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17両目 ティアモーテのお宅発→この村ハウマッチ?行き

 なんとかラファマエルを見つけて村に戻ると、もう夜中だというのに村人たちが帰りを待っていてくれた。とてつもなく心配をかけてしまったみたいだ。


 ラファマエルに頭を下げさせ、俺も謝罪を伝えたが、「謝罪なんていらねぇよ。家族じゃねぇか。とにかく、無事で良かった」なんて言われるばかりでちょっと戸惑う。だってみんなに心配を掛けてる最中、当の天使様が入浴中だったのを俺は知ってしまっているから。せめて、何かお詫びでもしなければ気が済まない。


 まぁそれはそれとして、今俺はとても困っていた。

 村人たちに頭を下げながら馬小屋に戻ってきて「さて寝るか」となったところで、銀髪の中二病が喚きだしたのだ。非常に五月蝿い。そして寒い。冷気を出すな。壊れたエアコンかお前は。


「なんだよ。何が気に入らねぇんだよ」


「何がだとっ!? 馬小屋で寝ることに疑問すら感じないのかっ!?」


「さすが天才と持て囃される魔術師さんだな。馬は良くて人は駄目なのか? 人馬差別だぞ?」


「区別だ馬鹿者っ!」


 ちっ。チョロくない。

 どこぞの天使様なら「確かに!」とか言ってくれるのに。ってか、ラファマエルなら文句を言うこともなく寝てくれる。こっちが心配になるほどだ。アイツ今までどんな生活してたんだよ。


 とにかく、銀髪さんは馬小屋にご不満のご様子。こちらは神様も寝てる由緒正しい馬小屋だというのに文句の多いヤツである。お前んとこの地下牢に比べたら天国なんだからな?


「この村に宿屋はないのか?」


「ないな。こんな何もない村にわざわざ泊まりにくる好事家はいないんだろ。需要がないんだよ」


「このような辱めを受けるとは……っ。く……っ、殺せ……っ」


 その程度のことで、オークに襲われたみたいな台詞を吐くな。少しは天使様を見習え。

 そう思ってチラッとラファマエルを見れば、ヤツはヤツでとんでもない。よほど山篭りで疲れていたのかすでに寝息を立てているのだけど、全裸だ。まだ乾いていないキトーンを着るわけにもいかず、俺の服を着たままというのも気が引けたのだろう。かといって、全裸はないわ……。どんな天使やねん。

 もっとも全身が藁にずっぽり埋まっているから、今は顔くらいしか露出してない。寝相が良いことを祈るばかりである。


「ったく……。しょうがねぇから家を作ってやる。そんかわり、土地代はお前が払えよ?」


「今から作るだと? いったい何日待たせるつもりだ? それまで私に野宿しろとでも言うのか?」


「一瞬だ」


 ティアモーテを無理やり立たせ、ラファマエルの寝所から外にでる。

 俺の土地ではないが、近くにはまだまだ空き地があるからな。適当な場所を選び、俺は手をかざした。


建造(ビルド)


 文句の多い彼女には、建造可能な最新の建物を贈呈しよう。建造コマンドに名前が表示された時、俺としても早く建ててみたいと思っていた建物だ。


 その名も『雑居ビル(異世界仕様)』


 後ろに付いてる文字にどんな意味があるのか分からないが、雑居ビルだ雑居ビル。い~列車でやろうにおいて、もっとも多く建てることになる建造物である。


 街が発展して人口密度が上昇してくると、平屋建てばかりでは収まりきらない。少ない土地を有効活用するため、ビルディングの建設は必要不可欠なのだ。まぁ、この村の人口密度なんて田舎の終電くらいスッカスカだから今は必要ないんだけど、今後必要になる可能性はあるからね。先に見ておくべきだろう?


 そんな考えのもとに建造した建物を見て、天才魔術師さんはぽかんと口を開けていた。


「これは……伝説の魔女が住んでいた塔の模倣か……?」


 褐色の頬っぺたが、ピクピクと痙攣してる。伝説の魔女は知らないが……。うん。塔だね……。


 天を貫く……という程じゃないが、煙突のように聳え立った建造物は地上五階建ての塔だった。新品なのに外壁が所々剥がれ落ちていて、天辺は避雷針みたいに鋭く尖っている。なんだかホラー風味。築数分なのに築百年くらいの雰囲気だ。どの辺が雑居ビルなのか、建造コマンドさんとじっくりお話し合いをしたい。


 しかし良く考えてみると、縦に細長く、複数フロアに分かれた構造は類似点が多いのも事実。ビルと塔は、設計理念こそ違えど近しい建物なのかもな。


「魔女の尖塔……。クク……」


 それに、銀髪の病人さんは建てられた塔を見ながらソワソワ落ち着かなくなっているご様子だ。たぶん塔の最上階から遠くを見て、意味もなく「そろそろか……」とか呟きたくて仕方ないのだろう。勝手にやってて欲しい。


「ちょっとボロいがどうだろうティアモーテ」


「え、あ、そ、そうだな! 古臭いな! 私にここに住めと言うのか? 嫌がらせにしか思えん!」


「そっか……。じゃあ他の建物を――」


「ま、待て! く……っ、仕方ないっ! 嫌々だがここに住んでやる! この高さなら、貴様を監視するのにも適しているだろうしな!」


 などと意味不明な供述をしながらも、忙しなく動いてる指先から隠し切れないウキウキ感が漏れ出ていた。いい加減俺も気付いてしまう。ティアモーテは美人だが、分類的には残念カテゴリなのだと。長時間一緒にいると、こちらまで頭がどうにかなってしまいそうだ。機会があれば、監視役のチェンジをお願いしたいところである。


 まぁなんにせよ、本人があの家で良いならそれでいいだろう。銀髪を煌かせながら塔の中へと駆けて行くティアモーテを横目に、俺も自分の馬小屋へと戻ることにする。


 早く寝たい。今日は色々ありすぎた。

 藁に包まると、スッと意識が落ちていく感覚。

 うん。やっぱこれだわ。


 いつの間にか藁布団に馴染んでいる自分に気付いたが、それも悪くないと思い始めている借金神様なのだった。



 ……。



 翌朝。

 この間と同じく掘削機の前に集合した男たちに、俺は給金を配っていた。


 一人あたり半金貨五枚の大盤振る舞い。荷積み作業は二時間くらいで終ったはずだから、時給換算で二万五千円。めちゃくちゃ割りの良い仕事である。半金貨を受け取った男たちは狂喜乱舞していた。


「な、なぁ神様よぉ。本当にこんなに貰っちまっていいのか? 俺ぁ銀貨五枚でも貰えたら、半裸逆立ちして喜ぶくらいのつもりだったんだぜ?」


 思いがけない高額報酬に戸惑っているのは、筋肉マッチョのルクソンだ。でも半裸とか止めろ。誰得だ。


「気にするな。その代わり、これからも手伝って欲しい」


「おぅ! あったぼうよ! なぁ、お前ら!」


 ルクソンが背後に集まった男たちに声を掛けると、運動部を思わせるいくつもの野太い声が「おぉぅ!」と返ってきた。ちょっと暑苦しい。やっぱり俺、文化部でいいや。


 その後、再び掘削作業が始まる。

 ガゴンガゴン、ギギギギギと、大きな音を立てながら掘り出される鉄鉱石。男たちは、それをわっせわっせと貨車に運び込んでいた。


「本当によろしかったのですか鉄太郎様? 半金貨五十枚も配られてしまって」


 控え目に俺の袖を引いたのはパトリエッタである。彼女がここにいる理由は、積み込み作業が終わったら列車に乗り込んでもらうためだ。


 この蒸気機関車は自動運転だし、ルドアート駅に到着すると半日ほど停車して、勝手に戻ってくるように設定してある。だから彼女が乗り込む必要はないんだけど、誰も乗らないってのはさすがに不気味。それに向こうに到着したら、ゴーギオ商会に連絡した方がいいだろう。それもあって、顔の通っているパトリエッタにお願いしたのだ。


「いいんじゃないか? 気持ち良く働いてくれてるみたいだから」


「鉄太郎様がそれで良いと仰るなら良いのですけれど……」


「あぁそうだ。ついでに、ルドアートから酒や食べ物を買ってきてくれないか?」


「お酒や食べ物ですか?」


「うちの天使が村のみんなに心配と迷惑をかけてしまったからな。その侘びと言っちゃなんだが、宴でも開こうかと思ってるんだ」


 謝罪は受け取ってもらえなかったが、これなら受け取ってもらえるだろう。気にするなと言われそうだけど、何か返しておかないと気持ち悪い。

 それに、今後のこともあるからな。心象は良くしておくに越したことはないのだ。


「おい貴様。気前良く金をばら撒いているようだが、借金があることを忘れているんじゃないだろうな?」


 朝から俺にくっ付いている銀髪が、家を建ててもらった恩も忘れて睨んできた。けど若干目の下にクマが出来てる。昨夜はお楽しみだったのだろう。中二病的な意味で。


「分かってるって。これも更に金を稼ぐ為の布石。いわば先行投資みたいなもんだ」


 ティアモーテは意味が分からないらしく、腕を組んで訝しげな瞳を向けてきた。けど俺も、まだ説明するつもりはない。

 お茶を濁しつつ、その場を後にする。


 向かったのは、教会だ。

 重厚な内開きの扉を押し開くと、赤い絨毯が真っ直ぐ伸び、両脇にいくつもの長椅子が整然と並べられているのが見えた。村内の雑多な雰囲気とは隔絶した世界。ラファマエルじゃないが、確かに神聖さを感じる。


 赤い絨毯はそのまま祭壇まで伸びていて、その先にいる黒い修道服を身に纏った皺の深い老人が、驚きとともに俺を迎え入れてくれた。


「普段でしたら、教会にどのようなご用事でしょう? と聞くところなのですが、相手が神様である場合はどうお訊ねするべきなのでしょうかのぉ?」


「普段通りでいいんじゃないか? 神様だって、用事も無しに訪ねて来たりはしないんだから」


「なるほど。然もありなん」


 老人は更に皺を深めながら、俺に長椅子を勧めてくる。


「では改めまして。教会にどのようなご用事でしょう?」


「土地の管理者名簿を見せて欲しい」


 この村の土地を買い占めるためにな。


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