疑問の余地どこにもねぇだろ。

 でも俺は、ラファマエルの肩に優しく手を置いてやった。


「あぁ。十分助けられてるぞ。これからもその調子でよろしくな」


 早い段階で決めていたから。こいつには蚊帳の外にいてもらおうって。そういう意味なら、実に役立っている。山で遭難はいただけないが、俺の計画の邪魔をしなければ問題ないのだ。


「でづだろうざぁ~ん……っ!!」


 そんな俺の言葉を聞いて、天使様は号泣してしまったらしい。

 よし。コイツを口実に宴会から抜け出そう。介抱するためとか何とか言えば、誰も不思議には思わないだろう。


 喜べラファマエル。役に立ったぞ?

 

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